ルシュの思い出メニュー
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「…とまあ、こんな感じの話だったってわけだ」
はい、おしまい…とシグバールは話を締めくくった。
自分を『知り合い』と置き換える形で昔話を語った訳だが、殊の外メンバーは話に耳を傾けてくれた。
「ふむ、そのリナ嬢はその国で幸せになれたのかな?」
「知り合いが言うには、学校を卒業してから物書きになったらしいぜ」
オムライスを食べたあの時に率直に感じた事が、ある意味現実となった。
詳細は省くが、リナはあれから五年後に自立する事ができた。
その過程で、実家絡みの問題や母国の関係者やらが関わってきたのだが…
(これ以上は疲れるってハナシだ)
当時の事を振り返ると頭が痛くなるので、話の範囲を広げるのは止める事にした。
「リナさん、元の婚約者と違って話を聞いてくれるいい人と結婚できていたらいいな…」
「そもそも、相手が勝手に破棄してきたんだから慰謝料は受け取って当然よね。
それで、どうだったの?」
「さあ? 俺はあくまで知り合いから聞いただけだからその辺は分かんねえよ」
一応その結末までは知っているが、ややこしくなるので絶対に話さないでおこう。
「大まかに伺ったという割には…オムライスの事は具体的に説明できるんですね?」
「ん? あぁ~…知り合いは食に関してはうるさいタイプだったんだ。
だから、こっちも羨ましくなるくらいに食レポ並みの解説をしてくれたんだよ」
ゼクシオンからの鋭い指摘に、シグバールは笑いながらそう返した。
「あぁ~、オムライスのところ聞いてたらさ…無性に食べたくなってきたよ」
「うん、俺も」
デミックスがお腹を擦りながら言った言葉に、ロクサスも共感したのか頷く。
…その時だった。
「食事の時間だから、早く食堂に来てくれ…リエからの伝言だ」
事務作業を終えたサイクスがやってきて、夕食の時間がきた事を伝える。
「お、ちょうどいいじゃねえか。今日のメニューは何だ?」
「あぁ…【オムライス】だと言ってたな」
アクセルの質問に、サイクスがさらりと答えるや、その場にいる若手のメンバー達は歓喜の声をあげた。
「やったー!」
「いいわねー、リエみたいに言えば【素敵なタイミング】ってやつかしら」
「トマトソースかな、それともデミグラス?」
「ソースは三タイプ用意しているようだぞ」
「へぇー、それならおかわり必須だな」
「ライスは? チキンライス、それともバターライス?」
「知らん。本人に訊けばいいだろ」
「なんか、俺だけ辛辣じゃない!?」
周りがわいわいと騒いでいる中、ルクソードは視線をシグバールへ戻すと…
「楽しみだな。ところで、どのソースにするつもりだい?」
意味深げに笑みを浮かべて問いかけてきた。
「んん~…ま、食堂に行ってから考えるってハナシだ」
答えはとっくに決めていた。
だが…素直に教えてやる気は更々ない。
シグバールは口端を吊り上げて、ソファーから腰を上げた。
【心もほんわかオムライス】
「はぁー…」
リナがアパートの部屋へ帰り、俺は思わず溜息を漏らした。
「ルシュさん、大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと疲れただけだよ」
「そんなルシュさんに、とっておきのデザートを用意しましたよー」
嬢ちゃんはそう言うと、俺の前にそのデザートが乗った皿を置いた。
「ゼリーか」
「蜜柑たっぷりの【フルーツゼリー】です。どうぞー」
スプーンで一口掬って、食べてみた。
冷たくて、蜜柑の甘酸っぱさとぷるぷるしたゼリーの触感がマッチしている。
濃厚なオムライスの後なので、口の中がさっぱりしていい。
「うん、うまい」
「よかった、よかったー…ルシュさん、今日はお疲れ様でした」
嬢ちゃんからの労りの言葉が、心地よく感じる。
心身が弱っている時に、ふわりと優しく守られるような気持ちにしてくれる。
ほのかな火が灯るように、心が温かくなる。
【言葉の愛撫】が絶妙で…
離れたくない、一緒にいたいと思ってしまうのだ。
「これから、ご飯仲間が増えるからいっぱい材料を買わないといけませんねー」
「…そうだな」
「んふふ、楽しみだなぁ~」
ルンルン気分で、マリエもゼリーを食べていく。
(なんでだろう…胸がスッキリしない)
二人だけで、寛ぎの時間が満喫できなくなる。
その事実が、黒いインクを落としたかのように釈然としない気持ちにさせた。
これがどういう意味なのか…?
俺がその答えに辿り着くのは、かなり後の話になる。
【つづく】
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