第1章:誘拐事件は危険な出会いの始まり
セバスチャンが再び扉を開けると、そこは大広間。
長いテーブルには10名の席があり、皿や銀食器が用意されている。
「いたぞ!!!」「殺せ!!」
足を踏み入れるや、二階部分に設置されている通路から、構成員達が銃を乱射してきた。
襲いくる銃弾を銀のトレイでガードしつつ、セバスチャンはテーブルに乗ると、置いてあった皿等を狙撃手に投げつける。
見事、顔面に命中して再起不能にさせる。
背後から斧を振りかざそうと忍び寄る男を、足蹴りで倒す。
「応援呼んで来い!」
「蜂の巣にしてやる!」
「鼠共がぞろぞろと…埒があきませんね」
さらに応援がかけつけてくる状況に、セバスチャンは面倒くさそうだ。
…その時だった。
~♪♪♪ ~♪♪♪
どこからか歌声が聞こえてきた。
聴くモノに新緑あふれる森の木漏れ日を…あるいは清冷な水を連想させ…豊かな生命力を表す素晴らしい曲だ。
その美しい歌に思わず聞き惚れているのはセバスチャンだけでなく、他のマフィアの構成員達もだ。
すると、どうだろう…歌に耳を傾けていた男達がバタッ、バタッと倒れ込んでしまった。
セバスチャンはちらりと床に倒れている一人の男に目を向ければ、すーぴーと涎を垂らして眠っている。
「この歌…魔術の一種か」
「ご名答です」
声がした方へバッと視線を移す。
二階の通路付近に、見慣れない女性がいた。
血と薬物の匂いが充満するマフィアの巣窟には不釣り合いな、清浄なオーラを纏う不思議なレディだ。
「…どなたか存じ上げませんが、何故このような場所へ?」
「とある方から依頼を受けて、この屋敷に閉じ込められているガヴァネスの方々を助けに来た者です」
「ガヴァネス…なるほど、麻薬以外にも手を付けていたのですね、この屋敷の主は」
彼女の返答を聞いて、セバスチャンはすぐにその意味を察した。
「執事さん、どうぞ先へお進みください」
「よろしいのですか?」
「私は、レディ達の逃げるルートを確保したいだけです。貴方にも…助けたい方がいらっしゃるのでしょう?」
女性がやんわりとした口調で指摘した事に、セバスチャンは微かに目を見開いて「…おっしゃる通りですね」と小さく頷く。
「お言葉に甘えて…急がせていただきます」
「ご武運をお祈りします」
ニコリと笑顔で会釈すると、セバスチャンは目にもとまらぬ速さで駆けて行った。
女性…リエは応援の言葉を送り、彼の背中を見送る。
そして、辺りを万遍なく見渡して男達が起きる兆しがない事を確認すると、そのまま牢屋へ戻ろうとした。
しかし、リエは一歩踏み出そうとした足を止めた。
(今、微かだけれど…闇の気配がした)
反対方向の二階の通路へ目を向けると、そこに真黒なコートを纏った謎の人物がいた。
「…どなたですか?」
その黒いコートに見覚えがあった。
かつて敵対関係にあった、今は親しい仲間がいる組織の制服だ。
でも…そのコートを纏う人物のオーラは組織のメンバーの誰でもない。
深々とフードを被り、口元だけが露わになっているその人物…体格からみて男性のようだ。
「…やっと…見つけた」
ニヤリと口角が吊り上げるのが見えた。
ゾクッと背筋に悪寒が走り、リエはすぐに手元から自らの武器…白金色の星の形をした杖を出現させて身構える。
彼女の戦闘態勢に反応したのか、男性は手を頭上へかざした。
ぐらり…と空間が歪み、その狭間から『黒い生き物』が出現した。
ありのような金色の瞳をした全身真っ黒なその生物は―――ハートレス。
人の心の闇から生まれる魔物だ。
「…! 貴方は…」
リエが再度、視線を向けると、その男性は背後から出現させた闇の回廊へと姿を消した。
ハートレスは、意識のないマフィアの構成員達には目をくれずリエに対して襲い掛かってくるが……
バシュッ シュンッ
リエは鳥が羽ばたく様に跳躍すると、とびかかってきた複数のハートレスを杖…キーロッドで一閃する。
トンッと一階へ着地すると、地面から発生してくるハートレスに目を向ける。
(あの人は誰かしら…でも、まずはこの子たちをなんとかしないと)
頭を切り替えて、リエは真面目な顔でキーロッドを構えなおした。
「さぁ…かかってきなさい」
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