色々噺(その他)


…あの約束をしたのは、ちょうど今頃だったか。

あいつはまだ幼さの抜けない年頃の娘で…

俺は、しがない「傭兵」の身だった。





【祝福の日】





「え―! 二日前が誕生日だったんですか!?」



俺と妻…マリエルが付き合い始めて数ヶ月たった時のことだ。

マリエルが、俺の誕生日を尋ねてきた。


【誕生日】―――この言葉はあまり好きではない。

生まれてから今日まで、周囲から祝福された事がないからだ。

俺にとって、誕生日とは単に年を重ねる事を知らせる日程度にしか思っていない。



「別にいいだろ…」

「よくありません! 恋人の誕生日をお祝いできなかったなんて…」



普段は温和な彼女が、ムッとした表情で声をあげる。

いつにない恋人の気迫に、少しおされてしまう。

すると…マリエルは顔を俯けてポツリポツリと呟く。



「小さい頃に…同い年の子どもが家族で誕生日を祝っているのをみて、羨ましかったの…」



ああ、そう言えば…とヴァンスは記憶の箪笥を引き出した。

マリエルは物心つく前に、両親を疫病でなくしていた。

たった一人の姉と共に暮らしていたが、姉は城の宮仕えであったために、家を開ける事が多かった。

実質上、ひとりぼっちだ。



(マリエル…お前は……)


「だから…もし好きな人ができたら、その人が寂しくない様に誕生日を祝ってあげたい、と思っていました」


(…おい、自分自身はいいのか)



普通は「好きな人に自分の誕生日を祝ってほしい」というはずだ。

何故か、自分よりも他人であるヴァンスの誕生日を優先する。

前々から感じていたが、マリエルは、一般人とどこか感性が違うのかもしれない。


目尻に涙を溜めている恋人…。

このままでは、徐々に涙腺が刺激されて、号泣しだすのが目に見える。

ヴァンスは、ハァとため息を漏らすと自然と口が動いていた。



「…なら、今からでも遅くない」

「えっ……」


「祝ってくれるんだろう?」



泣きそうなマリエルの頬を壊れ物を扱うように優しく触れ、指先で零れそうになった雫をふき取る。

ヴァンスの言葉に、マリエルは一瞬、硬直したが…

徐々にその表情に曇りが消え、晴れわたるような笑みを浮かべる。



「…はい! そうだ、お祝いするなら御馳走にしないと…今すぐ材料を買いにいきますね!」



すぐに駆け出しそうな勢いの恋人に「急がなくていい」と注意する。

走り出したら、途中で転ぶかもしれない。

少し足を早めに動かす彼女に…ある事を聞いてみた。



「マリエル、誕生日はいつだ?」

「えっ、私の…ですか?」


「ああ」

「誕生日は明後日です」



10月16日―――俺と4日違いだったとは…。

互いに生を受けた日が近い事と…ちょうど今日が、二人の誕生日の真中である事に気付く。

だったら……



「今日を、二人の誕生日にしないか?」

「今日…ですか?」


「お互いに生を受けた日が近いんだ。12と16の間をとって【14日】。適当だと思わないか?」

「…はい、いっしょにお祝いして…嬉しさも2倍になりますね!」



マリエルは、その提案に花のような笑顔を見せて了承の言葉を言う。

「決まりだな」とヴァンスは口元に小さく弧を描く。

すると…前を歩いていたマリエルがクルリと振り返り、ヴァンスに向かって言った。



「お誕生日おめでとう、ヴァンス」

「おめでとう…マリエル」



それ以降、二人は14日に誕生日をあげるようになった。


あの時の思いでを振り返る……「リエ」「ヴァンス」


あの頃にはもう戻れない。

けれども、二人の思いは変わらない。

立場が変わっても…

離れ離れになっても…


二人は、誕生日に互いの祝福を祈る事を忘れない。

それだけ…彼らに強い「繋がり」がある事を物語っていた。





【おわり】

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