第13話【Objective reconfirmation】


だからこそ、この場にいるほとんど…いや城内の人達は、カナンが自ら危険な任につく事を望んでいない。

もし、カナンの身に何かあれば…政治的にも、精神的にも多大なダメージを被る事になってしまう。

王が形式契約を交わした時点で、彼女を一時的にエクレシアの立場から離れさせる事はできないかと、従者の一人が彼女の同族に懇願した事がある。

しかし、彼女の同族―――エクレシアのまとめ役であり、銀の髪の青年はそれを一蹴した。



『一度、エクレシアになれば、輪廻転生しない限りその責務を全うしなくてはならない。

…カナンにその義務を捨てさせ、“人の道”を強要する事は、彼女が今までやってきた事を否定するのと同じだ。

彼女が身を粉にして紡いできた「もの」を…あなた方は無残に踏みつぶすつもりか?』



怒りと失望交じりの声で言われてしまい、誰もが口を噤んでしまった。

そのまとめ役の言う事は尤もだ。

国と民に求められているとはいえ、それはあくまで彼等の個人的な欲求にすぎない。

実質、契約者である王でさえも、エクレシアに協力を要請する事はできても“国と民を永遠に守れ”と指図できる権限はないのだから。


「プレザさん、ありがとう。でも…私は重大な問題に目を背ける訳にはいかないの」


カナンは、契約者である王…ガイアスに目を向ける。


「陛下…どうかご理解ください」


真剣な表情で訴えるカナンに対し、椅子に座り、無言を貫いてきたガイアスは口を開いた。


「よかろう」

「陛下!」


ウィンガルは声を荒げ、主君の名を呼ぶ。

ガイアスは緩慢に被りを振ると、カナンを真っ直ぐ見つめる。


「カナン、お前の為すべき事をやれ」

「…ありがとうございます」


彼の回答に満足したように、カナンは口元を緩めて感謝の言葉を言った。



◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇



「そっか…加奈ちゃんとアンジールさんは無事だったんだね」


普賢は安堵したように小さく呟く。

彼は柔らかいベッドにうつ伏せになり、背中からエクレシア特有の光翼を広げている。

蜂蜜ににた琥珀色のその羽は、片方の三枚が蜂の巣になっていた。


「うわぁ~、こりゃすごい…穴だらけですね」

「うん、シズクちゃんと一緒にいた大柄の男の人にね、攻撃されちゃってこのようになっちゃいました」


背中に当たらなかったのが幸いだったよ、と朗らかに笑いながら普賢は言う。

いくら痛覚がないとはいえ、羽をボロボロにされた事自体、大丈夫とは言えない気がするが…。

そう思いながらも、リーシェは口には出さずに羽の治療を施していく。


「その大柄の男って、もしかしてフランケンシュタインっぽい人相じゃありませんでした?」

「うん、そうだった…シズクちゃんは『フランクリン』って呼んでたよ」


それを聞くと、リーシェはああ、やっぱりあの人か…と呟きながら、羽に調合した薬を塗っていく。


「すみません」

「ん? なんで謝るの?」

「現在、私を含めるエクレシアを襲撃している賊が、私の昔馴染みの人達なので…」


幻影旅団が、どこでエクレシアの存在を…その立場や結晶華の事まで深く知りえたのかは不明だ。

しかし、自分が彼等と不覚にも接触してしまった事があったので、それが間接的な要因になったかもしれない。

自分ならまだしても、関係のない仲間にまで危害が加わる―――それを見過ごせる程、冷淡にはなれないのだ。


リーシェのそんな気持ちを察したのか、普賢は小さく頷いてこう言葉を続けた。



「確かに、昔馴染みの人達と接触してしまったのはまずかったかもしれないね…。

でも、旅団がエクレシアを狙うのは、あくまで彼等の営利目的であって…君に非はないよ、リーシェさん。

それよりも、旅団がこれ以上被害を出さないようとめる事に重きをおくべきだよ」



そう思わないかい? と穏やかな口調でふられた。

リーシェは「そうですね…」と溜息交じりに彼の言葉に頷いた。



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