【20】リスタート・クエスト(マルチエンディング 2)


夏休みが残りわずかとなった…8月29日の午前10時。

夏用のセーラー服を身に纏い、舞香はヴァルハラ教団の玄関門の前に立っていた。



「長いお休みでしたね」

「そうだね…」



彼女の隣には、傑がいる。

本日の彼は、黒の僧衣と袈裟を着ている。

これは、呪術師として活動する際の制服みたいなものとして愛用しているそうだ。



「ふぅ…緊張するな」

「携帯で連絡も取りあっていたのに?」


「文明の利器を通してと、直に会うのでは話が違ってくるよ。

…君の事を大事に思っている方々なら猶更だ」



そういう会話をしながら、二人は門を通った。

着いた先は、教会の休憩所。

そこには、リエとソファーに腰かけているコラソンがいた。



「ごきげんよう、シスター・リーザ」

「おかえり、シスター・リーザ」


「ごきげんよう。只今、戻りました。シスター・マリエル、ロシナンテ司祭」



舞香が礼儀正しく挨拶をすると、倣うように傑も深々と頭を下げた。



「このたびは、御迷惑をおかけいたしまして大変申し訳ございませんでした」

「自分が何をしたのか、分かっているのか?」



コラソンが眉を顰めながら、厳しい口調で説教し始める。

傑は「仰る通りです」と真摯に受け止めていく。



「夏油さん、悩みは…解決いたしましたか?」



二人の会話に参加する形で、リエが意味深気にその問いかけをした。

傑は「はい」と小さく頷くと、隣にいる舞香に視線を向ける。



「彼女のおかげで、救われました」

「そうですか…それは安心しました」



互いに顔を合わせて笑い合う二人。

彼等の間に漂う和やかで、幸せな空気を感じ取り、コラソンはなんとも言えない表情を浮かべる。

すると、傑が真面目な顔つきとなり、リエにこう話を切り出した。



「シスター・マリエル…リエさん。改めてお願いに上がりました」

「用件をお聞かせ願えますでしょうか?」


「近い内に、ギルドで行われるエージェントの資格試験に参加しようと考えています。

そのため、リエさんに仲介して頂きたくお願いいたします」



一般人がエージェントの資格試験を受ける場合は、年齢条件に加えてヴァルハラ教団の関係者か

繋がりのある人物からの紹介状が必要となる。


以前よりかは緩和したものの、ヴァルハラ教団と呪術界の関係はお世辞にも良好とは言い難い。

ましてや、特級呪術師の称号を持つ傑が「エージェントになる」と宣言するとは…誰が予想しただろうか。

事実、コラソンは「マジで!?」と仰天顔をしており、舞香もええ…と驚きを露わにしている。



「呪術師の御仕事はどうなさるおつもりですか?」


「エージェントになったとしても続ける所存です。

ギルドでも呪霊討伐の任務があると伺いましたので、何かお役に立てるかと思います」


「呪術高専と距離を置いたそうですが、繋がりが消えたわけではないでしょう。

貴方のその決断は、邪推されるリスクもありますよ?」



傑がエージェントになれば、呪術界の上層部が黙っていない。

下手をすれば、親友や恩師、かつての仲間達とも敵対する危険性もある。

リエの鋭い指摘に対し、傑はにっこりと清々しい表情でこう答えた。



「ご安心ください。もう【対策】はしています」

「まぁ、詳しいお話を聞かせてくださる?」

「内容が…些か過激な部類になりますので、やんわりとした表現を使わせて頂きますね」



傑がその内容を語り出して、暫くすると…



「あらまぁ…」

「やばい! こいつ、五条とは違う意味で厄介な男だった…!」

「傑さん、そんな事されていたんですね」



リエは口元を緩やかにあげて、感嘆の声を漏らす。

コラソンはドン引きしており、傑の事を改めて要警戒人物と認定したようだ。

そして、舞香は冷や汗を流しながら微苦笑する。


単刀直入に言うと、この一年の間、傑は独自で築いた人脈をフル活用して上層部や保守派の弱みを握った。

今後、意地の悪い介入をしないように…念入りに。


