第15話【表裏一体】
コゼットが、ムーンライトの厨房で明日の仕込みをしていた。
その最中、携帯の着信音が鳴る。
名前をみると…妹からだった。
「はい、リーシェ。そっちは大丈夫」
『ええ、ぼちぼち』
「どうしたの? 何か疲れている感じだけど…まさか…念能力を使いすぎてる?」
『いーえ、そういうのじゃないですよ』
その声から、リーシェがどんな顔をしているのかなんとなく想像できた。
どこか遠い目をしている気がする。
『うーん…予想通りの人と予測外の人が“リア充”してて』
「えっ?」
『あー…いやいや、こっちの話です。ところで、そっちの方は?』
「今の所、旅団らしき人は店に来ていないわ」
『そうですか…ありがとうございます』
「ねぇ、リーシェ」
リーシェが電話を切ろうとしたのを感じ取ったのか、コゼットは言葉をかける。
「…リーシェ、私に何か言う事あるでしょう」
『すみません。今回、幻影旅団がエクレシアに興味を抱いてしまったのは、間接的に私が…』
「ううん、それはいいの。もっと別に…私や母さんに何か隠している事があるでしょう?」
リーシェはきゅっと唇を噛む。
本当は…あまり言いたくなかった。
でも、この人には嘘は通じない。
いや…自分の考えている事はお見通しなのかもしれない。
『姉さんには…敵わないな』
…当たり前か。
この人と“私”は―――二人で『ひとつ』なのだから。
【表裏一体】
瓦礫が散乱している古びた工場跡。
そこは幻影旅団の根城の一つでもある。
「…シズクとは携帯が繋がらねえ」
独特の風貌の巨体の男、フランクリンは他の団員達に報告していた。
「途中で、標的のエクレシアの傍にいた変な仙人に邪魔されちまって…
シズクだけ、標的を追って行ったんだ」
そう途中まで順調だった…シズクと普賢を狩る寸前で、彼の親友である太公望の策により、二手に分断されてしまった。ようやく追いついて、普賢が、移送方陣でどこかへ移動する瞬間に、シズクが飛び込んで一緒に消えてしまったのを目撃した。
何度も、携帯で連絡するが繋がらない。
「すまねえ」
「謝る事はない。また、こちらで普賢真人とシズクが向かった可能性のある世界を探してみよう」
クロロは冷静な口調でそう言うと、他の団員に別の指示を出していく。
三人が出かけていき、アジトに残ったのはクロロ、ウボォーギン、フランクリンの三人だ。
「なぁ、団長…」
「どうした? フランクリン」
「これで、本当に…リーシェの奴が蜘蛛に来るのか?」
フランクリンは、前々から思っていた疑問をぶつけた。
エクレシアを結晶華にして、蜘蛛の手中に収める…そうする理由はいくつかある。
単純に、金銀財宝の類として愛でるだけではない。
結晶華は、その元となったエクレシアの力も込められており、使い方によっては強力な武器やアイテムにもなる。
異世界と言う未知なる舞台へ足を踏み入れる手段を獲得したのだ…これからの仕事に大いに役立つだろう。
そして、他のエクレシア達を抹消する事で…リーシェは《居場所》がなくなる。
住処を失い、孤独になった兎はいずれ朽ち果ててしまう。
そうなる前に、新たな『居場所』を与えてこちらへ迎え入れるのだ。
そうだ、彼女を“本来、いるべきところ”へ戻すのだ。
「なーに言ってんだよ。リーシェが他の組織に入る前に蜘蛛に引き入れりゃ問題ねぇだろ!」
「そういう意味じゃなくてだな…」
ウボォーギンが笑いながら言った事に対して、意味が違うと訂正しようとしたフランクリン。
その時、書物から目を離したクロロが口を開いた。
「来るさ。例え来なくても…俺が迎えに行く。
――― 邪魔する奴らは消すだけだ」
何時になく強い口調で主張した。
そうこなくちゃっな~、とウボォーギンもやる気満々に腕を回す。
フランクリンは、そうか…と返事をするものの、内心は別の疑問をぶつけていた。
(クロロ……盗賊としての心意気は解る。
けどな…幼馴染として、一人の男として、その判断は正しいのか?)
けれども、彼はそれを声に出さなかった。
一個人よりも…蜘蛛の方針を優先したから。
仮に、その問いかけをしても、クロロは己の意志を曲げない…と強く確信していたからでもある。
(なぁ、リーシェ……お前はどうするつもりだ?)
此処にはいない、もう一人の幼馴染であり、本命である標的に…フランクリンは静かに語りかけた。
【つづく】
・
