色々噺(その他)
【Printemps et pâtes et sensation de l'amour】
ある晴れた正午のランチタイム…。
カフェ・レストラン【ムーンライト】はいつも通り、常連客で賑わっていた。
賑わうお客に紛れ込み、ひときわ目立つ服装をした人物がいる。
「はぐはぐ、もぐもぐ…び、美味でござる―――!!」
紅色のジャケットを羽織り、モグモグと口いっぱいに食べ物をほうばり、おいしさのあまり絶叫する青年と……
「ちょっと、旦那! 大声出さないでくれよ! 他のお客がこっちみてるから!」
まるで某島国の防衛軍の如く、迷彩色の忍服をきているお付きの青年だ。
騒がしい二人にチラ見したり、眉を顰める客もいるが、大半は関わらない態度を決め込んだようだ。
常連客に至っては、気にせずに普通に食事を楽しんでいる。
「お待たせしました。本日の特別メニュー【春キャベツとコンビーフのオイルパスタ】です」
そう言いながら、二人の前に現れたのは店のマスターであるコゼット。
店長自ら、出来たての料理を運んでくるとは…比較的新しい客層は驚いてしまう。
勿論、料理に舌鼓を打っていた幸村と佐助も…目を大きく見開いて。
「こっこここここ、こゼットどのぉおおお!?」
「旦那…驚きすぎでしょ」
幸村は顔全体が服と同じ真っ赤に染まり、舌の呂律が上手く回らない。
コゼットはクスリと笑うと、パスタを二人の前におく。
温かい湯気をふわりと漂わせるパスタ…。
未だに硬直気味の幸村に代わり、佐助が器用に箸で、小皿に二人分分けていく。
「おっ、おおおお元気そうで…ななななによ…りでござる…」
「ご無沙汰しております。当店の料理はお口に合いましたか?」
「ここ、コゼット殿のつくる料理は絶品でござる!」
「勿体ないお言葉です」
「そ、某…某はその~」
「…? 如何なさいましたか?」
「そっ某は…コゼット殿に…!」
「マスター、春の苺ケーキセット追加です!」
アルバイトの有利の呼び声に、コゼットは「はい」と踵を返す。
そのまま去っていくコゼットに、幸村は「あ…」と手を伸ばす。
すると…コゼットは首だけ振り向く。
「後から、新作のデザート、お持ちいたしますね」
パチリとウインクして囁く様に言った。
颯爽と厨房へ向かうコゼットの背中を、ぼぉーと見つめる幸村。
惚けている主に、佐助はトントンと肩を叩く。
「だーんーなー、ちょっとどうしちゃったのさ…ほら、早くしないと麺のびちゃうよ」
「な…な…」
顔を俯けてワナワナと震える主を、佐助は訝しげに見つめる。
大丈夫か…と思い、気遣うように声をかけようとした瞬間……
「なんと…可憐で…美しい」
幸村がはぁーと蕩ける様な面持ちで呟いた言葉を聞いて、佐助は違う意味でハァと息を漏らす。
(なんてゆーか…旦那も厄介な人に惚れちゃったな~)
「修行」と「御館様」一直線だった主に【春】が訪れた事を喜ぶ半面、その恋の道のりが
平坦でない事に一抹の不安を覚える。
けれども、ここは水を差すような事は言わないでおくのが無難でしょう、と自分の意見は
敢えて言わないでおいた佐助であった。
【おわり】
*** ********* ***
※タイトル名は日本語で「春とパスタと恋心」
・
