【10】真夜中の定期報告会
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「続きまして、呪霊に関する報告です。
エクレシア『天野初音』、四国地方にて発生した合計80体の呪霊を討伐完了。
エクレシア『アンシャル・レイスウォール』、中国地方で発生した合計100体の呪霊を討伐完了との連絡がきました」
元々、此処は闇が好みやすい土壌があるためか、闇寄りの世界に位置されている。
闇寄りの世界では、ハートレスや不死者といった闇の生物が発生・増殖しやすい。
この世界では、人の負の感情から発生した【呪霊】がそれに該当する。
「討伐された呪霊の中には、特級が5体ほどいたそうです」
「それは難儀であったな。
二人には、しっかり休息を取るように勧めてほしい」
この世界には、呪霊の討伐を生業とする職種の人間…呪術師やその組織は存在する。
しかし、現状では人数が少ない上に組織も再編成を余儀なくされている。
約20年前の世界大戦が終結するまでのその過程で、呪術師の多くが兵士として駆り出されてしまい、戦死した事が原因だ。尚且つ、国が大戦で敗北した事で人々の負の感情が急激に強まった。
そういった背景により、呪霊の数が倍増して、レベルの高い呪霊の発生率が上がっている。
現在、呪術師の組織は専門機関を創設して、優秀な術師の卵を育成している最中だ。
けれども、戦前のように呪霊討伐ができる人材が圧倒的に不足しており、呪霊が跋扈する状況に歯止めが効かない。そのため、ヴァルハラ教団が密かに代行として討伐をこなしているのだ。
「そういえば…ここ最近、教会に通っている少女がいるわね」
一ヶ月前から、一人の少女が礼拝堂へ通うようになった。
ミルクティー色の緩やかな長い髪と翡翠色の瞳が特徴の可憐な容姿の子ども。
彼女は、此処が気に入ったのか週に3回はやってきて、レナスの像に対して祈りを捧げている。
少女は潜在的に大きな魔力を秘めているようで、レナスは祈りを通じて彼女の能力の高さを感じ取っていた。
「本宮伊織ちゃんの事ですね。彼女は素直で優しい子ですよ」
コゼットは、伊織の身の上話を語る。
ヴァルハラ教を支援している中立派の本宮家現当主の次女であり、来年小学生になる事。
この教会の教えやシスターの存在に興味を抱いている事。
そして…大いなる魔の存在に呪われている事を。
「…微かに魔の気配が見え隠れしていたのはそういう経緯があったからか」
レナスもまた心地よい伊織の力に混在するように、邪悪な力が漂っていた事を察知していた。
「呪いの王―――【両面宿儺】
藤基家からお借りした過去の文献では、人間であった頃から非常に恐れられていたようです」
「古の時代から生きてきた者となると、現在の呪術師とは比べ物にならぬ位の実力があるはず」
レナスは冷静に分析した事を口にする。
「その魔の者は、十中八九こちらの動向を探っているだろう。
聞く限り、相手は本宮伊織の事を相当気に入っている様子だ。
気に入りの贄を奪われたとなると、実力行使にでる確率が高い」
「はい。そのため、本宮家の了承を得て保護する手続きをいたしました」
コゼットは目を光らせ、淀みなく対策を語る。
「本宮伊織ちゃんは、数日後に教会内にある施設で生活してもらう事になります。
同時に、不当な契約印を解除する儀式を分割で行っていく予定です」
「対応の早さは流石ね。
仮に、両面宿儺が何かしらの妨害に出た場合は?」
レナスの問いかけに対し、コゼットは口元に緩く弧を描く。
「勿論、万が一の場合は全力で対処いたします」
【真夜中の定期報告会】
「あぁー、寂しい…」
「姉様、どうしたの?」
伊織が寝る準備をしていると、姉の麗子が部屋までやってきた。
和やかにお喋りしていた最中、麗子が伊織を優しく抱擁した。
「伊織ちゃん、明後日から教会に行っちゃうでしょう?
伊織ちゃんと会えなくなるなんて…凄く寂しい」
「土曜日と日曜日には此処に帰ってきますよ?」
「週に2日だけしか会えなくなるのよ!
可愛い妹とのスキンシップが少なくなるなんて…姉様、悲しい」
よよよ…と目を右掌で覆い、伊織は嘆き悲しむ姉の頭をよしよしと小さな手で撫でる。
「私もさびしいです。
でも、姉様たちがキケンな目に合うのはもっとイヤだから…
姉様たちと安全に暮らせるようになれるよう、しゅぎょうしてきます」
「うぅ…伊織ちゃん、なんて優しいの!?
姉様も、ロリコン呪物やろぅ…げふげふっ…すーさんを退治する方法を探すから!」
姉の最大級の愛情が伝わってきて、伊織は思わず頬を緩めてしまう。
姉の口から一瞬だけ下品な単語が出た気がしたが…気の所為だと思う事にした。
「フン、騒がしい阿呆な小娘が…」
「はぁッ? 今、失礼な発言が聞こえたような…」
麗子が胡乱な目でキョロキョロと辺りを見回す。
ふと、伊織の布団の上に置かれた雛のぬいぐるみが視界に入った。
「あの雛のぬいぐるみ…この間買ってきたものよね?」
「はい。寝る時にそばにおいています」
ふわふわで丸っこいフォルムが可愛らしい雛のぬいぐるみ。
伊織の一番のお気に入りとなっているそれは、教会に行く時も常に持ち運んでいる。
「うーん…」
「姉様?」
「あの雛ちゃん、目つきがおかしくない?」
伊織が視線をぬいぐるみに向ける。
いつもと変わらないつぶらな瞳のようだが…
「さっき見た時、目が細くなった気がしたんだけどなぁ…」
気の所為みたいね、と姉は笑って肩を竦める。
時刻が午後11時30分を過ぎたところで、楽しい時間はお開きとなった。
姉が自室へ戻った後、伊織は布団に入り、傍にある雛のぬいぐるみを撫でながら言った。
「明後日からお引っこしするけど…いっしょに行こうね」
雛の頭の部分にチュッとキスすると、伊織は瞼を閉じた。
「…ケヒッ、愛い奴め」
眠りに落ちるその刹那、耳元に久しぶりに宿儺の声が聞こえてきた。
心なしか…いつもの意地悪な感じではなく、ほんのりと優しさのある響きだった。
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