【20】リスタート・クエスト(マルチエンディング 2)


傑の告白から三日後。

舞香は、傑と共に外出した。

最寄りの神社付近で、大きな祭りが開催されるからだ。



「この祭りに参加するのって…あの時以来だね」

「懐かしいですね」



十一年前、傑と初めて会ったあの夏休み。

幼かった二人は、舞香の兄の和広と一緒に夏祭りに行った。

低級呪霊が悪さを仕掛けてきて、傑が祓った事をきっかけに、二人は友達となれた。

舞香にとって、傑は県外で初めてできた男の子の友達であった。

傑は舞香と出会った事で、呪術師になろうと決意した。

色んな意味で、あの時の出会いが『今』に繋がっている。



「その浴衣、よく似合っているよ」



舞香は浴衣を身に纏っている。

薄い桃色の生地に、キチョウの花が描かれたその浴衣は先日、実家の母から送られてきたものだ。

「がんばってね!」と、なんとも意味深で反応に困るメッセージ付きだったので苦笑してしまった。

髪型は下ろした髪をひとつに束ね、三つ編みにした。



「とても…綺麗だよ」

「ありがとうございます」



傑からそう言われ、舞香は素直に感謝する。

今回は、傑もシンプルな藍色の浴衣を着ている。

少年時代から顔立ちは整っていたが、成長して塩顔の美青年となった。

実際、彼が歩いているだけで、年齢を問わず異性の視線を奪ったり、頬を紅潮させている。

十一年前に予測した事が現実となったなぁー…と舞香は糸目になりながら思った。



「傑さんもかっこいいですよ」

「うん、君に言われると嬉しい」



照れたように笑みを浮かべる傑。

彼の可愛らしい一面を見れて、舞香もつられて笑ってしまう。



「まずは、何か食べよう」

「そうしましょうか」



二人で屋台を巡る事にした。

観光客が賑わう通りを歩きながら、まずは食べ物系の屋台へ向かう。

焼きそばや串焼き、たこ焼き、フランクフルト、じゃがバター…唐揚げとフライドポテトを購入した。

自動販売機で烏龍茶2本を買って、観光客用に設置された木製の机と椅子に腰かける。

「いただきます」と二人で食事の挨拶をして、夕飯を楽しむ事にした。



「うん、このフランクフルト…いい材料使ってる」

「唐揚げも美味しいですよ。塩味と醤油味、どちらにします?」

「じゃあ、醤油で」



祭りの屋台で提供されるメニューは格別だ。

単純にいい材料と調味料を使っているからか…

【非日常】でしか味わえない、特別な環境だというのも理由の一因だろう。



「傑さん、口元にケチャップがついていますよ」



烏龍茶を飲んでいると、傑の口元の右側にフランクフルトのケチャップがついているのが見えた。

「あ、どこだい…」と傑が聞き返したその時、舞香は自ずとハンカチで彼の口元を拭った。



「はい、取れましたよ」

「う…うん…ありがとう」



心なしか、傑が呆然としているように見えた。

小首を傾げていたが、舞香はあっ…と声を漏らして気付いた。

無意識に、異性の頬に触れてしまった事に。



「すみません、恥ずかしかったですね…」

「いや、汚れを取ってくれてありがとう」



ちょっとぎこちなくなる二人。

舞香も内心動揺していた。

一緒に過ごしていた影響から、傑との距離が縮んでいる事を今更ながら感じた。



(…自分の心に、嘘はつけない)



舞香はそっと胸元に手を押し当てて、こっそり溜息をつく。

傑に改めて告白された時、返事ができなかった。

「返事はいつでも構わない」と言ってくれたが、いつまでも保留にしている訳にはいかない。


…本当は分かっている。

だから、二日前にリエに連絡を取って相談した。

数時間くらい話し合った末、ひとつの結論を出した。



(今日、言わないと…)



タイミングを見計らって、傑に返事しよう。

舞香が思案していたその時、後方でドガッ、ドサッと何かが倒れた音が響き渡った。

傑が目を丸くしてその方向を見ていたので、舞香も咄嗟に振り返ると…



「失礼した」

「どうやら、熱中症で倒れたようだ…病院へ運ぼう」



近くで和服を着た青年二人が地面に横たわっていた。

祭りの運営委員会のスタッフらしき男性二人が、これは一大事だと言わんばかりに

熱中症で倒れただろう人達を軽々と俵抱きしてえっほっ、えっほっと運んで行った。



「ああいう運び方をする人、間近で見るのは初めてだよ」

「凄いスタッフの方々でしたね…」



感嘆する傑とは別に、舞香ははてな…と首を傾げる。

熱中症で倒れた青年二人の着用していた和服が引っかかった。

浴衣ではなく、良家に仕えている従者が着る衣服に見えたのだ。

この地域の由緒正しい屋敷で働いている人達だろうか?


あと、黒いTシャツとズボンで、専用のネームプレート?をつけていたスタッフの男性二名…

彼等は、甚爾のように服越しからも分かるくらいに鍛えられた肉体であり、隙がなかった。

あたかも、幾千もの戦を乗り越えた戦士のように…


さらに、二人のうち、一人の男性に既視感を覚えた。

…どこかで見かけた事がある気がする。







「舞香ちゃん、少し歩こうか」

「はい」



食事も終わり、舞香は傑と運動がてら歩いていく。

行きかう観光客は、友達連れやカップル、親子連れ等が多い。

同時に、ちょこちょこと低級呪霊も彷徨っているが、現段階で害はないのでスルーしている。



「そろそろ花火の時刻だよ」



傑はそう告げると舞香の手を握り、ある場所へ歩を進めて行く。

こうして手を握るのは初めてだ。

大きくて、舞香の手をしっかりと包み込んでくれる。

トクトク…と胸が小刻みに鳴る。



(この人といると…ほっとする)



―――そう、それが『答え』

舞香は口元を緩めると、改めて自分の気持ちを認識できた。



辿り着いたのは、祭りの開催場所から近い小さな寺の一角だった。

階段を昇っていき、寺の裏側にある場所に移ると、そこから祭りの場所が一望できた。

提灯や屋台の灯り、行きかう人々を見ていると、空に飛び上がる口笛に似た音が聞こえた。

見上げると、鮮やかな大輪の華を咲かせるように、色とりどりの光の芸術が次々と夜空を彩っていく。



「きれい…」

「此処を見つけた時から、いつか大事な人と一緒に花火を見ようと思っていたんだ」



「ようやくその夢が叶った…」と傑はしみじみと語る。

大事な人…という言葉を聞き、舞香は傑と向き合う形で口を開いた。



「傑さん、素敵な場所を教えてくれてありがとう」

「気に入ってもらえて光栄だよ」


「だから…先日の事、お返事してもいいですか?」



舞香が真剣な顔で口にした事に、傑は神妙な面持ちで「うん」と首を縦に振った。



「私は、貴方の事を…一人の男性として好きになりました」



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