【19】リスタート・クエスト(マルチエンディング 1)


「悟さん、放してください」

「いーやーだ!」



舞香は座った状態で、悟に後ろからハグされている。

なんとか、説得しようとして十数分。

…交渉は難航を極めていた。



「そろそろ授業が始まってしまいます」

「さぼってプリーズ」

「もぅ…そんなお願いしないでください」



さっきからずっとこの調子だ。

是が非でも逃がさない…彼の意思は固いようだ。

チュッ、チュッ、と小鳥が啄むように髪や頬、項にキスを降らせている。

「くすぐったい」と身を捩じらせるが、止む気配がない。



「舞香は…俺の事嫌い?」



ぼそっと呟かれた問いかけ。

舞香は首を緩慢に振ると、悟は額に優しく口付けを落とした。



「俺はずっと…ずぅううう――――と、舞香の事を想ってたよ」

「どのくらい、ですか?」

「初めてあった時から」



長い年月をかけて、彼の思いは育まれてきたようだ。

首筋に顔を埋める悟に、舞香は改めて口を開いた。



「ありがとう、悟さん」

「それじゃあ…!」

「でも、貴方の手を取る事はできません」



断りの返事をした直後に、押し倒された。

悟は眉を寄せて、不機嫌な表情を露わにしている。



「どうして?」

「夢を諦めたくないからですよ」

「俺も同じだよ。舞香を諦めたくない」



そう返しながら、舞香の身に着けているセーラー服の白いスカーフを脱がそうとしたが…

舞香は彼の右手をぺちっと叩いて、それを制する。



「おさわりはいけません」

「もっと触れ合いたい」

「R指定はダメです」



迫りくる唇を掌で阻止した。

お返しと言わんばかりに、悟は指一本ずつに唇を這わしていたが…



「あ…?」

「悟さん、ゆっくり疲れをとってください」

「…ちっ…くしょ…」



瞼が閉じないように必死に抵抗する悟だが、ついに意識が遠のいてしまった。

すぅ…と寝息を立てる悟をそっと仰向けにして、舞香は拘束から抜け出す。

…無詠唱で、眠りの魔術が成功してよかった。

最低でも数日くらいは熟睡するだろう。



「これからどうしよう…」



とはいえ…問題解決した訳ではなく、あくまで一時しのぎの対応に過ぎない。

悟が目を覚ましたら、すぐさま行動を移すのが推測できてしまう。


舞香は思考した末に、辿り着いた結論は―――



「よしっ、隠れましょう!」



早速、教育係であるリエとコラソンに相談しに行こう。

舞香は風魔法を使用して、屋上からふわりと飛び立った。





悟が起きたのは、三日後。

自らが通う呪術高専の保健室で意識が覚醒するや、視界に入ったのは親友と同期の女子だった。

親友の傑から聞かされたある情報に、悟は耳を疑った。



「はぁ!? 舞香がいないって…どういう事だよ!!」

「いや、突然の事で私達も驚いているんだ」



舞香が国外へ渡ったのは、昨日の早朝の事。

海外にあるヴァルハラ教団が運営する学校へ留学するため…というのが表向きの理由だ。



「んなわきゃねーだろ!」



しかし、悟は知っている。

舞香は国外逃亡したのだ…彼から逃れるために。



「あーあー、だから言ったじゃん。強引に迫るのはやめときなって」



悟が爆睡する術にかかっていた事、彼の発言から状況を察していたのか、硝子は呆れた顔で指摘する。



「うん、硝子の言う通りだよ。選択を誤ったね…悟」



傑も彼女の言葉に賛同する形で、親友を諭すように言った。

すると、悟はベッドから起き上がると、すぐさま保健室から出ていこうとする。



「どこ行くの?」

「決まってるだろ」



バンッと強く扉を開いた悟。

愛憎、憤怒、執着…そういった負の感情を煮詰めた色を顔に纏わせて…

傑と硝子に「お前ら、証人になれよ」という隠れメッセージを込めるかのようにこう宣言した。



俺の嫁まいかを迎えに行くんだよ。

見つけ次第、嫁と暫く五条家じっかに籠るから。

傑、硝子…夜蛾センに長期休業する事伝えといて」


「うける。嫁認定してる上に監禁宣言かよ、やばすぎ」

「まったく…懲りないね。事情説明するこっちの身にもなってほしいな」



飛び交う失笑と憐れみの言葉等に構う事なく、悟は術式を発動させてその場から姿を消した。

この時点で、悟は想像していなかった。

舞香が留学したのはこの世界に存在する外国ではなく、【異世界】である事を。


そうして、時に彼女の教育係と盛大に闘い、時に海外を渡り歩いていき…

数年後に、成長した舞香が一時帰国した際に、逃がすまいと彼女を追い掛け回していく

鬼ごっこを繰り広げていく事になるのだが…それは、また別の話。





マルチED 1【転生少女は、逃亡してでも夢を叶えたい】



*** ****** ***



【あとがき】


夢小説連載【リスタート・クエスト】を執筆している最中に、思い浮かんだマルチエンディングのひとつです。


このルートとなる条件は、以下の通り。


①裏話2話で、五条が【愛の呪い】を施している事に、舞香が気付いてしまう事。

②舞香の五条に対する好感度が50%未満、他の呪術高専の面々との交流度が40%以上である事。

③夏油が離反せず、灰原が生存ルートを辿っている事。

④五条が既に五条家の当主となっている事。

⑤五条が高専4年生になるまでの間に、裏話5話のイベントが未発生である事。


なお、このルートの五条は手段を選ばない覚悟を決めています。

舞香は捕まり次第、五条家の嫁ルート一直線となるので、要注意EDのひとつです(苦笑)



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