色々噺(その他)
【漢字愛好家、誕生】
武田との和議が成立した後、リエ達は春日山城にて身体を休めていた。
文鎮にいれた墨に使いならした筆をつける。
筆先はじんわりと墨の黒色に染まり、リエは、その筆をすらすらと動かして、半紙にある文字を書いた。
「私の名前は漢字で書くとこうなります」
半紙には「梨絵」という漢字の名前が記されていた。
「リエさんの名前って、てっきりローマ字かと思っていました」
「へぇ~、いい名前だねぇ」
加奈と慶次がその半紙を見ながら感想を言う。
すると、ピヨ姿のマーテルが興味深そうにちまちまと近づく。
「あの、リエさん」
「どうしました? マーテルさん」
「漢字って素敵ですね…。この力強い線と、【音】と【意味】の両方を現わしたデザインが斬新的…」
マーテルがうっとりとした表情で半紙に書かれている漢字をみつめる。
彼女が住んでいた世界は、主にラテン文字や英語圏内の公用語が主体だった。
一部の地域は除けば、漢字の様な形態の文字は珍しいのだろう。
「あの、私の名前も漢字で書けますか?」
「マーテルさんの名前を、ですか?」
マーテルからのささやかなお願いに、加奈の顔に困惑が生まれる。
漢字で英語圏の人の名前を書く事なんて、やったことがない。
すると、隣にいた慶次が何か閃いたのか、リエから半紙と墨を受け取ると、そこに文字をかきだす。
出来上がったものは―――
「マーテル、こんな漢字はどうだい?」
その半紙には―――漢字で『真明輝』と書かれていた。
(慶次さん、それって!)
(あらあら…)
「わぁ…格好良いです!」
予想を裏切り、マーテルは目を大きく開いて絶賛した。
「おっ、気に入ってくれたのか。嬉しいな~」
「この【明】と【輝】の漢字は温かい雰囲気が伝わってきます! 慶次さん、凄いですね!」
「だったら、他の人の名前も書いてみようか?」
「あの…もしよろしければ、弟の名前を書いていただけますか? 『ミトス』といいます」
再度リクエストを言うと、慶次は別の半紙に筆を走らせた。
出来上がった漢字は―――【御杜守】だった。
「わぁ、美しい字体です。漢字って本当に格好良いです!」
「よかったですね、マーテルさん」
御満悦気味のマーテルの様子に、リエは朗らかに微笑む。
慶次も、自作の漢字が褒められて「そう言われると作った甲斐があるよ」とへへっと鼻をこすりながら笑う。
一方…その状況に戸惑い気味の加奈。
(あれって…完全に『あて字』になるんだけど、いいのかな…)
内心、これでいいのかな…と疑問に思いながらも、当の本人が上機嫌の所に水を差すのは
よくないなという気持ちが勝り、黙る事にした。
この以降、マーテルは『漢字愛好家』となったらしく、ノートに漢字の練習をしている光景を
見かけるようになった。
【おわり】
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※ちなみに、他の2人の仲間の名前も、慶次に書いてもらいました。
◇【湯庵(ユアン)】
◇【駆羅途須(クラトス)】
マーテルは、漢字コレクションノートに、掲載しています。
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