第2章:人には【光】と『影』がある


「話が変わるが…マダム・レッド」

「うん?」


一通りの話を終えるや、シエルが話しかけてきた。


「貴女を招待した件なんだが…聞きたい事があるんだ」

「どんな事で?」

「『リエ・クローチェ』という女性をご存じか?」


一瞬だけ固まってしまった。

何故…シエルが彼女の事を聞くのか?


(…てか、私とリエとの関係、もう調べ上げてるの?)


この間のガヴァネス誘拐事件で間接的とはいえ、ファントムハイヴ家を利用してしまった。

それがバレてしまったのか?

いや、もしくはリエの情報をちらつかせて、こちら側が動揺するのを誘い、確信を得ようとしている可能性もある。


「リエ・クローチェ…って私立探偵をやっている婦女子の事だよね~」

「劉様はご存じなのですか?」


その時、劉が会話に参加してきた。

これは、うまくかわすチャンスかも…とアンジェリーナは思った。


「名前だけね。我の知人が昔、世話になったらしくて…時々手伝ってるとは聞いてるよ」

「…ほぉ、裏社会にもコネがあるのか、あの探偵は」

「ハハハ、みたいだね。で…マダムはどうなの?」


「すぐにブーメラン、返さないでよ!」とアンジェリーナは胸中でツッコんだ。

しかし、沈黙したままだと逆に怪しまれてしまうため、ココは…試しに探る事にした。



「ええ、その名前は知ってるわよ。でも、なんで彼女の事を訊く訳?」


「以前、誘拐事件で接触したんだ。

念のために彼女の素性を調べてみたんだが…貴女と接点がある事が判明した。

マダム・レッド…彼女とはどういった関係で?」



そう尋ねてはいるものの、シエルの事だ…既にリエの探偵の助手を務めている事はお見通しだろう。

隠す必要もないな…とアンジェリーナは口元に綺麗な弧を描く。


「ふふっ、リエとは確かに面識はあるわ。彼女とはここ数年来の親友みたいなものよ」

「では、あの誘拐事件の際に、坊ちゃんに紹介したガヴァネスは…彼女だったのですね」

「仕方なかったのよ。誘拐されたガヴァネス達を救おうにも手段が限られていたし…時間も限られていたもの」


その件ももうバレてるか…とアンジェリーナは肩を竦めて白状した。


「まあ、事情を説明しなかった事は悪かったわ。ごめんなさいね」

「謝らなくていい。ただ、事実確認をしたかっただけだ」

「(あら?)…そう、ありがとう」


嫌味の一つでも言うかと思ったが、シエルの態度は意外にあっさりしていた。


「ところで、レディ・クローチェは今回の事件に興味を持っているのでしょうか?」

「そうだな。表社会でも騒ぎになっているくらいだ。依頼がきている可能性もありそうだが…」


二人は、どうやらリエが切り裂きジャック事件を捜査しているのかどうか…探りを入れているようだ。


「ああ~…この間リエに会いに行ったけど、彼女…今、別件で忙しいみたいよ?」

「そうですか、残念でしたね。坊ちゃん」

「…別に急ぐ事でもないだろう」


セバスチャンがクスッと笑って、主であるシエルにそう言葉をかけると、シエルはそっけない感じで返事する。


(この二人…リエと接触したがってる?)


前の一件をすんなりと許してくれたものの、彼らの言動の節々から、リエの事を深く詮索しようとする魂胆が見え隠れしている。


(また、隙を見てこの事連絡した方がいいかしらね…)


…女王の番犬に目をつけられてしまった。

アンジェリーナは、胸騒ぎがした。

リエとこの二人が再会した時…何かが起きる、そんな予感がしてならない。




【捜査協力】




「それよりも、これからどうするの? 現場に直接行くつもり?」

「いや、行く必要はない。どうせ既にヤジ馬だらけでろくに調べもできんだろう。僕がいけば、警察もいい顔をせんだろうしな」


確かに…ランドル卿が露骨に嫌な顔をする場面がいとも容易く想像できる。

それに、検死に慣れているアンジェリーナとそういった血生臭い事は平気な劉はともかく、今回は裏社会とは今まで無縁だったセリアがいる。

凄惨な女性の遺体を目にするのは、10代後半の彼女にとっても酷な話だろう。


「伯爵…まさか…」


劉がハッとした顔で息を飲み込む。


「そのまさかだ。僕もできるなら避けたい道だが、やむを得ん。こういう事件に奴ほど確かな情報を持ってる奴はいないからな」


シエルもあまり気乗りしていないが、切り裂きジャックに関する有力な手掛かりを提供してくれる情報屋がいるようだ。


「セバスチャン、馬車の準備を」

「イエス・マイロード」


「セリア…貴女どうする? 此処で待ってる?」


外出の準備をする中、アンジェリーナはセリアに行くか否か聞いた。

シエル達が切り裂きジャックの犯行の手口を話していた時から、彼女の顔色はすぐれなかった。

これから赴く情報屋でも、遺体に関する話題がでるはずだ。

秘書とはいえ、あまり無茶はさせたくないが…


「だ、大丈夫です。私もお供いたします!」


どうやら、セリアの熱意は本物のようだ。


「そう…じゃあついてきて。でも、気分が悪くなったら遠慮なく言ってね」

「はい…!」


こうして、アンジェリーナ達はシエルの贔屓にしている情報屋の元へ向かった。





【つづく】

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