第13話【Objective reconfirmation】


外は相変わらず吹雪いている。

雪を諸に浴びて、全身が冷凍したように感覚がなくなっていた。

だが、足先からぽぅ…と柔らかいベールに包まれていくみたいに、暖かさが身体にいきわたっていく。


「おっ、目覚めましたか」


普賢は薄らと目を開けると、見覚えのある人物がいた。

普段はうさぎの仮面で姿を隠している…リーシェだ。


「…やぁ、久しぶりだね」


微苦笑してか細い声で挨拶する。

上半身を起こそうとするが、力が入らない。

猛吹雪で荒れるモン高原からカン・バルクまで薄い防寒具のみで一直線に歩いてきたのだから、無理もないが…。しかも、人ひとり背負っていたのだから、普賢にとってはかなり負担になった。

普賢はハッとある事に気付く。


「彼女は…どこに…」

「そこにいますよ」


リーシェが指さす方向に目を向けると、隣のベッドに横たわる“彼女”の姿が見えた。

ほっとした…。


「彼女とは…“親しい”仲なんですか?」


安堵の表情を浮かべていると、リーシェが尋ねてきた。


「うん…。僕個人は仲良くなりたいと思ってるよ」


その含みのある言い廻しに対して、普賢は微笑みながら答えた。



◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇



「王妃様、どうかお考え直しください」


王の書斎にて、王の従者の一人が発した言葉。

しかし、真剣な表情を崩さないカナンは腕を組んではっきり断言した。


「いいえ、決めました」


あと、私王妃じゃないのでその呼び方やめてください、とカナンは付け加える。



「幻影旅団の一件は、既に世界の枠を超える問題と化しています。

何故、彼等が世界を渡る術を用いるに至ったのか…

私はエクレシアとしてその謎を解明し、彼等の蛮行を防がなければなりません。

それゆえに、私はリーシェさんに同行するつもりです」


「賊の狙いは、エクレシアの結晶華…貴女の命も狙っているのよ。

次期王妃を危険な目に合わす訳にはいかないわ」



王の側近の一人、プレザは断固反対した。

彼女だけではない…周りにいる他の側近や従者たちも同じ気持ちの様だ。


リーゼ・マクシアは、現在もさまざまな問題を抱えている。

国内の統治もだが、2000年の間、閉ざされていた外の世界『エレンピオス』との外交、テロ組織アルクノアへの対策…など。統一国家になったとはいえ、その基盤はまだまだ不安定だ。

統治者である王と契約を交わして一年―――カナンは多忙な彼を支えるために、尽力してくれた。


中でも、外交面では大いに貢献してくれた。

長年、鎖国状態にあったリーゼ・マクシアにとって、エレンピオスとの国力の差は問題の種でもある。

そんな難題に解決の糸口を見出してくれたのが、カナンだった。

一年前…両国を脅かした【大事件】の犯人を倒した功労者の一人であった事から、エレンピオスでも知名度が高い。

事件の折に、知り合った政府関係者とも親しくなった事もあり、外交面で不利になりがちなリーゼ・マクシア側に比較的有利に事を進めてくれた。


さらに、カナンは福祉にも力を注いだ。

先の侵略戦争の際、両国とも多大な損害を蒙った。

戦で生じた戦災孤児の施設を開設したり、戦時中に職を失った人々のために仕事の斡旋場を提供。

また、稼ぎ出を失った家庭に手厚い保障制度を設ける等、大きな政府では疎かになりがちな問題に徹底的に着手した。勿論、それらを独断でやった訳ではなく、契約者である王と、宰相二人とも念密に話し合った上でのこと。

彼女は必要な時以外は余計な口出しはせず、あくまで契約者をサポートする影の役割に従事した。

そのため、保守派の官僚達からも反発はあまり無く、徐々に彼女は一目置かれるようになった。


自身の能力に過信する事無く、他者の意見も有益であれば取り入れていく柔軟な思考。

黎明王並の大胆な行動力を備えている上に、異国人と渡り合うレベルの交渉力と話術。


“彼女がいなければ、リーゼ・マクシアはたくさんの不平等な条件を強いられていただろう”


周囲がそう評するように、公私ともども、カナンは王の実質的なパートナーの地位を確立していた。

まだ、補佐役という立場にあるけれども、近い内に王妃として嫁ぐ事は確実だ。

気付けば、城に仕えている者は勿論、リーゼ・マクシアの民の間でも、カナンは王同等に人気を博する《存在》となっていた。



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