第2章:人には【光】と『影』がある


「協力要請…ですか」

「ええ、女王からの命令でね。次の事件の調査をしているみたい」


翌日、リエの隠れ家へと訪れたアンジェリーナは手紙の一件を語った。


「具体的な事は、ロンドンの町屋敷で話すから二日後に来なさいって書かれたわ」

「それは急なお達しですね」


アンジェリーナの話を聴く真向いで、リエは温かい紅茶をいれる。

本日の紅茶はアッサムのミルクティー、お菓子はアップルパイ。

きたきた…とアンジェリーナはミルクティーの香りを楽しみ、一口含む。

それから、フォークでアップルパイをサクッと一口サイズに切って味を堪能する。


「だから、暫くの間は“あっちの仕事”はできなくなりそう。ごめんなさいね」

「構いませんよ」


リエは笑って承諾した。

ありがとう、とアンジェリーナは礼を言うと、アップルパイを食べ進めていく。


「そういえばさ…さっき、此処に来た時にご婦人とすれ違ったけど…依頼?」


先程、此処の入り口に到着した際に、中年の女性とすれ違った。

探偵の依頼は、アンジェリーナが仲介役となって斡旋するパターンもあるが、人伝にリエの存在を知り、依頼人が直々に訪れるケースも珍しくない。

この秘密の花園へ入るための条件をクリアしている事が前提だが…。


「はい。事件とは…違いますけれど、ある人物の相談に乗ってもらいたいという依頼を受けました」

「ん?…事件じゃなくて悩み相談なの?」

「ええ、先程のご婦人ではなくて、彼女が仕えているとある御方が大きな悩みを抱えているそうです」


話からアンジェリーナは独自に人物像を推察してみた。

相手は上流階級か郷紳(ジェントリ)クラスの人物。

年齢は、多分10代中盤~後半の内気な女子だ。



「理由は?」


「自ら赴く事なく、わざわざ使いを出して依頼をしに来るなんて、貴族か裕福な家庭だけでしょう。

性別が女だって思ったのは、男の場合は悩みを異性に打ち明けるのは抵抗があるから。

リエの性別を分かった上で依頼するなら同性の可能性が高いはず」


「それでは、年齢を10代半ばに絞ったのは何故ですか?」

「その年齢層の女子は思春期でいろんな悩みが出始めている時期だからよ。貴女にも経験あるでしょう?」



アンジェリーナがクスッと笑って指摘すると、リエは小さく頷いて「確かに…」と同意する。



「社交的だったり、友達が多ければ悩みを共有できるはず。そうしないのは、その依頼主は身近に気軽に相談できる相手がいないって事。

でもその人物にとったら悩みを誰かに打ち明けたい衝動に駆れている。だから、貴女の存在を知って依頼をした…どう、私の推理?」



得意げに言うアンジェリーナに、リエはパチパチと拍手する。


「さすがです。アンさん」

「ほほほっ、私の頭脳も伊達じゃないわよ」


「アンさんの仰るように、今回の依頼主の人物像は慎重で…あまり自分に自信をもてないタイプだと私も考えています。まだ会う日は決めていませんが…近い内に予定を組まないといけません」

「…忙しくなりそうね。貴女の方も」

「はい。お互い頑張りましょう」





【スケジュール調整】





「さって…時間も余った事だし、可愛い我が子にお土産でも買っていこうかしら」


秘密の花園のゲートを潜り、元のロンドン市内へ戻ってきたアンジェリーナ。

息子のために買い物しようと、軽い足取りで鼻歌を奏でながら百貨店まで歩いていく。

そんな彼女の動向を賑わう人混みの中で観察していた一人の男性。


「…なるほど、あそこが出入口でしたか」


執事服を纏う美青年…セバスチャン。

アンジェリーナが出てきた時空の狭間と思われる付近を注意深く観察しながら、試しに手で触れようとする。


 バチッ、パシュッ


「案の定…厄介な類の術をセキュリティとして施していますね」


結界が張られているのは感知できるが、破るには難易度が高すぎる。

強行突破はできない仕掛けとなっており、侵入するには骨が折れると判断した。


「入るためには暗号か、条件を満たす必要がありますね…おっと、もうこんな時間だ」


そろそろ、夕食の準備に取り掛からなくてはいけない時刻がきている。

今日はこの辺にして、屋敷に帰らなければ…。

セバスチャンは懐中時計を閉じて胸元にしまうと、人目がない場所へ移動していき、空高く跳躍していった。




【つづく】

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