【20】リスタート・クエスト(マルチエンディング 2)
舞香が連れてこられたこの場所は…傑の住処のひとつだった。
「人脈形成に力を入れている最中なんだ。
同時に、仕事絡みでやっかみを受ける事も少なくなくてね…」
…という理由から、一か所の拠点では、敵勢力に狙われるリスクがあるため、
傑は此処を含めた各都道府県にいくつか住処を確保しているとの事。
補足説明すると、舞香が連れてこられたこの住処は、香川県の中央付近の地域にある。
元々、老人夫婦が暮らしていた庭付き一戸建てを買い取ったそうだ。
(叔母さんが住んでいた家からは…そう離れてはいない所ね。行けるかしら…?)
そんな事を考えながら、舞香は縁側に腰を下ろしてそれなりに広めの庭を眺める。
花壇には季節の花々が埋まられており、周囲に雑草はほとんど生えていない。
木々の剪定もきちんとされており、手入れがしっかり行き届いている。
「庭のお手入れは、傑さんがされているんですか?」
「うーん、半分正解」
傑はそう答えると、「よーく見てごらん」と庭の注視するように勧めてきた。
彼の言う通りに、庭の隅々を観察していくと…
「あ、呪霊がいる…!」
庭の目立たない所に生えている雑草を、目玉が大きい金魚型の呪霊がぱくぱくと食べている。
「一年前に入手した新しい呪霊だよ。
日常生活で使い勝手が良くて、重宝しているんだ」
庭の清掃や大体の手入れを、手持ちの呪霊に任せているとは…
さすが、【呪霊操術】の使い手だ。
パチパチと小さく両手を叩くと、傑は「それほどでも」と機嫌よさげに軽く手を上げる。
「ところで、舞香ちゃん。今後の事だけど…」
傑が次の話題を切り出したその時、舞香はハッとした。
「すみません、傑さん。此処に来る時、私の鞄も持ってきてくださいましたか?」
「えっ…ああ、いっしょに運ばせてもらったよ」
傑が学生用の鞄を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」と御礼を言うと、舞香は鞄の中から携帯電話を取り出した。
「
暫く、お世話になりますので…」
「うん、もちろん」
傑の了承を得てから、舞香は携帯で二人の師と連絡をとった。
幸いにも、明日から夏休みに入る。
傑の様子を見守るには丁度良い長期休暇となるが、教会の仕事やギルドの任務ができなくなる。
だから、二人に事情を話して、夏休み中は全ての業務を休む許可を取る事にした。
メールで連絡しようとしたその時、携帯のホーム画面に「コラソン」の名前が表示された。
「もしもし」と通話ボタンを押すと、動揺と驚愕を含んだ大きな声が返っていた。
『おおっ、繋がった!? 舞香ちゃん! 今どこにいるんだ!?』
「コラソンさん、ご心配おかけいたしまして申し訳ございません」
案の定、コラソン達は突然いなくなった舞香を捜索していた。
丁度、ギルドの仕事を探していた甚爾も加わってくれたようだ。
一連の経緯を説明すると、耳元にピリッと電流らしきものが走った。
『舞香ちゃん…ちょっと夏油君と代わってもらえるかな?』
(はっ、これは…!)
傑の諸事情は理解しているにせよ、彼のやった事は歴とした犯罪である。
その事が、コラソンの逆鱗に触れたようだ。
彼の放つ殺気交じりの覇気が、携帯越しにビリビリと伝わってくる…!
はわはわわわっ…とあたふたする舞香に、傑は「貸して」と携帯を渡すように手を差し出した。
「大丈夫。覚悟はできているから」
穏やかな表情で言う傑に、舞香はほんの刹那の時、逡巡してしまうが、彼に恐る恐る携帯を渡す事にした。
「すみません、夏油です…」
『俺達の可愛い生徒に何しようとしてんだ、この★★○○◆◇!!!!!!』
スピーカー機能はOFFにしてあるはずなのに、コラソンの怒声が携帯からぶわっと高音で溢れ出した。
その衝撃で、舞香は危うく吹き飛ばされそうになり、なんとか踏み止まったためか変な形で座り込んでしまう。
肝心の傑はと言うと―――
「はい」「仰る通りです」「申し訳ございませんでした」と顔色をひとつ変えずに、
コラソンと謝罪を含めた話し合いをしている。
(…大丈夫かしら)
座り込んだ舞香はハラハラしながら、その様子を見守るしかなかった。
それから…30分が経過した。
携帯での話し合いはまだ続いている。
15分頃辺りに、コラソンの怒りも収まりを見せており、なんとかまとまるかと思っていた…のだが、
『私も、夏油君にお話ししたい事があります』
スピーカー機能がOFFになっており、コラソンのように分かりやすく大きな声をあげたりしていないのに、
舞香は、リエの声がハッキリと聞こえた。
それから、話し相手がリエへと変わり、現在に至っている。
スピーカーのOFF機能がようやく働き始めたのか、リエとどんな事を話し合っているのかは
傍から見守っている舞香の耳には届かない。
ただ、先程のコラソンの時とは異なり、傑の表情に緊張感が漂っている。
どんな話をしているのやら…と詳細が気になってしまう。
「舞香ちゃん……リエさんが代わりたいって」
さらに、30分が経過して…ようやく話は一段落したようだ。
やや顔色がすぐれない傑に気にかけつつも、携帯を受け取る。
「リエさん、代わりました」
『舞香ちゃん、先程ぶりです。事情はお聞きいたしました』
―――“いつも”のリエだ。
その事にほっとしつつ、リエと話をしていく。
『高校生最後の夏休みです。
折角ですから、ゆっくりとそちらで過ごしてください』
意外な事に、傑を見守る名目とはいえ、夏休みを彼と過ごす事をすんなりと許可してくれた。
疲れている傑の様子を見ると、かなり念押しに何か注意事項を告げた可能性は高い。
厳守するように釘をさす事も忘れずに…
それから、今後のスケジュールに関して多少の打ち合わせをしていった。
…最終日でも構わないので夏休み期間中に、ヴァルハラ教団に戻る事。
…同居する傑とは、きちんと生活する上での
そして―――
『舞香ちゃん』
「はい、なんでしょうか?」
『長い休暇を過ごす中で、何かに迷ったり、悩みができたら…
遠慮せずに、私かコラソンさんに相談してくださいね』
「はい、分かりました」
頼もしい言葉に、舞香は頬を緩めて返事をした。
通話を終えると、ふぅ…と一息つく。
自ずと、畳に楽な姿勢で座っている傑と目があった。
「…飲み物、いりますか?」
思っている以上に、疲労の色を顔に露わにしている傑を気遣い、そう尋ねると…
「うん……頼むよ」と傑は苦笑しながら言葉を返してくれた。
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