第2章:人には【光】と『影』がある
「成程ね。そういう仕事か。葬儀屋は『表の仕事』という訳ね…いくらだい? その情報は」
劉が口にした言葉に、葬儀屋はピクッと反応して、素早くずずずいっと詰め寄った。
「小生は女王のコインなんかこれっぽっちも欲しくないのさ」
急接近してきて、自らの対価はお金でない事を主張する葬儀屋に、劉はビクッと震える。
それを見ていたアンジェリーナとセリアもまた、彼の行動を見ながら「うわっ…」と顔色を青ざめて引いてしまう。
葬儀屋はぐりんと首を動かし、視線をシエルへ狙い定めると、今度はシエルへ近づいていく。
「さあ、伯爵…小生に‟あれ”をおくれ…極上の《笑い》を小生におくれ…!!
そうしたらどんなことでも教えてあげるよ…!!」
ハァハァ…と頬を紅潮させながら愉悦をはらんだ笑みを浮かべて言う葬儀屋。
意外な対価に、アンジェリーナ達は呆然となった。
「変態め」とドン引きした顔でそう言い放つシエルに対し、葬儀屋は自分の世界に浸ってるようで全然応えていない。
「伯爵、そういうことなら我にまかせなさい」
すると、劉が自信ありげに前へ出てきた。
「上海では“新年会の眠れる虎”と呼ばれた我の神髄…とくとごらんあれ!!」
率先して、葬儀屋を笑わそうと意気込んでいる劉。
果たして、どんな方法で笑わせるつもりだろうか…?
「ふとんがふっとんだ」
「……」「……」
「……」
「??? えっと…どういう意味ですか?」
「……(劉、あんたねぇ…)」
「…あれ?」
寒いギャグをかました結果、見事に周囲の空気を凍らせた。
「だらしないわね、劉…仕方ない」
この微妙になってしまった空気を変えるのは自分しかいない!
「社交界の花形、このマダム・レッドがとっておきの話を聞かせてあげるわ!」
アンジェリーナはふふふっ…と得意げに笑みを浮かべて立ち上がった。
セリアはおおっ…と、雇い主がどんな話を語るのか、とドキドキしながら見守る。
シエルとセバスチャンも注目する中、アンジェリーナは口を開いた。
「―――でね、そいつったら(ピーッ)が(ピーッ)だったの!!
さらに(プー)が(バキューン★)だったワケ!」
「あ、アン様ぁああああ―――…!」
アンジェリーナが語りだしたのは、お子様には到底きかせられないR指定な内容(下ネタ)だった。
突如、雇い主の赤裸々な体験談を聞かされて、セリアは顔をゆでだこのように真っ赤にしながら大混乱に陥っている。
これは坊ちゃんの耳に入るには刺激が強すぎる…と判断したのか、セバスチャンはシエルの両耳を塞いだ。
話を一時間続けたものの…葬儀屋は全く無反応。
「さて残すは伯爵のみだよ」
ひひっと愉快そうに笑いながら告げる葬儀屋。
彼を笑わせる事ができなかったアンジェリーナと劉は、口にバツ印のマスクを被せられてしまった。
当人たちはブーブーと文句を言いたそうだ。
「前回はチョットおまけしてあげたけど…今回はサービスしないよ」
シエルはうっ…と冷や汗を流しながらたじろく。
彼が前回どうやって、葬儀屋を笑わせたのかは不明だが、今回は笑いのレベルがそれ相応に高くなければ、葬儀屋は認めないようだ。
「仕方ありませんね」
「くそ…」と悪態をつくシエルに助け舟を出したのは、セバスチャンだった。
「へぇ…今回は執事君が何かしてくれるのかい?」
「セ…セバスチャン」
おい、大丈夫なのか…と不安そうに目線で訴えるシエルに、セバスチャンは「ご安心を」といつも通りに答える。
「みなさん、どうぞ外へ…絶対に覗いてはなりませんよ…」
ギラリと目を光らせ、警告をすると葬儀屋を除いた全員を一旦、外へ出させた。
ぱたむ、と扉を閉めてし…んと静寂が漂う。
…次の瞬間だった。
《ギャハハハ! ブフォッ、ア”ハハハ!! ヒィ…もう…やめ…》
葬儀屋の盛大な笑い声が響き渡った。
その凄さは、店の看板さえも傾かせる程に…。
「中はどうなってるの!?」とアンジェリーナとセリアがドキマギしていると…ガチャッと扉が再び開いた。
「どうぞお入り下さい。話して頂けるようです」
セバスチャンが爽やかな笑みで入室を促した。
葬儀屋はというと…
「さて…話の続きだね。ぐふっ…なんでも教えてあげるよ…」
小生は理想郷を見たよ…と涎まで垂らして至福の気分を味わっていた。
「何したんだ…」
葬儀屋があまりにもヘヴン状態に陥っている事に、シエルはドン引きしながらセバスチャンに尋ねるが、彼は「いえ、大した事は」と真顔で返した。
…兎にも角にも、これで重要なネタを聞く事が出来る。
時間をおいて、落ち着きを取り戻した葬儀屋がその事を話し始めた。
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