【6】魔神族の王子の回想
「ところで…」
切り替えるように、親父が別の話題を口にした。
「メリオダス、随分と下の世代の同胞達の扱い方が上達したようだな」
「まあ、一応」
「先日、他の上位魔神の幼子同士の争いを止めたと聞いたぞ」
あれはたまたまだった。
ヴァイスを背負って、散歩していた時に別の子ども達の喧嘩に出くわした。
喧嘩している子ども達は兄弟で、些細な事が原因だった。
でかい声で騒がしくて、ヴァイスが泣き出しそうになったから仕方なく仲裁しただけだ。
俺が根気強く言い聞かせたのが功を奏したのか、兄弟は仲直りできた。
和解した後の兄弟は喧嘩の時とは打って変わり、仲良く喋りあっていた。
その様子を見ていると、俺は不思議と穏やかな気持ちになれた。
ヴァイスと出会ってから芽生えた感情…それと似ている気がした。
「ヴァイスは…弟みたいなもんか」
「なんだ、弟妹がほしいのか?」
親父が意外な顔で聞き返してきた。
言われた事が、頭の中で反芻した。
ヴァイス以外に、弟か妹がいたら…想像したらすごく胸が温かくなった。
「…うん、いたらいいな」
だから、俺はそう答えたんだ。
「そうか」と親父は呟いただけで、それから特に話をする事なく、俺と親父はそれぞれの部屋に戻った。
まさか、あの時の返答を親父が真剣に受け止めていたなんて思いもしなかった。
それから二年後…
「どうだ、新しい家族ができた気分は?」
「うわぁー…」
血の繋がった弟…エスタロッサが生まれた。
【魔神族の王子の回想】
「どうして、同じ名前にしたの?」
エリザベスは、膝の上に乗せたご機嫌に尻尾を振る子犬と隣にいるメリオダスを交互に見ると小首を傾げる。
女神族と魔神族…本来であれば、敵対関係である二人は種族の枠を超えて心を通わせている。
その日も秘密の場所…【天空演舞場跡】で二人は逢瀬を重ねていた。
そこに辿り着く前に、エリザベスは怪我をした子犬を見つけた。
魔力で傷を癒し、懐いてくれる子犬を置いていけずに此処まで連れてきたのだ。
メリオダスに事情を話すと、子犬に名前をつける事になり…彼が『エスタロッサ』にしたいと提案してきた。
「いや…この子犬見てると、エスタロッサと重なっちまってな」
「そんなに似てるの?」
「まあな…」
エスタロッサの事は、エリザベスも名前だけは知っていた。
メリオダスのすぐ下の弟で、【十戒】に匹敵するレベルの上位魔神族の戦士。
容姿も髪色を除けば、メリオダスに瓜二つだと…四大天使の一人であるサリエルが言っていた。
「エスタロッサは敵には容赦しねえが、気に入った相手にはとことん心を砕く性格なんだ」
赤子の頃から、エスタロッサはメリオダスに懐いていた。
いつも兄の後ろをついていき、その姿は子犬を彷彿させた。
「今もそうなの?」
「そうだなぁ、特にヴァイスには…」
「ヴァイス…?」
「俺の幼馴染で親友。幼い頃から、ずっと傍にいた【家族】でもあるんだ」
メリオダスは穏やかな顔で言葉を続ける。
メリオダスの語りから、彼がどれだけ弟二人やその幼馴染の事を大切に思っているのかが伝わってきて、エリザベスは自ずと口元が緩む。
「あのね…私にも親友がいるの」
「ジェラメット以外に?」
「うん、ちょっと変わってるけど…とっても素敵な子なの」
想い人が話してくれた分だけ、エリザベスも話題を提供していく。
政治的な駆け引きや、命を懸けた取引に関わるものなんて一切ない…年頃の男女による楽しい会話だ。
こうして、ささやかな甘い時間を二人は過ごしていき、愛を育んでいった。
メリオダスは知らない。
話題に取り上げられた【幼馴染】が存在した事により、本来の歴史にはいなかったもう一人の『弟』が誕生した事を…。
エリザベスはこの時、想像していなかった。
大好きな親友と仲間の四大天使の一人が、【ある人物】の決断によって大きな運命の渦に巻き込まれてしまう事を…。
そして、彼等はもちろん双方の種族が辿っていく歴史の道筋も…少しずつ変化してきている。
その事実に気付く人物が現れるのは…かなり未来の話となる。
【おわり】
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