傑が言うには、これでもオブラートに包んだ形で説明した方なのだ。

ストレートに語ったら、さらにえげつない内容になるらしい。



「これから…少しずつですが、呪術師もエージェントの資格を得るために行動し始めるはずです」


「まぁ、それは朗報ですね」


「呪術師にとって、呪霊を討伐できる第三者の組織ヴァルハラ教団は脅威であり、同時に頼もしい存在でもあります。

無闇に敵対するよりも、味方である方が双方にとって望ましい事。

私はその橋渡し役となり、呪術師とエージェントのふたつの資格を持つ先駆けとなります」



そう言うと、傑は舞香の手をそっと握りしめる。



「そうしたら、私は気兼ねなく君を守る事ができる」

「傑さん…」


「おい、何気にカッコいい事言ってるが、建前のように感じるのは気の所為か?

なんか、最後の方が本音っぽく聞こえるんだけどな…」


「ハハハ、まさか…全て本音ですよ~。

(ある程度、それらしい事言っておかないと、納得しないだろ。馬鹿正直な猿じゃあるまいし…)」


「副音声! 副音声、聞こえてるよ!?」



傑の心の声を聞き取ったのか、コラソンは盛大にツッコみを入れる。

すると、リエはクスクスと笑いを零しながら口を開いた。



「分かりました。この件は会議に回す必要はありますが、私の方から紹介状を書きましょう」

「…っ!? ありがとうございます!」



リエが了承してくれた事に、傑は嬉しさを顔に露わにして御辞儀する。

舞香は感じ取った。

…物事が良い方向に進んでいく、そんな空気の流れを。



「ちょっとまてー!!」



その時、休憩所の扉を破壊する形で、悟が現れた。

「五条!? やっぱり来るのか!! あと、扉壊すなぁああああ!!!」とコラソンが怒鳴りつけるが、

悟は彼の言葉を華麗にスルーしつつ、つかつかと傑の方へ寄っていく。



「傑、高専中退した事とか、連絡ほとんど取らなかった事とか色々言いたい事はあるんだけどなぁー…」


「ごめん、悟」


「細かい事は後回しだ。それよりも、大きな問題が二つある!

一つ目は、傑…なんで、俺が計画していた事を先回りしてるんだよ!」



悟もまた、呪術師がエージェントの資格を取る事が可能となるよう働きかけていたようだ。

その過程で、有力な腐った蜜柑…もとい上層部やその関係者を一掃して、信頼できる者に置き換えたとの事。

「類は友を呼ぶってこの事か…」とコラソンがげんなりした様子で呟く。



「ちょうどよかったじゃないか。私は先に試験を受けさせてもらうよ」

「よくねえ! リエさん、俺も受けるから紹介状書いてくれよ!」


「五条君、今までの行いをよーく振り返ってくださいね」



舞香の脳内に、スウェア(シスター候補生)になり、シスターになるまでの九年間の記憶が蘇る。

振り返ってみると、悟は事ある毎にリエに対抗意識を剝き出しにしたり、コラソンや他の聖職者相手に

何かと騒動を起こしていた…回数が多い。


「反省をしない方は、お断りいたします」と笑顔でバッサリと正論を突きつけるリエ。

舞香は上司であり、恩師であり、最高の理解者である彼女の意見にこくこくと頷いてしまう。



「じゃあ、後で反省文を提出するからお願いします!」

「今更かよ!?」


「一旦、この話は置いておいて、二つ目は…傑! 舞香と距離が近すぎ!!」



「お前は、俺の隣!」と悟は二人の間に割り込み、傑から舞香を遠ざける。

舞香の手を強すぎず、けれども逃がさないように弱くない程度に握りしめると…



「舞香、夏休みの間、どうしてた?」



悟は胡乱な目つきで質問を投げかけた。



「任務に行っていました。リエさんやコラソンさんから説明を受けませんでしたか?」

「守秘義務があるからって、任務に行った事以外、全く教えてくれなかった。つーか、なんで傑と一緒に…」



悟が言葉を言いかけたその途中で、「はいはい、そこまで」と傑が彼を隣にずらして、元の位置に戻る。



「舞香、戻ってきたばかりで疲れているだろう?

