【3】彼女に関する報告


※外伝連載【Brand new page】の番外編

※『七つの大罪』のある勢力の物語(2)

※【彼女の名は…】の続編

※原作のある登場人物の視点で物語が進みます。

※特定の種族(魔神族)に対して差別的・不快な表現があります。お読みの際はご注意ください。



*** ***** ***




「ミスティ、あそびにきたよ」


部屋の中心にある寝台で眠る少女に、エリザベス様が笑顔で語り掛けている。

最高神様が、彼女を連れてきた時は少々動揺した。

まだ、幼いエリザベス様を彼女…ミスティリアと会わせるのは時期尚早ではなかろうか。



「あの子には、そろそろ信頼できる者を傍におかねばなりません。

それに…エリザベスの魔力は、ティアの魔力と相性がいいみたい。

いずれ『あそこ』で接触したら、二人はすぐに打ち解け合えるでしょうね」



そんな私の懸念を見抜いた主は、一笑いしてそう言いのけた。

…先の事を見据えてのお考えだったか。

我ながら浅慮な事を言ってしまったと反省するが、主は気分を害した様子はなく、ベッドにいるミスティリアと彼女に話しかける娘に目を向ける。


「リュドシエル、先日の結果は?」

「はい、サリエルからの調査ですが…」


主からの命令に、私は粛々と詳細を報告する。

女神族でありながら、特別な空間でしか目覚められない体質の憐れな少女…ミスティリアの事を。



*** ***** ***



「ティアは相変わらずだったよ」


大きく伸びをしながら、サリエルはあちらでの事を話し出した。

目を覚まして間がないにも関わらず、控えていた侍女に茶を準備するように指示する。


「喉が渇いたんだ、お茶にしない?」

「いいだろう」


別のテーブルに移動し、詳しい話を聞く事にした。


「今日の領域は、桃色の花の樹が咲き乱れる自然たっぷりな風景。樹の下で昼寝してたし…ほんっとに能天気なんだから」


呆れたように言いつつ、サリエルは侍女が淹れた花茶を飲む。

花茶とは、ミスティリアの夢の領域で彼女が栽培している茶葉の一種だ。

定期的に通う我々のために、ミスティリアは『土産』と称して渡してくる。

甘い香りと味が女神族の間では人気が高く、現実世界でも数年前から栽培しだしたモノが、一般の民の間でも流通するようになった。


「この間なんて、『畑のかぼちゃとトマトが食べ頃だからとるの手伝って』って頼んできて…四大天使である僕に野菜収穫させるなんていい根性してるよ」


言葉だけなら文句を連ねているように見えるが、それに反してサリエルは愉快そうに笑っている。

思いの外、退屈しのぎになったのだろう。

採れた野菜は、ミスティリアの手で美味な菓子となり、サリエルが魔力を駆使して大量の菓子を現実世界へ持ち帰ったのは三ヵ月前の事。

その時、サリエルがいつになく満足顔だった事に周囲を驚かせたのだが、当の本人はそれに気付いてなさそうだった。


「あのさ、この際だから訊いていい?」

「なんだ?」

「ティアは…どんな呪いにかかってるの? あの御方でも解く事が難しいレベルなの?」


見計らったように、サリエルがここぞとばかりに質問を投げつけてきた。

この時点で、真実を知っていたのは最高神様とマエル…そして私だけ。

時期を見て、他の者にも情報を公開するとあの御方は仰っていた。

眼前にいるサリエル、この場にいないタルミエルには、私の判断で決めろと命じられていたのだが…ちょうどいい。


「多少長くなるぞ」

「いいよ。他の仕事も終わらせておいたし、時間はあるからね」


話を聞く準備は整っているか…いい心掛けだ。


「まずは結論から言おう。ミスティリアは呪いにかかっているのではない」

「違うの?」

「あの娘は…女神族として生を受ける直前に、魂の一部が喪失してしまったのだ」


告げた真実に、サリエルは持っていた茶器を落とす程、驚愕の色を顔に露わにした。


「魂が…じゃあ、ミスティリアの魂は完全ではないって事?」

「―――あの御方はそう仰った」



私が初めて彼女と会ったのは…まだ赤子の頃。

一組の夫婦から生まれたその子は、数日経ても目覚めなかった。

さらに、異様な程高い魔力を宿しており、小さな肉体では制御するには難しく、下手をすれば命が危うくなる一歩手前であった。

その事を知ったあの御方が、その夫婦と対話をした末に、自らの力を用いて魔力を制御する印をその子の肉体に施した事で事なきを終えた。

同時に『ミスティリア』という名前も授け、それ以来身動きの取れない彼女を引き取り、育てる事にしたのだ。


当初、私を含め周囲の者達は首を傾げずにはいられなかった。

非常に高い魔力の所有者とはいえ、何故見ず知らずの民の赤子を引き取ってまで手元に置くのか…と。


『この子は希望なのです。私にとって…女神族にとって希望になる子』


我々が抱いた疑問に対して、あの御方が答えた。


“一族の希望”


最高神様が自らそう断言する位、ミスティリアに目をかけている。

それだけ、ミスティリアの持つ潜在能力は計り知れないものなのだ、とあの御方は察知したのかもしれない。


『ですが…この子はまだ不完全。魂の一部が欠けた所為で難儀な体質となってしまいました』


ミスティリアの魂は、肉体に宿る前に七割を失ってしまった。

通常ならばあり得ない事態だ。


しかし、最高神様は確信している。

…ミスティリアが、『意図的に』魂の一部を裂かれてしまったのだと。

さらに、あの御方は驚くべき事柄を告げた。



『幸いにも…失われた魂はこの世にとどまっているようです。なんとしてでも、回収せねばなりません』




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