【10】敵陣的新年会
「あはは、ヴァンスって怖いんだか、度胸があるんだかわからないね~」
「…っていうか、おめぇ誰だよ? さっきまで此処にいなかったじゃねーか」
「そういう君こそ誰?」
「あー、ヴァンスとは一種の腐れ縁ってヤツだ」
「フフフ、僕もいっしょ♪」
「胡散くせぇ奴だな…」
左目の下に三つ爪のマークがある白髪で三白眼の青年が可笑しそうに喋るのを、
横に座っている中年の体育会系の男性が訝しげに突っ込む。
(あらっ…ジェクトさんだわ)
その中年の男性とは顔見知りだった。
ジェクトは、娘の店で働くティーダの父親だ。
性格は豪快で尊大な面もあるが、親しい人物には不器用ながら気遣い等の優しさがある男性だ。
意味深気に笑う青年は…ヴァンスと契約を結んだあのキーブレードの元となった人物だろう
―――名前はおそらく「白蘭」
既に面識があり、キーチェーンの状態で話しかけられた事が何度かあった。
親しげに話しかけられるが、油断ならない人物だとは見抜いていた。
それにしても……
(この10年の間で、ヴァンスは多くの人達を味方につけたのね。凄いな…)
この大広間にいる人数はざっと30人以上。
別の部屋からも歓声やはしゃぐ声が聞こえる事からも多数の来客がいるはずだ。
「目覚めたのか、寵妃よ」
背後から聞こえてきた声に振り返ると…シュヴァルツが具現化して佇んでいた。
「シュヴァルツさん…お久しぶりです」
「ディアスは、契約せし者達との宴に興じている」
「そのようですね」
シュヴァルツは珍しく仮面をつけておらず、素顔を露わにしている。
リエが契約を交わしているグリューネと瓜二つの容姿だ。
「シュヴァルツさんは、出席しないのですか?」
「人の子が求める享楽には興味がない」
「…そうですか」
シュヴァルツは、ジッとリエに視線を集中させ、さらに言葉を追加する。
「だがこれだけは言える。ディアスが渇望するものの中には…必ずそなたがいる」
「あの人がそう言ったのですか?」
「おのずと分かること…。
仮に別の者がそなたの心身を奪おうなら、ディアスは世の理を壊してでも奪還する」
それだけ寵愛されているのだろう、と興味深そうな瞳で言われた。
リエの心境は少し複雑だ。
愛されているのだと嬉しい半面、その独占欲故に他者を傷つける凶刃になる事を苦しく感じる。
何時になく心音がトクリトクリと不規則に鳴っている。
「あやつの心を理解し、受諾するか否かはそなた次第だ。
私は…お前達の今後をみさせてもらう」
そう言うと、シュヴァルツは黒い霧と化して拡散した。
入れ違いに、部屋の障子があいた。
「奥方様、お加減はいかがでしょうか?」
ヴァンスの右腕であるイタチだった。
両手でお盆を持ち、食事の運んできたようだ。
「ヴァンス様は、もう暫くしたらこちらに参ります」
「あの…私は何故、ここに…?」
「最近、トワイライトタウン周辺で不審な者達が徘徊していたので…用心のためにとの事です」
【不審な者達】という単語にリエは首を傾げる。自分を狙う輩であれば、実力はどうであれ気付くはずだが…。
イタチは少し苦笑いをしてこう言葉を続けた。
「おそらく…奥方様と縁のある方々だと俺は推測しています」
そのヒントから「ああ」とリエは答えが導き出せた。
そういえば、今年は【彼ら】の城に行っていない。
リエが微笑するのをみて、イタチはお盆を差し出した。
「奥方様の好きな物をそろえました。ご賞味ください」
「ありがとうございます」
恭しく一礼すると、イタチはそのまま部屋を後にした。
ぶりの照り焼き、ほうれん草のおひたし、かぼちゃの煮物…。
差し出されたお盆には、確かにリエの好物が揃えられていた。
リエは、夫からの好意に甘える事にした。
「いただきます」
一口食べたかぼちゃの煮つけの程良い甘さが舌に伝わる。
(さてと…後で何から話そうかしら)
咀嚼しながら、このあと来るだろうヴァンスとの対話の話題を頭で模索するのだった。
【おわり】
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