コゼットの日記
…つけられている。
チーシャンで屋台を開いている時から、視線を感じる。
どこかの国の刺客…または、アル・サーメンの関係者かしら?
ちなみに、私は箒に乗って砂漠越えしている。
さすがに、光翼をだして移動すると、キャラバン等に見つかったりした時に目立ってしまうから。
この世界では、魔導士は珍しくない。
そのため、私も魔導士に成りきる形で愛用している箒を移動手段にしている。
照りつける灼熱の太陽。
水分補給をこまめにしながら、時折降りて休憩する。
2時間後、飛行していると真下にオアシスを発見。
陽も落ち始めたので、今日はそこで野宿する事にした。
火をおこして、鍋を準備する。
食材の余り物があるので、それらを使って夕飯を作る。
一瞬、微かな気配の乱れを感じた。
チーシャンから私をつけている人物と同一の気配。
巧みに気配を消していても、『私』には解ってしまうのだ。
「どなたか存じ上げませんが、何か御用ですか?」
後ろを振り向かずに問いかけた。
「お初にお目にかかります。エクレシア」
姿を現したのは、ターバンとマスクで顔を隠した如何にも怪しげな人物
…案の定、アル・サーメンの関係者でした。
律儀に自己紹介もしてくれた。
向かい合うように座った、この男性は「イスナーン」と名乗った。
彼が、わざわざこんな砂漠の真ん中(?)にあるオアシスまで赴いて、私に会いに来た理由
―――以前も日記に書いたけど、「組織への勧誘」だ。
勿論、お断りしたけど…この人、意外としぶとい。
私はもう組織に所属している身だから、他の組織と兼任はできないと言っているにも関わらず、
やたらと食い下がる。
「我が父は、是非とも貴女に組織へ来て頂きたいとご所望なのですよ」
我が父…って、この人の血縁関係者ではなくて、多分組織の《指導者》という意味なのでしょうね。
その指導者は、何のために私を勧誘してくるのだろう?
エクレシアとはいえ、私はまだ修行中の身だ。
母さんやダンさんに比べるとまだまだだし、知名度も高くはない。
…というか、そんな事をこの世界の人が知るはずはないわよね?
一つ気付いたことがあった。
イスナーンさんが話をする時、どこか懐かしげに語り掛けている。
「本当に…似ている」
小さく呟いた一言で確信した。
この人は、私に対して…というよりも、私を通して似ている《誰か》に話しかけていたのだと。
『……君は、僕等の王が愛した【あの御方】によく似ているよ』
ブァレフォールさんの言葉が頭をよぎった。
イスナーンさん…アル・サーメンも《その人》の事を知っている。
どんな人だったのだろう…?
少なくとも、彼が見る眼差しは敵意とは正反対の…好意に近い感情で彩られている。
「……誰と似ているのか存じ上げませんが、私は、貴方のお知り合いとは全然違いますよ」
はっきり言った。
私は『私』であって、その人ではない。
彼が慕っている人物とは全く違う生き物。
私はその人には決してなれないし、身代わりにもなれない。
イスナーンさんはハッと我に戻ったのか、「失礼…」とターバンを被りなおして謝罪した。
あっ…意外と素直な人だ、と思った。
話している最中、私は器用に料理していた。
鍋にバターをひいて、余りものの野菜と斜めに切ったソーセージをいれて中火にかけて塩コショウ。
しんなりしたら水と コンソメをいれて蓋をする。
沸騰して、野菜に火が通ったら…ミルクを加えて一煮立ちさせて出来上がり。
うん、なかなかいい味に仕上がった。
お皿に盛りつけて、イスナーンさんにも食べてもらった。
一口食べて「うん、悪くはない…」と彼は感想を言う。
残さずに空になったお皿が、彼の舌に見合う味だったという証拠だ。
食べ終わると、彼は立ち上がり軽く会釈して「また会おう」と言い残して去って行った。
何故だろう…。
アル・サーメンはこの世界に負の連鎖をつくっているはずなのに…。
イスナーンさんを見ていると、心のない冷たい人だとは思えなかった。
何時の間にか、砂漠の地平線から陽が昇り始めていた。
一日がこんなに長く感じたのは初めてかもしれない。
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