第16話【兎の“述懐”、悪魔狩人の“ヤマ”】


*** ***** ***



「…んて、ダンテ!」


叱咤する声で、ダンテは微睡から覚めた。

アイマスク代りに、顔面に乗せていた雑誌がバサッと下へ落ちる。

彼の視界に映ったのはリーシェ…ではなく、長いブロンドの髪の蒼い瞳をした少女だ。


「なんだ…パティか」

「なんだ、って何よ! レディに向かってその態度、すっごく失礼よ!」


ダンテの言い方が癇に障ったのか、むっとした表情で睨みつけるパティ。


「もぅ! そんなにグータラしていたら、リーシェに愛想尽かされちゃうわよ!」


呆れ交じりでそう怒鳴ると、パティは手にしたモップをバケツの水に浸して、床を掃除し始める。

ダンテは欠伸をして、デスクに足をのせて座ったまま、掃除する少女の後ろ姿を眺める。


この少女…パティ・ローエルとはとある仕事の依頼で出逢った。

まだ赤ん坊の頃に、悪魔に狙われた母親が行方不明になり、孤児院で育ったのだ。

その依頼以降、パティはちょくちょくこの【Devil May Cry】の事務所に通ってくるようになった。


『リーシェがいない間、ずぼらなダンテの世話をあたしが見てあげなきゃダメでしょ!』


というのが、彼女の主張だ。


リーシェとパティは仲がいい。

依頼の際に、パティの身の上話を聞いてリーシェも共感したのがきっかけだ。

時折、彼女の孤児院に赴いて無料で健康診断したり、薬一式を届けているらしい。


『家族か…私も昔、姉さんに会いたくて仕方なかったな…』


ポツリと漏らした言葉。

そこから、リーシェと彼女の姉が如何に強く結ばれているのかが伝わった。



◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇



ダンテは、一度だけリーシェの姉にあった事がある。

それは偶然だった。

悪魔退治の依頼の最中、突然時空に歪みが生じて、別の所に飛ばされた。


『あの…大丈夫ですか?』


見た事のない世界に、頭を悩ませていると…見兼ねたのか声をかけてきくれた女性がいた。

その女性を見た瞬間、思わず「リーシェ!?」と驚いてしまった。

なにせ、髪の色と長さ以外は彼女と瓜二つだったのだから。

リーシェの名を叫んだことで、その女性…コゼットも「もしかして…」と確信した顔を向けてきた。


それから、自分の事とリーシェとの関係を語った。

幸いにも、コゼットは妹からダンテの事を聞かされていたようだ。

初対面にも関わらず、コゼットは親切に接してくれた。


『あの子、貴方の話題をよく喋っていますよ』


笑って語ってくれた事に、ダンテは複雑な顔をせずにはいられなかった。

何故って…?

あの兎仮面が、自分の体裁をよく語っている気がしないからだ。


『悪魔ハンターで名を馳せているようですね』


どうやら、自分の本業も語っているらしい。

コゼットが愛想よく接してくれるので、もしかしたら…短所の部分は敢えて隠してくれたのか、と淡い期待を抱いていた。



『でも、きちんと体調管理をした方がいいですよ。

ピザとストロベリーサンデーばかりだと体を壊します。

あと…失礼を承知で言いますが、借金は返済して、コツコツ貯金をする事をお勧めします』



しかし、認識が甘かった。

途中で、コゼットは真面目な表情に切り替えて、そのように助言…もとい注意してきた。

あいつめ…と内心、舌打ちして苦い顔を浮かべてしまった。

それから、コゼットが色々話してくれた。


…自分が飛ばされたのが異世界である事。

…コゼットがそこでカフェ・レストランを経営している事。

…リーシェも、店にしょっちゅう顔を出している事。


ダンテは改めて実感した。

同居していても、自分には恋人の知らない事がいっぱいあるのだと。

元々、必要な事以外はあまり語らない女だ。

彼女にとって、自分の存在は取るに足らないものなのか…と自虐した。


『妹は…貴方の事を大切に思っています』


そんな思いを見事に玉砕したのが、コゼットのその発言だった。


『なんで…あんたに分かるんだよ』


思わず訊かずにいられなかった。



『あの子は、家族と仲間だと認めた人以外の事は、あまり話さないの。

妹が貴方の事を語る時、どんな顔をしているかご存知?』



コゼットは微笑みながら、言葉を続きを紡いでくれた。


―――“      ”


それは、魔法の呪文のように…。

ダンテの心に深く刻まれた。



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