【7】左遷宣告の舞台裏
「はぁ…つかれたでし~」
ペロニアはへろへろと宙を浮きながら、移動していた。
今回の会合は、本当に気力がガリガリと削られる展開がてんこ盛りだった。
いつもなら、こんなに疲労なんてたまらないのに…。
(…早く部屋にいきたいでし。甘いものとりたいでし)
今日の自分は頑張った…とペロニアは自画自賛したい。
あんなに緊張と驚愕が連続する会合はもうこりごりだが、そんな中でも気を失わずにどうにか記録をとる事ができた。
自分へのご褒美として、今日はもう非番だから休憩室でスイーツをたんまりと食べて至福の時を過ごすのだ。
そのスイーツとは、十年前に領地内で商売をしている猫人族が売り出した代物だ。
茶色の豆と砂糖やバターを使用して作った、名前は「チョコ」もしくは「ショコラ」と呼ばれている。
非戦闘員の庶民が買うのは、安価な板状のタイプか飲み物が一般的だが、ペロニアのように城勤めをしている者はそれよりもグレードの高い物を購入できる。
(思い出すだけで舌がとろけそうでし…)
ペロニアはチョコにはまっている。
お気に入りは、ミルクをふんだんに使ったタイプとちょこっとビターな大人の味の一口サイズのチョコ。
仕事が一段落した後で、ワインとマリアージュさせると最高なのだ。
ぐふふっとにやけ顔になるペロニア。
まずは身体を清めてからにしよう…と思案していたその時、誰かの話し声が聞こえてきた。
「どう思う? さっきのアレ…」
咄嗟に曲がり角に身を隠して、その方向をちらっと見ると…ある人物達がいた。
(あ、あれは【黒の六騎士】…!)
【黒の六騎士】とは、【十戒】に次ぐ実力を持つと言われている部隊だ。
かつては、勝手が過ぎて魔神王さえも手を焼いた集団であったが、五十年前頃からその傾向は鳴りを潜めたのか…大人しくなった。
不定期ではあるが、全体的な会合にも参加しており、他の同胞とも必要時には連携をとっている。
…ペロニアの視界に映るのは三名。
【黒の六騎士】のまとめ役であるベルリオン。
【十戒】の一員であるガランの甥っ子にあたるパンプ。
そして眉間に×の形のあざがある美しい顔立ちの女性…ガラである。
「そもそも、ヴァイスは本気であの選択をしたの?」
「んなわけねーよ。どうせお人好しのあいつの事だから、前の奴らに遠慮して残りモノとっただけだろ!」
ガラの疑問に、パンプが右手をぶんぶん振ってありえないと返す。
「そうよね、あんな旨味のない…魔力がこれっぽっちも回復しないところで過ごすなんて退屈極まりないわ」
「ちぇっ、ヴァイスの野郎、バカだろ! ちぇっ、ちぇっ!! 折角、【十戒】の空席を狙える選択があったのに譲っちまうなんてよ!!」
どうやら、彼等もヴァイスハルトの真意が気になるようだ。
(…話長くなりそうでし)
目的地に早く行きたいが、【黒の六騎士】がいる場所を素通りするのは勇気がいる。
いらぬ因縁をつけられそうで、戦闘が得意でないため、なるべく彼等との接触を避けたい。
「ふん、くだらん」
意外にも話の終止符を打ったのは、ベルリオンだった。
「そんな負け犬の話題に盛り上がるほど、俺様は暇じゃない。帰らせてもらうぞ」
ベルリオンは踵を返してその場を後にした。
「なんだよー、つれねえヤツだな~」
「らしくないわね。…ま、暑苦しいよりかは全然マシだけど」
ガラは肩を竦めてそう言うと、ベルリオンが行った方を進んでいく。
あーあー、つまんねえなと後頭部をかぎ爪でぽりぽり掻きながら、パンプは逆方向へ離れていった。
「ようやく通れるな」
「わわっ! ゴウセル様、いつの間に…!?」
背後からひょこっと姿を見せたゴウセルに、ペロニアはぎょっとする。
「任務に指名されなくてな、部屋に戻るところだ」
「あぁ、それでしか…」
「それにしても、話題で持ち切りだな」
言われてみれば…
ゴウセルの言葉に、ペロニアは廊下で見かけた人々の事を振り返る。
「ヴァイス様って…改めて交友関係が広いんだって実感しましたでし」
「あの子の人柄に引き付けられるんだろう。さっきのベルリオンのように…」
「えっ、ベルリオン様が?」
ついさっき、負け犬呼ばわりしてたのに…とペロニアは目を大きく見開く。
懐疑的な彼女の心情を察したのか、ゴウセルはクスッと笑う。
「ああみえて、彼も内心はヴァイスの事が気になって仕方ないんだ。ある出来事でヴァイスの事を好敵手認定しているようだし…」
「認定ですと! マジでしか…!?」
その辺の事情をもっと詳しく…とペロニアが尋ねようとした時だった。
「放せ、放さんか!!」
聞き覚えのある人物の声が大音量で響いてきた。
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