第15話【表裏一体】
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「あっ、本当だ。デメちゃんがでない」
シズクは、真顔で両手をぐーぱーしてその言葉を発した。
当初は、全身が動かせない程の発熱に苦しんでいたが、今はほぼ完治したようだ。
しかし、幻影旅団の一員と言う素性が知れ渡った事で、城内では騒然となった。
「すぐに地下牢へ移動させるべきだ」という主張もあったが、病み上がりの女性を気温の低い場所へ閉じ込めるのは酷だという意見が多数上がったため、客室での軟禁という処置におさまった。
「すみませんね…念は使えないのでご了承ください」
一番厄介なのは念能力だ。
この世界にはないイレギュラーな力であり、なおかつシズクが盗賊という立場から、他者を傷つける可能性を考えた上で、リーシェが封印した。
「念には“念”で対処しないとね…」
肘掛椅子に座っているリーシェ…その片手に白い本があり、開かれている。
彼女の念能力―――【忠告する診療記録(オーダーリングカルテ)】
本に記載された対象者に干渉する能力であり、その効果の一つとして念能力を封じる事が出来る。
シャルナークの念能力もこれで封印しているので、リーシェが解除しない限り、二人は能力を使用できない。
「…体調はどう? シズクさん」
「うん。問題ありません」
シズクは嫌な顔一つせず、リーシェの質疑に応答する。
どうやら、この子は目上には礼儀正しいようだ。
「ところで…ここどこですか?」
「(あれっ…?)…普賢さんから聞いてなかったんですか?」
「此処は、リーゼ・マクシアの首都、カン・バルクのガイアス城だよ」
まるでタイミングを合わせたように、普賢が扉を開けてやってきた
…出来たてホカホカの粥を乗せたお盆をもって。
あっ、普賢さん…とシズクが彼の方に顔を向けた。
はて…顔見知りなのが影響しているのか、少し声のトーンが上がった気がする。
「お腹すいたって言ってたでしょう? 料理長さんに頼んでお粥をつくってもらったんだ」
「ありがとう」
シズクは懐疑する事無く、普賢の好意を素直に受け取る。
二人の間に、妙にほわーんとした穏やかな空気が漂っているのは…気の所為じゃない。
(…聞くのは後にしよう)
今、余計な質問をするのは野暮だ。
そう結論付けて、リーシェは和やかな空気に包まれた部屋を一旦出ていく事にした。
客室を出て、長い廊下を歩いていると曲がり角で話声が聞こえてきた。
角の影に隠れて、その方向を見ると…カナンとこの城の主、ガイアスがいた。
「…すまない」
「なんで謝るの?」
申し訳なさそうに、ガイアスは謝る。
彼のその態度に関して、不思議そうに尋ねるカナン。
「カナン…俺は一国王として、お前が事件の究明をする事を許可した」
鋭利な紫がかった赤い瞳が、カナンをとらえる。
視線を交えると、大抵の人は恐怖で竦み上がりそうだが、カナンは普通に彼と目を合わせている。
「だが、一個人として…“アースト”としての俺は反対だ。危険な事に巻き込みたくない」
切な思いを込めた声で言うと、ガイアスはカナンを抱擁した。
たくましい腕を腰に回して、カナンに目で訴える。
「俺は、お前に…」
「アースト」
ガイアスが言葉を紡ごうとしたその口に、カナンは人差し指を押し当てて、首を左右に振る。
「それ以上言ってはダメ。貴方には貴方の…“やるべき事”があるでしょう」
「…それは…」
「貴方の気持ちは嬉しい。けれど…これは私の覚悟。“やらなければならない”事なの」
「カナン…」
ガイアスが憂いを含んだ表情で見つめると、カナンは優しく微笑みを浮かべる。
「私は死なない。ガイアス、貴方との“約束”は守るから…」
「……必ずだ」
…二つの影が寄りそうように一つになる。
その様子を眺めていたリーシェは、空気を読んで踵を返してその場から離れた。
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