第5話【能力覚醒】


いつものように、物資を取りにいった時だった。

袋をずるずると引き摺って、見慣れたゴミ山が間近に見えてきた時、全身が硬直した。


「――――!?」


背中に刃物を肉薄させられる感覚だ。

穏やかでない…敵意に満ちた、不穏で張り詰めた空気が漂っている事を肌で感じたのだ。

書物で見た事がある…これが“殺気”というものだと解った。

リーシェは、物陰に隠れて殺気が放たれているその現場をみた。


「ひぃ…ふぅ、み、結構な数のガキがいるな」

「中には上玉もいるじゃねーか…こりゃ高値で売れそうだぁ」


大柄で下品な面構えをした複数の男達。

武器を持って、向かい側にいる子どもを厭らしい目付きで品定めしている。


タカさんから聞いた事がある。

流星街にいる住民は、基本的に社会から抹消された戸籍をもたない人達がほとんどだ。

そのため、裏社会から能力を有する人材を派遣する代わりに、大量の物資と交換する蜜月の相互関係を築いている。けれども、中にはそれを隠れ蓑にして、子どもや女性を狙って攫い、人身売買する奴らもいるらしい。

多分、あの男達がそうなのだと瞬時に察した。


向かい側にいるのは…クロロ達だ。

親しい子達がガタガタと小刻みに震え、泣きじゃくっている。

中には、殴られたのか、頬にあざができたり、倒れている子もいた。

シャルとマチが、その子達を宥めている中、たった一人、クロロが男達を睨みつけ、威嚇していた。

…殺気をだしている奴は、彼だった。


その殺気に怯む者もいたが、戦闘慣れしているのか主犯格は飛び交う蝿の如く、平然と受け止めていた。


「はん、《念》が使えるようだな」


主犯格の男は、クロロを嘲りを宿した目で見下ろす。


―――シャッ


その男の頬に一線が走り、直後、鮮血が滴り落ちる。

クロロが片手に握っているナイフに血がついている…それで、男を斬りつけたのだ。

男は自らの頬を指先でなぞり、己の血を見た瞬間、血相を変えたように目にもとまらぬ速さでクロロを殴り飛ばした。


「このガキぃいいい、俺の頬を傷つけやがってっぇえええ!!」


子ども相手に大人げないくらい、男はクロロを足で蹴る。

クロロは一方的に蹴られているにも関わらず、泣きもせずに、男の足にかぶりついて反抗する。


「シャル、マチ、その子達を連れて逃げろ!」

「で、でも…クロロは…」

「シャル! 今は逃げるんだ!」


大声でそう合図すると、シャルナークは躊躇するが、マチは他の子達を誘導して逃がそうとする。


「お前ら、ガキは一人残さず逃がすな!」


しかし、主犯格がそれを逃すわけがなかった。

他の男達が、逃げようとする彼等をすかさず捕えていく。


「あ…あああ…」


私は、あまりの光景に言葉を失い、立ち尽くしていた。

何故だろう…解らない…けれど、私は『似たような場面』を目の当たりにした事があった。



*** ****** ***



――――ザァアアア…


脳内に流れる砂嵐…映し出される映像。

降りしきる雨…森の中…。


銀髪の男が真っ黒な化け物を従えて、一人の男を一方的に痛めつけていた。


『貴様が……私の【マリエル】を奪ったんだ!』


長い黒髪…の剣士は、地に伏してしまう。

すると、一人の女性が彼を守る様に両手を広げて立ちはだかる。


『…このヒトを傷つけないで…お願いします』


この人は…あの子のお母さんだ。

倒れているのは…あの子のお父さん。


なら…今、私と同じこの光景を見ているのは―――『あの子』


『―――コゼット、逃げろ!』

『あ…あああ……』



*** ****** ***



「リーシェ…!」

「リーシェ、逃げるんだ!」

「早く…捕まっちゃう!」



…同じだ。

あの時と…あの光景と…。

―――『あの時』?

―――『あの光景』?


私は、あの親子の凄惨な事件の現場にいなかったはずなのに…。


「ほーら、いい子だ。おにいちゃんたちといっしょにこようねぇ~」


あの子は『コゼット』

私は…『リーシェ』

でも…なんで、あの子は―――私と顔が同じなの?


解らない…わからないわからないわからないわからないわからない


あの銀髪の男は…誰?


知らない…しらないしらないしらないしらないしらないしらない


現実と脳裏にフラッシュバックする『映像』が交互に入り乱れ、私を混乱と恐怖に陥れる。


目の前に近づいてくる野蛮な男。

あの映像にいた恐怖の対象と…重なり合った。


「うっ…ぁあああああ!!


次の瞬間、周囲が眩い光に包まれて、私の意識はブラックアウトした。





【能力覚醒】





30分後、騒動をききつけた流星街の住民は、唖然とした。

前々からマークしていた外からやってきた人身売買のブローカーが、子どもを攫おうとしているとの情報が流れ、即座にゴミ山へ駆けつけた。

だが…そのブローカーは、主犯格を含めて全員、物言わぬ亡骸と化していた。


無数の氷の刃に貫かれて、中には氷漬けにされて絶命している者もいた。

被害者である子ども達は無事だった…。

すると、その中の一人、クロロが駆けつけてきた大人の一人に気付いてこう叫んだ。



「誰か…誰か、この子を助けて!」



彼が抱きかかえていたのは…青白い顔で意識がないリーシェだった。




【つづく】

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