シークレット・メモリー
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伊織が、本宮家が御三家と保守派に見切りをつけた事件について、宿儺に語っていた同時刻。
禪院家の当主の部屋にて…
「○○デパートの呪霊討伐、完遂いたしました」
当主である父に、兄と共に事後報告をする直毘人は内心退屈を感じていた。
呪霊を祓った事なんて、従者を通じて父の耳には届いているだろうに、なんでわざわざ言う必要があるのか…と。兄と父のやり取りを聞きつつ、直毘人は欠伸を嚙み殺す。
「直毘人、術式の鍛錬は順調か?」
父から話をかけられ、直毘人はおっと…と気を引き締める。
「ようやく形になってきました」
「どの程度完成させたのか知りたい。数日後、披露するように」
「はーい…」
直毘人は気乗りしない感じで返事をする。
自分の術式…【投射呪法】は、今まで使い勝手が悪いものとされてきた。
過去に同様の術式を持った人物は、最後まで使いこなせずに人生を終えたと言われている。
だが、直毘人は自分の好きな漫画やアニメの構造をヒントにする事で、術式を使いこなせるものへ進化させたのだ。父はその事を評価しており、定期的に術式の熟練度を披露するように促している。
正直、面倒くさいというのが本音だ。
それでも、この家でそれなりにいい待遇で生活していくためには不可欠であるので致し方ない。
「直毘人、さっきの返事はなんだ」
「別に~…任務で疲れてたからだよ」
廊下を歩いている最中、兄から苦言を呈されるが、直毘人は頭の後ろで腕を組んでさらりと言い訳する。
その態度に、兄は大いに眉を顰めるが…弟の性格を知っているためか深くは問い詰めない。
兄は、呪術師である事に誇りを持っている。
同時に、呪力の少ない術師や一般人の事を「下働き共」「駒」だと見下している。
…典型的な禪院家の人間だ。
一方で、術式を持つ者として日々研鑽を積んでいる真面目な性格であり、彼を慕う配下も少なくない。
偏っているが…実力主義的な禪院家の頂点に立つ条件も揃っている。
直毘人はそんな兄の事は嫌いではない。
兄が当主の座をついだとしても、補佐する立場に回る予定だから何ら問題ない。
「そういや、扇の奴…また寝込んでいるんだっけ」
道中、弟の乳母である女性が一礼して通り過ぎていった。
弟である扇は、今年に入ってから体調を崩しだした。
父が侍医に診せたところ、術式が開花した事による副反応が起きているのでは…という診断結果だった。
扇は8歳だが、炎属性の術式がある。
剣術の才能もあるようで、時間がある時に訓練をしているのだが…
「体調管理ができないのは問題だ。
そこは気を付けるように指導してやらんといかん」
「そうだなぁー」
時折、弟が空虚を宿した瞳で空を仰いでいた事を思い出す。
昨年の末まで、年相応に感情が豊かであったのに…。
気になるが、それを本人に追求するのはまだ早いかと思った。
「来週は、父上が藤基家が主催する会合に参加する予定だ。
東京で行われるから、俺達は家の事を任される…」
「藤基家…?」
「中立派の最大勢力だ。以前、父上から教わっただろう」
直毘人の頭の中で、二人の人物の姿が浮かび上がる。
少し長めの黒髪を後ろで無造作に纏めた、明るい性格の男子…藤基明勝。
茶色の髪と翡翠色の瞳が特徴的で、温厚そうな印象の男子…本宮慶一。
「あぁっ!」
「なんだ…?」
突然、声を上げた直毘人の事を、兄は訝し気に見つめる。
「翡翠色の瞳…おちびちゃん、本宮家の令嬢だったのか」
弟のその発言を聞き、兄の方も任務中に出会った迷子の少女の事を思い出したのか「あの娘か…」と呟く。
「道理で見覚えがあると思った。
そうか…慶一の妹だったのか」
直毘人は、五年前の穏健派主催の茶会の時に慶一と出会った。
同年代の他の子ども達とは異なり、人として惹かれる要素があったからだ。
話してみると、なかなか面白い人物であると分かり、それ以来交流を図っている。
「おい、直毘人。
本宮家と関わる際は細心の注意を払え」
「はぁ? なんで?」
「父上から、明治時代の【あの事件】の事を習っただろう…」
苦い表情の兄から言われた事により、直毘人は「ああ、あれか」とさもご近所の噂話を聞いたかのような感じで思い出す。
先祖であり、禪院家の次期当主だった男が本宮家の娘に横恋慕した結果、娘を自害へ追い込んでしまった大事件。そして、本宮家が保守派から離れるきっかけとなった…禪院家を含める御三家の【最大の咎】だと伝えられている。
「一人の血縁関係者の所為で、禪院家の権威が危うく失墜しそうになった。
先々代からの地道な働きが功を成して、関係が改善してきたとはいえ、伊織家は公式に御三家を許してはいないのだ。
お前…あの令嬢の事が気になっているのだろう?」
兄の問いかけに、直毘人は改めてあの令嬢の姿を思い出す。
弟よりも年下で、小さくて可憐な女の子。
白茶色の緩やかな長い髪に、翡翠色の瞳。
慶一とはまた違う、不思議な心地よい呪力を漂わせていたおちびちゃん。
あのあどけない表情を、くるくると万華鏡のように変化させていきたい…!
「ああ~…確かに!」
「あっさり認めたな…こいつ。
仮に令嬢と関わるにしても、手順だけはきちんと守れ。
余計な事をして、本宮家に睨まれるような事だけはするな」
言いたい事を言うと、兄は歩の速度をあげて去って行った。
【直毘人少年は、『おちびちゃん』と再会したい】
兄の姿が見えなくなると、直毘人は「うーん」と頭をガシガシと搔きながら思案する。
「手順か…どうすりゃいいかな」
今年開催された茶会には姿を見せていなかった。
つまり、まだ出席できる年齢に達していないか、夏以降に出席する可能性が高い。
「今のところ、手っ取り早い方法は…手紙か」
よし、慶一に手紙を出そう!
鼻歌を唄いつつ、直毘人は軽い足取りで自室へ向かった。
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