第8話【誘因】
旅立とうと決意したのは12歳の頃だ。
流星街…生まれ育ったこの町から離れるのは初めてではない。
幾度となく、タカフミに連れられて外の【世界】を廻った事もある。
けれども、育ててくれた養い親は“この世界”にはもういない。
あの日…タカフミに拾われた、ゴミ山の片隅で、リーシェは夜空を見上げていた。
光り輝く数多の星を眺めるリーシェは、これまでの記憶を回想する。
この5年間、色んな事があった。
そんな数多の出来事の中で、コゼットと自分自身との関係性が一番驚くべき事だったかもしれない。
私は、コゼットの【ノーバディ】。
ノーバディは、いずれ消えゆく、存在しないもの。
そんな私を…コゼット、いえ…姉さんは受け入れてくれた。
己の存在意義を未だに問い続ける事もあるけれども、姉さんが…タカさんが…【私】という存在を認めてくれただけで十分だ。
そして、私はある『目的』を果たす為に、住み慣れたこの町を去ろうとしている。
「行くのか?」
不意に呼びかけられ、振り返ると…そこにクロロがいた。
「うん…やらなきゃいけない事ができたから」
リーシェは迷いのない目で答えを返した。
その瞳の奥底に、沸々と煮えたぎる感情が見え隠れしている…。
クロロもまた、すべて知っていた。
リーシェの【真実】を…。
あのタカフミの【正体】を。
そして…彼女がこれから為すだろう所業も。
「じゃあね」
リーシェは薄らと笑みを浮かべて、小さく手を振ってゴミ山から降りていく。
「リーシェ!」
クロロが名を呼んだ。
リーシェはピタッと歩を止める。
「いつか迎えに行く」
「……お断りだね。厄介な事に巻き込まれるだけだから」
クロロからは、彼女の表情は解らない。
けれども…
声の調子から、構うなという“拒絶と”、危険な目にあわしたくないという“配慮”の相反する二つの念が込められている気がした。
「……いくよ、必ず」
振り返る事無く、過ぎ去っていくリーシェ。
その背中を見つめていた幼馴染の呟きは、彼女には届かなかった。
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