第8話【誘因】
シュッ キンッ
リーシェは咄嗟に腕をひっこめて、もう片方の手に持っていたメスでその攻撃を受け止めた。
彼女とシャルナークの間に強引に入りこむ形で、立ちふさがったのは黒いマントを纏った鋭い眼光の小柄の男性。メスの刃とギチギチと拮抗しているのは刀。
キンッ
間合いを取るため、後方へと引き下がる二人。
「リーシェさん、傷が…」
「ん? ああ…問題ないよ」
リーシェは、先程ひっこめた腕に若干の切傷を負っていたが、心配するカナンに大丈夫だと言うと、すぐに回復魔法を施して癒す。
「久しぶりだね。おチビのフェイ」
「まだチビ言うか。相変わらずむかつくヤツね、おまえは」
リーシェは、懐かしそうに眼前の男性の名を口にする。
男性は、チビと言われるのが嫌なのか細い目をさらに鋭くする。
「フェイタン」
シャルナークが、不機嫌そうな顔で彼の名前を呼ぶ。
「なんで此処にいるんだよ。
フェイタンは、フィンクスと『アンジール』を狩りにいく担当だろう」
「なんですって…!」
友の名が出た瞬間、カナンは顔に怒気が漂う。
「シャルは、こいつに甘いから逃げられる可能性あるね。
だから団長、ワタシにこそり尾行して手伝え…ていてたよ」
「ハァ…そんなことしなくても、俺はちゃんとリーシェを連れていくつもりだったよ」
「どうだか…現に脅されてたね。さがてるよ。ワタシがやるね」
「フェイタン!」
「安心するね。こいつは殺らないよ。
その代わり、後ろの女はあとでワタシのおもちゃにするね」
口元を隠しているが、目の動きから薄らと口端をあげているのだろう。
ぶるっ…と微弱な悪寒を感じつつ、カナンは双剣を取り出して気圧を込めて威嚇する。
再度刀を構えるフェイタン。
しかし…二人と対照的に、リーシェはメスをしまい、腕を組んで彼を見つめる。
「何故武器しまうね、舐めてるか?」
「いや…違うよ」
「どういう意味ね…」
リーシェの態度に苛立ちと覚えるフェイタン。
シャルナークも不審に感じるが、すぐにハッとした表情で地面に目を向けた。
いつの間にか、自分達を取り囲むように地面に三本のナイフが刺さっていた。
「フェイタン!」
仲間の声に、フェイタンは瞬時に移動する…
同時に、地面に刺さっていたナイフが発光して直線を結んでいき、三角形の陣が出来上がる。
その範囲にいたシャルナークは、足裏が地面に張り付くように動けなくなってしまった。
「…しまったっ」
「シャル!」
「うまくいったようですね」
突如、聞こえてきた第三者の声。
年を重ねただろう落ち着きのある男性の声音に、カナンは心当たりがあった。
振り返ると、岩陰からスーツを纏った老紳士が後ろに腕をまわしてにこやかにほほ笑んでいた。
「ローエンさん…!」
「ご無沙汰しております。カナンさん」
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