部屋に戻って休みなよ」


「では、お言葉に甘えますね」


「ちょっ…話がまだ…って、 今、舞香の事 呼び捨てしただろ!?

いつの間に、そんな仲になったんだよ!!」



まあまあ、話し合おうと傑は微苦笑しながら、悟を宥める。

コラソンに羽交い締めされながら、悟はギャーギャー騒いでいる。

その様子を隠すように、リエが出入り口に立った。



「夏休みはあと数日ありますから、ゆっくりとお過ごしください」

「はい、ありがとうございます」


「それと…芽生えた感情の花を大切に育ててくださいね」



口元を人差し指で軽く抑えながら、リエはウインクして助言をしてくれた。


「はい…!」と舞香は返事をする。

…好きな人と両想いになり、嬉しい気持ちで満たされている心からの笑顔を浮かべて。





マルチED 2【運命を克服した者、愛の花を咲かせる】





これは、私だけが見えている物語。

シスター・リーザ…舞香ちゃんが選んだ結果、これから辿る可能性が一番高い未来の話。


夏油傑さんは、舞香ちゃんのおかげで心の傷を癒す事ができた。

勝手に連れ去った事は、非常に問題のある行動だったけれど…

傑さんは、舞香ちゃんの事を傷つける手段を用いずに、真摯な態度で彼女に思いを伝えた。

そのおかげで、舞香ちゃんも現世で愛おしい人を見つける事ができた。



この先、二人には色んな試練が待ち構えている。

悟君は、舞香ちゃんの事を諦めずに、人生をかけて想いをこれでもかというくらいに伝えていきます。

傑さんともいっぱい喧嘩をしてしまうけれど…結局は、落ち着いた形で仲直りするから大丈夫。



禪院家の跡継ぎ候補さんは…ダンさんのお仕置きが堪えたのか、暫くは大人しくなりそう。

でも、御当主様が悪巧みを止めなさそうだから、警戒はしておかないといけませんね。



呪霊の方でも、新しい人間の負の感情で生まれた呪霊さんが、あれこれちょっかいをかけてきます。

舞香ちゃんが気に入ったのかしら…?

花御さんやごんちゃんのような高位呪霊とも仲良しだから、それで縁ができるのかもしれません。



そうそう…古の呪術師の件は、気にしないでくださいね。

特に、黒幕さんは見過ごせないレベルの悪行をしていたので、早々にお仕置きいたしましたよ。

こちらで厳粛な罰を施したのでご安心を。


ただ、呪いの王様と従者の方は要注意ですね。

呪いの王様は、ヴァルハラ教団に個人的な恨みを抱いているから、気を緩めないようにしないと…



そんな試練の中で、二人は絆を深めていく。

早くて季節が七回巡った先で、二人はあの夏祭りの秘密の場所に行く。



夜空を彩る花々が咲き乱れる中、傑さんは舞香ちゃんに再びプロポーズする。

そして、舞香ちゃん…貴女は彼にあるとっておきの情報をカミングアウトします。

感激する傑さんと、嬉しそうに笑う貴女の薬指には、かつてあの御店で購入した指輪が輝いている。

まるで、二人が結ばれる事を祝福するかのように…



どうか、『契約者』である貴女がその幸せな未来へ辿り着けますように。

【幽玄なる祈り人】…マリエル・レイディアンは祈ります。



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