第2章:人には【光】と『影』がある
「あれとそれ、ちょうだい。あとそこの帽子もお願い」
「かしこまりました」
あれから数時間後、アンジェリーナは只今、買い物を楽しんでる真っ最中。
仕事上でのストレスを発散するため…もあるが、折角ロンドン市内まで足を運んでいるのだ、以前から気になっていた商品が買いたい。
思い立ったら吉日。
本日は非番なリエを巻き込んで、贔屓にしている御店を何軒かはしごする事にした。
「リエ、折角だから貴女も何か買いなさいよ」
「いえ、特にありませんので」
「遠慮しないでちょーだい! 安心しなさい、今日は私が奢るから」
「ハァ…どうも(奢るって…そんな気軽にラーメンを食べに行くような感覚にはなれませんよ)」
リエは冷や汗を流し、苦笑するしかない。
何故なら、アンジェリーナが回っている御店はすべて一般庶民には届かないレベルばかり。
上流階級お達しの物をおいそれと購入するなんて恐縮する。
「あらっ、あそこにある服もいいわねぇ」
アンジェリーナが最新のファッションに目を奪われている中、リエは店内を目で楽しむ事にした。
(買うのは躊躇っちゃいますけど…見るだけなら)
服、帽子、靴、小物…煌びやかな一流の商品を眺めていると、どこか非現実的で夢見心地に浸ってしまう。
―――ドンッ
その時、背中に衝撃が走り、思わず前のめりに倒れてしまいそうになる。
「大丈夫ですか?」
…が、床に接吻しそうになる前に誰かが身体を支えてくれたおかげで未然に防げた。
反射的に瞑っていた目を開けると、そこには一人の男性がこちらを心配するように見ていた。
外見は20代後半。
茶色の短髪を清潔に整えた、人の良さそうな雰囲気の紳士だ。
「ありがとうございます…私は平気です」
「いえ、こちらこそ…私の使用人が粗相をしてしまい、すみません」
「も、もも申し訳ありませんでした!」
男性の一歩後ろで、執事服を着た男性が頭を深く下げて謝罪している。
眼鏡をかけ、黒い長髪を真っ赤なリボンで後ろ手に留めている、気弱そうな感じの人物だ。
「いえ、私の方も不注意でしたし、お気になさらないでください」
「優しいお言葉を…貴女はとても慈悲深いレディですね。
ほら、グレル。こちらのレディに言うべき事があるだろう」
「あ、ああありがとうございます!!」
執事…グレルはさらにぺこぺこと頭を深く下げて、今度は御礼を言い始めた。
「こちらこそ…あの、もうお気持ちは十分伝わりましたので、そのくらいで…」
「は…はい、すみませ…」
リエの言葉を聞き、グレルは頭をゆっくりとあげていく。
「…ッ!」
すると、リエの顔を目にするや彼はハッと…何かに気付いたかのように息を飲み込んだ。
「? 私の顔に何かついていますか?」
「い、いいえいえいえ、なんでもございません!」
グレルは慌てたように首を左右に振る。
(?…この人…)
そんな彼の様子を見ながら、リエは小首を傾げてある違和感がした。
「ちょっと、リエ~…何かあったの?」
「あ、アンさん」
リエが誰かに絡まれているように見えたのか、アンジェリーナが目を細めて何事かとこちらへ近づいてきた。
「えっ…貴方…」
「あれっ、君は…アンジェリーナかい!?」
「ジェームズじゃない! ひっさしぶりね~」
驚きを露わにする紳士と、顔に喜びの色を出すアンジェリーナ。
(二人は…どうやらお知り合いのようですね)
導き出された結論は…至ってシンプルなものだった。
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