Bitter rabbit


賑やかな夜だった。

年に一回、行われる夏のフェスティバルで町はいつも以上に人だかりができていた。

無数にきらめくネオンと、たくさんの人混みを高いビルの頂きから見下ろす一人の女性。


「…はぁ、張り合いのない仕事だった」


吹きつける風により、着用している白衣が宙を舞う。

設置されている鉄格子の上を両足で器用に立っている。

奇妙なウサギの仮面を顔に纏い、肩まである栗色の髪を靡かせて、彼女…リーシェは片手で携帯をいじっている。


「はい…送信っと」


メールを送信して、白衣のポケットに携帯をしまいこむ。


「…気持ちいい」


冷気を孕んだ外気が頬を刺激する。

一仕事した後で、高層建築物の上で景色を眺めるのがリーシェにとって、一つの楽しみとなっている。

無機質な人工物に囲まれた都会の風景…それらを見下ろすように広がる闇色の夜空と、存在を誇示する月。


不気味に輝く満月を見つめるリーシェ。

その背後に忍び寄る…巨大な二つの影。

黒いローブを被り、髑髏の風貌をした異形の者達だ…巨大な鎌を構え、獲物目掛けて一気に振り下ろした。



―――キンッ…ガッ!


「人が折角いい気分浸ってるのに、空気を読めないんですかね…」


つい先程までいた鉄格子にいたはずのリーシェは、異形の者達の後方へ移動していた。


「キサマ…イツノマニ…」

「まあ、年柄年中、空腹と血に飢えている悪魔にそれをお願いするのは愚問って話か」

「グッ…」


―――ブシャァアアア!


悪魔二匹は次の言葉を紡ぐ事はなかった。

全身から血飛沫を出して、物言わぬ肉塊へと早変わりしてしまう。

リーシェは、それを一瞥しながら、聞き手に握りしめていたメスの刃先をペロッと舐める。


「この味は、中級レベルの悪魔か。ま、美味くもないけど…」


ハンカチで、メスについた血液を拭いとっていると、周囲に蠢く複数の気配に気付く。

次元が歪み、次々と悪魔が姿を現す。


「エクレシアノ血…」

「ウマソウナ、オンナダァぁああ」


「今日は、人だけじゃなくて悪魔も祭りで浮かれているみたいですね」


一斉に襲い掛かる悪魔の群れ。

四方八方から取り囲まれ、最早逃げ場がなく哀れ餌食にされてしまったように見えた…が…。



―――ブシャッ、バシュッ、ブシュゥ!


一瞬の出来事だ。

取り囲んでいた悪魔の身体に横斜めと一線が生じ、ボロボロと細切れになったのだ。


「フフッ…派手なパーティになりそうだ」


仮面で素顔は見えないが、彼女の表情は至極愉快で…エメラルドグリーンの目を爛々と光らせていた。




【兎は踊る】




―――バシュッ、ブシュッ


輝く月明かりに照らされ、一つの人影が闇に蠢く魔物達を瞬殺していく。

飛び交う血の嵐を一心に受けながらも、白衣の狩人は舞台を―――もう一つの“フェスティバル”を華麗に盛り上げる。


「リーシェの奴、大暴れしてるじゃねえか…羨ましいぜ」

「動いちゃダメだよ、ウボォー」


その異様な舞台を、別の建物から複数の人物が観察していた。

闘争本能から、うずうずと戦いに参加したがる大男を、金髪の爽やかな好青年が諌める。


「…にしても、やっぱ戦っているあいつの姿は目を惹かれるな。団長」


侍の格好をしている男が、顎を擦りながら話を振ると…


「ああ、そうだな」


黒い髪をオールバックにして、額に逆十字架の刺青のある青年はそう呟く。

恍惚とした視線をリーシェに向けながら…。





【つづく】

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