ルシュの思い出メニュー
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「それでは、調理開始します」
「おー」
「ではでは、ルシュさん…ミートボールを作ってください」
黒いバンダナを頭に巻き、黒い大きめのエプロンをつけると、マリエは早速指示を出してきた。
今回、作るメニューは【ミートボールのトマトソースパスタ】
嬢ちゃんはソース作りに集中するため、メインとなる肉団子を俺が作る事となった。
「材料はもう練っているから、このくらいのサイズのボールを作ってください。
分からない事があったら、聞いていいですよー」
マリエは指で肉団子の大きさを表現した後、玉葱を包丁でみじん切りにしていく。
それから、それをオリーブ油で熱した鍋に入れて炒めていった。
俺は、ボールの中にある粘り気のある肉タネを指先で摘まみながら、コロコロと団子を形成していった。
この作業…なかなか癖になる。
「ルシュさん、手際がいいですねー」
「あぁ、慣れてるからな」
「そうかー…一人暮らしだとそうなりますね」
多少の雑談を交わしつつ、マリエはヘラでホールトマトを潰して、塩コショウと香辛料を
パラパラしながら味を調えていく。
「ミートボールを油で揚げます…できますか?」
「ああ、やってみる」
別のフライパンでオリーブオイルを中火で熱して、ミートボールの表面に
軽く焼き色がつくまで揚げ焼きにする。
「こんな感じでいいか?」
「はい、OKです」
普段、食べているメニューがどんな風に仕上がっていくのか…
その過程を間近で目にするのと、ただ待っているだけでは味わえないワクワク感がある。
「パスタは少し硬めに茹でます」
「…どのくらい茹でるんだ?」
「おかわりするなら多めがおすすめ。どうします?」
んふふ、とにんまりと口角を上げて、嬢ちゃんは尋ねてくる。
思わず釣られて、口端が上がってしまう。
答えは…言わずもがな。
「はい、できあがりましたー」
出来上がった【ミートボールのトマトパスタ】
トマト色に染まったパスタが、青と白の幾何学的な模様が描かれた深皿にこんもりと盛り付けられている。
さらにミートボールが見栄えよく飾られ、トマトの香りと共に食欲をそそり、腹部を刺激していく。
「ワインもどうぞー」
「準備いいなぁー」
マリエは、俺用のグラスにこぽこぽとワインを注ぐ。
「いい香りだな…どこで買った?」
「これは先日、兄が送ってくれた物なのですよ」
「ふーん、兄貴がいるのか…」
「親元離れてから大分会ってないですね。
まぁ、兄なら無事だとは思いますけどねー」
そう言いながら、嬢ちゃんは自分専用のカップにワインを入れた。
「それでは、いただきます」
「いただきます」
食事の挨拶をして、フォークにソースがかかった麺を一口分だけ絡ませて、パクッと口の中へ収める。
(うん、うまい…)
トマトソースの程良い甘さと酸味。
麺と絡み合い、口の中で混ざり合って旨味を形成していく。
ゴクッと喉を通らせると、一口、もう一口…と食べたくなる欲求を止める事ができない。
(…おっと、こっちも食べないとな)
次にフォークでミートボールをさすと、それを口へ入れて五回ほど咀嚼する。
(…! やべぇな…この味)
トマトソースとミートボール…この組み合わせはやばいくらいに良すぎる!
ミートボールは適度に柔らかく、噛むとじんわりと肉汁とコクのある味が舌を包み込む。
さらに、酸味のあるトマトソースと絡む事で違う味へと変化する。
「んふふ、おいしーv」
向かい側に座るマリエは、今日もほわほわした和やかな笑みを浮かべて料理を楽しんでいる。
そんな彼女の様子を二ヶ月の間、さりげなく観察するのが密かな楽しみとなった。
…それで気付いた事がある。
マリエは食べ方が綺麗だ。
今も麺を掬い上げ、口へ運ぶその仕草をとっても優雅であり、普段の彼女からは想像できない一面だ。
振り返ってみると、マリエはいつものんびり口調がベースだが、敬う相手に対しては
礼儀正しくしっかりした喋り方へ切り替えている。
既に、成人年齢は過ぎていると本人は言っていた。
アパートの管理人になる前に、そうした礼儀作法を学んだのではないか…と推測した。
(良家の出身か、またはどこかの金持ちのところに行儀見習いしてたとか…)
…上等そうなドレスを纏い、「おほほほほっ」と笑っている縦ロールの髪型をした嬢ちゃん。
…「お帰りなさいませ、ご主人さまー」とほのぼのと主を出迎えるメイド服を着た嬢ちゃん。
異なる二つのイメージが頭に浮かんでしまい、思わず笑いが込み上げてきた。
「? ルシュさん?」
「いや、なんでもない…思い出し笑いさ」
「んふふ、愉快な事があったんですねー」
よもや、己の事をネタにされて笑っているなんて思いもしないだろう。
(いつか、話してくれるかな…)
美味しそうにトマトパスタを食べ進めるマリエを見ながら、そんな淡い期待が芽生えた。
思えば、あの時の俺は無意識に求めていたのかもしれない。
気が遠くなる時間を過ごす中で、擦り減っていく自身を癒すための心の拠り所を…。
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