第14話【Trend of everybody】


 カチカチ カチカチカチ…



普賢は、ベッドに座って宝貝(パオペエ)を操作しながらデータをまとめていた。


「…よし、データ登録完了」

「…まとめてたの?」


聞こえてきた声に、普賢は肩越しに後方をみる。

隣のベッドで眠っていた『彼女』が瞼を開けてこちらを見つめていた。


「あ、おはよう。シズクちゃん」

「……」


意識が戻ったシズクに、普賢はふわりと笑いかける。

仮にも命を狙おうとした暗殺者に対して、無防備すぎる程のおちつきだ。

シズクはゆっくりと上半身を起こした。

辺りを見回して、額に人差し指を添えるようにおいて小首を傾げる。


「えっと…普賢さんをあの雪の高原で捕まえたんだよね…」

「うん…でも、君は倒れてしまった」


普賢の言葉を聞いて、シズクの脳裏に、その時の映像がフラッシュバックする。


「そっか…あの時、気分が悪くなって急に眠たくなったんだ」


シズクは、思い出したように静かに呟いた。

すると、ピタッと額を覆われる感触が…。


「普賢さん?」

「うん、熱は引いたようだね」


普賢が、掌を彼女の額につけて熱が引いているかどうか確認した。

「お腹すいてる?」と問いかけると、シズクは腹部に手を当てて小さく頷く。


「ちょっと待ってて、準備してくる…」


普賢は言葉を言いかけた瞬間、目の前の視界がぐるりと反転する。

ボスッと柔らかな音を立てて、普賢は背中から倒れ込んだ。

正確に言えば、シズクに押し倒されてベッドに仰向けになっていた。


「シズクちゃん、病み上がりなんだから無理しちゃダメだよ」


白く細い首にシズクが両の手をかけている。

まだ、首元に手を添えているだけだが、力を込めれば間違いなく窒息するだろう。


「…逃げないの?」


このまま殺されてもいいの…? と暗に問いかけられている気がした。

普賢は静かに瞼を閉じて、唇を動かした。


「好きなようにしていいよ」

「…変な人」


シズクはそう呟くと首から手を離す。


「いいの? 僕を殺すチャンスだったのに…」


普賢は上半身を起こして問いかける。


「うん。なんか…」


シズクは少し眉を寄せる。

目の前に標的がいる―――その人は無抵抗で念を使わなくてもいとも容易く殺れる。

でも…内にある声が囁いてくる。


  “ ダメ ”


否定の言葉。

殺さなければならないのに殺したくない。

なんで、こんな気持ちになってしまうのか…?

上手く表現できなくて、胸のあたりがむずむずしてもどかしい。


「…よく解らないけど、“違う”気がするんだ」


答えも曖昧になってしまう。

いや、そう答えざる負えないのだ。


「そう…じゃあ、僕は君に“救われた”んだね」

「救う? 私が普賢さんを…?」


シズクは不思議そうに問い返す。

普賢は嬉しそうに「うん」と頷く。


「それって、どういう意味なの?」

「ふふふ、ナイショ」


唇に人差し指を添えて、普賢は笑いながらはぐらかす。

シズクはその意味を追求しなかった。

尋ねたとしても答えてくれそうにない。


それに…普賢と会話しているこの一時が居心地よかったから。



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