ルシュの思い出メニュー
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「先程はお見苦しい姿をお見せしてしまい、申し訳ございませんでした」
騒ぎの渦中の人物の一人…女子は、アパートの103号室の住民だった。
「いえいえ~、私は声をかけただけなので」
「ま、喧嘩は別の場所でやってくれたら、個人的にどうでもよかったんだけどな」
「ほ、本当に…すみませんでした!」
嬢ちゃんは、いつもの調子で女子を気遣っていた。
俺は、巻き込まれた所謂【被害者】としての意識があったのでそんな気分にはなれなかった。
その心情が態度に出てしまったため、女子は土下座をして三度目の謝罪をしてきた。
あの使用人の口調だと、かなり高貴な身分であったはずなのに…
やたらと低姿勢なのが逆に気になる。
「あー、もういいよ。気にしてないから」
「…ありがとうございます」
ちなみに、あの使用人の男はいつの間にか逃走していた。
嬢ちゃんの証言だと「時計見てたから、きっと急がないとダメな予定でも
あったんじゃないですかねー」らしい。
正直、仕えている家の子女を残して逃げ出すのは使用人としても、人間としてもどうかと思うが…
ツッコみは心の中に留めておくとしよう。
「あ、ルシュさんは初対面でしたね。
こちらの方は103号室に住んでいるリナさんです」
「お初にお目にかかります。リナ・アンペールと申します」
嬢ちゃんから促される形で、女子…リナは自己紹介をした。
「ルシュだ…ところで、お嬢さん。
なんであの使用人と言い争っていたんだ?」
「うーん…今回みたいにアクシデントがしょっちゅう出るのは避けたいな~。
私も、理由を聞かせてもらえると助かりますね」
イヤなら無理に言わなくてもいいですよーと付け加えつつ、嬢ちゃんはさらりとリナに尋ねた。
リナは顔を俯けて暫しの間、沈黙した。
そして、「…分かりました」とか細い声を出すと顔を上げて事情を話してくれた。
…長い上に、ややこしい話だった。
簡単にまとめると、事の発端は一年半前に遡る。
リナの本当の名前は「カトリアナ・メル・イブランス」と言い、この国と友好関係を築いている
他国の侯爵家の娘であった。
リナは、幼い頃から別の侯爵家の子息と婚約していた。
お互いに仲も良く、通っていた学園を卒業してから結婚する予定だった。
しかし、学園に入学してから婚約者との関係に変化が生じてきた。
婚約者は国の王太子の側近候補であった事や一学年違う事もあったため、徐々に距離が出てきたのだ。
「それでも、できる限り二人で過ごす時間も作ってくれました。
でも、ある事件がきっかけで変わってしまった…」
「ある事件…?」
「王太子殿下が、公爵令嬢のサラザーク様と口論になったんです。
同級生のノックビン伯爵家のご令嬢…『ミシェル』さんの件で」
リナが言うには、ミシェル・ノックビンという令嬢は王太子と恋仲だった。
公爵令嬢…ベアトリーゼ・ディア・サラザークは王太子の婚約者であり、
二人の関係を快く思っていなかったようだ。
ある日、王太子は学園の庭でリアと談話していたベアトリーゼに近づくや糾弾した。
ベアトリーゼが恋人のミシェルに陰湿な苛めをしており、さらに生家である
ノックビン家に圧力をかけている事を指摘した。
さらに、ミシェルを階段から突き落として命の危機に晒したと
…鬼の形相で尋問してきたのだ。
「でも、サラザーク様はそのような卑劣な行為をするような方ではありません。
それに階段から突き落としたとされるその日は…私と行動を共にしていました。
だから、私はその事を証言したんです…なのに!」
リナが証言した事で、その場はなんとか事が収まったかに見えた。
だが、今度はリナ自身に関する不穏な噂が広がった。
…リナが不正をして成績を上げている。
…リナが婚約者以外の男子と秘密の付き合いをしている。
もちろん、リナには全く身に覚えのない風評被害であった。
「誰が広めたのかは分かりません。
でも、婚約者のあの人はその噂を鵜呑みにして『婚約を解消する』と一方的に言ってきました」
「マジかよ…」
「うわぁ…ひどいですね」
「しかも、一歳年上の兄までこっちの言い分を聞くどころか、噂を本気にして…」
実の兄から『家に泥を塗って恥ずかしくないのか! 反省しないようなら出ていけ!
二度と家の敷居を踏むな!』と言われたそうだ。
リナは悲しかった。
…家族や婚約者に信じてもらえず、挙句の果てに生家を追い出されてしまったのだ。
でも、それ以上に怒りが込み上げてきた。
「だから、学園に戻って退学届けを提出して荷物をまとめて、お望み通り出て行ったんです!
今思い出すだけでも、胸がむかむかしてきました…あー、腹が立つ!」
青筋を立てながら、リナは差し出された紅茶をぐいっと飲み干した。
思いの外、行動力があるお嬢さんだな…とルシュは思った。
「それから、母方の親戚を頼ってこの国に住むようになりました」
「なるほど…大変でしたねー。
でも、使用人さんが此処に来たのはなぜだろう?」
リナの境遇を聞いた嬢ちゃんが疑問を口にした。
そもそも、今までの経緯を聞いた限りでは…リナに対する処断は、彼女の兄が勝手に行ったものだ。
確固たる証拠もないのに、そんな事をした跡継ぎの事を両親は咎めなかったのだろうか?
一年経過して、今更リナに接触しようとしたのは何か理由でもあるのか?
「…分かりません。
でも、実家に戻る気はないので関わりたくないです」
後で聞かされた話だが、この時点でリナは叔母と養子縁組をする話が出ていた。
両親とも叔母が仲介する形で話を付けていたらしく、彼女自身も実家の関係者が
絡んできた事に戸惑っていたらしい。
「うーん…」
さっきから嬢ちゃんが腕を組んで、難しそうに唸っている。
…何か気にかかる事でもあるのか?
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