第16話【兎の“述懐”、悪魔狩人の“ヤマ”】
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「…んて、ダンテ!」
叱咤する声で、ダンテは微睡から覚めた。
アイマスク代りに、顔面に乗せていた雑誌がバサッと下へ落ちる。
彼の視界に映ったのはリーシェ…ではなく、長いブロンドの髪の蒼い瞳をした少女だ。
「なんだ…パティか」
「なんだ、って何よ! レディに向かってその態度、すっごく失礼よ!」
ダンテの言い方が癇に障ったのか、むっとした表情で睨みつけるパティ。
「もぅ! そんなにグータラしていたら、リーシェに愛想尽かされちゃうわよ!」
呆れ交じりでそう怒鳴ると、パティは手にしたモップをバケツの水に浸して、床を掃除し始める。
ダンテは欠伸をして、デスクに足をのせて座ったまま、掃除する少女の後ろ姿を眺める。
この少女…パティ・ローエルとはとある仕事の依頼で出逢った。
まだ赤ん坊の頃に、悪魔に狙われた母親が行方不明になり、孤児院で育ったのだ。
その依頼以降、パティはちょくちょくこの【Devil May Cry】の事務所に通ってくるようになった。
『リーシェがいない間、ずぼらなダンテの世話をあたしが見てあげなきゃダメでしょ!』
というのが、彼女の主張だ。
リーシェとパティは仲がいい。
依頼の際に、パティの身の上話を聞いてリーシェも共感したのがきっかけだ。
時折、彼女の孤児院に赴いて無料で健康診断したり、薬一式を届けているらしい。
『家族か…私も昔、姉さんに会いたくて仕方なかったな…』
ポツリと漏らした言葉。
そこから、リーシェと彼女の姉が如何に強く結ばれているのかが伝わった。
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ダンテは、一度だけリーシェの姉にあった事がある。
それは偶然だった。
悪魔退治の依頼の最中、突然時空に歪みが生じて、別の所に飛ばされた。
『あの…大丈夫ですか?』
見た事のない世界に、頭を悩ませていると…見兼ねたのか声をかけてきくれた女性がいた。
その女性を見た瞬間、思わず「リーシェ!?」と驚いてしまった。
なにせ、髪の色と長さ以外は彼女と瓜二つだったのだから。
リーシェの名を叫んだことで、その女性…コゼットも「もしかして…」と確信した顔を向けてきた。
それから、自分の事とリーシェとの関係を語った。
幸いにも、コゼットは妹からダンテの事を聞かされていたようだ。
初対面にも関わらず、コゼットは親切に接してくれた。
『あの子、貴方の話題をよく喋っていますよ』
笑って語ってくれた事に、ダンテは複雑な顔をせずにはいられなかった。
何故って…?
あの兎仮面が、自分の体裁をよく語っている気がしないからだ。
『悪魔ハンターで名を馳せているようですね』
どうやら、自分の本業も語っているらしい。
コゼットが愛想よく接してくれるので、もしかしたら…短所の部分は敢えて隠してくれたのか、と淡い期待を抱いていた。
『でも、きちんと体調管理をした方がいいですよ。
ピザとストロベリーサンデーばかりだと体を壊します。
あと…失礼を承知で言いますが、借金は返済して、コツコツ貯金をする事をお勧めします』
しかし、認識が甘かった。
途中で、コゼットは真面目な表情に切り替えて、そのように助言…もとい注意してきた。
あいつめ…と内心、舌打ちして苦い顔を浮かべてしまった。
それから、コゼットが色々話してくれた。
…自分が飛ばされたのが異世界である事。
…コゼットがそこでカフェ・レストランを経営している事。
…リーシェも、店にしょっちゅう顔を出している事。
ダンテは改めて実感した。
同居していても、自分には恋人の知らない事がいっぱいあるのだと。
元々、必要な事以外はあまり語らない女だ。
彼女にとって、自分の存在は取るに足らないものなのか…と自虐した。
『妹は…貴方の事を大切に思っています』
そんな思いを見事に玉砕したのが、コゼットのその発言だった。
『なんで…あんたに分かるんだよ』
思わず訊かずにいられなかった。
『あの子は、家族と仲間だと認めた人以外の事は、あまり話さないの。
妹が貴方の事を語る時、どんな顔をしているかご存知?』
コゼットは微笑みながら、言葉を続きを紡いでくれた。
―――“ ”
それは、魔法の呪文のように…。
ダンテの心に深く刻まれた。
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