第2章:人には【光】と『影』がある


「今日はいい天気でよかったわ、絶好の外出日和ねぇー♪」

「雨が続いていたからね~」


揺れる馬車の中、私は裏の社交界で付き合いのある中国人、劉(ラウ)と一緒にある場所へ向かっていた。


私の名前は、アンジェリーナ・ダレス。

王立ロンドン病院勤務の医師であり、元バーネット男爵の妻、子どもがいる未亡人。

表の社交界では【マダム・レッド】の名で知られている。


私の甥は裏社会の秩序を守る【女王の番犬】 シエル・ファントムハイヴ伯爵。

今回、彼から招待状をもらって町屋敷へと出向く事となった。


「マダム・レッド。そちらのお嬢さんは?」

「彼女はセリア・メイシー。最近、息子のガヴァネス兼、私の個人秘書になった子よ」

「お、お初にお目にかかります。ら、劉様」


あと、私のお気に入り…セリアも秘書として同行してもらっている。

セリアには、もう裏社会の事を大まかに教えておいた。

彼女が、これから私の秘書として仕事をしていく上で、裏社会へのある程度の関与は絶対に避けては通れなくなるだろう。

だからといって、強引にこちら側へ引き摺りこむのは可哀想だと、事前に私は選択肢をもちかけた。


…話をなかった事にして、息子のガヴァネスとして働き続けるか?

…裏社会に関与する事を覚悟で、私の秘書をやるか?


予想通り、セリアは悩んだ。

少し時間が欲しいと懇願してきたので、私は快く了承した。



『アンジェリーナ様…どうかご指導お願い申し上げます』



一日半かけて、彼女が紡ぎ出した答えは後者だった。

その瞳には迷いはなく、強い意志を宿していた。

私の目に狂いはなかった。

彼女、セリア・メイシーは単純な勧善懲悪だけが価値観だという固定概念に囚われない柔軟性がある。

…鍛え上げたら、優秀なレディになるはずだ!


「そんな畏まらなくても、我(わたし)の事は劉って呼んで構わないよ」

「そ、そんな恐縮でございます!」


「いいのよ、セリア。この人は気軽に呼び捨てでOKだから」

「そ、それでもアン様のご友人を呼び捨てにはできませんよー!」


慌てふためくセリアはどこか小動物的な可愛らしさがある…からかい甲斐があるわー♪

そうこうしている内に、私達は目的地へと到着した。


「いらっしゃいませ。マダム・レッド」


扉をノックすると、セバスチャンが出迎えてくれた。


「劉様、ご無沙汰しております」

「マダムに誘われて来ちゃったよ」


「失礼ですが、レディ。お名前をお聞かせいただけますでしょうか?」

「セリア・メイシーです。先月からアンジェリーナ様の秘書として働いております」


「左様ですか…それでは改めまして、セリアさん。私、セバスチャン・ミカエリスと申します」


自己紹介するセバスチャンに、セリアは微かに頬を赤らめている。

初めて接触する大半の女性は、彼に胸をときめかせるパターンが多い。

容姿端麗な青年の執事なんて、そうそうお目にかかる事はないからだ。


「主がお待ちです。こちらへどうぞ」


セバスチャンに案内されて、私達は奥の部屋へと進んだ。



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