リスタート・クエスト 閑話集
午後4時…学校が終わり、舞香は自室へ戻った。
学校の制服から、エージェント用の制服に着替える。
トマトのような赤色と白色のアクセントが入ったワンピースとケープを纏う。
胸元に青空を連想させる色のブローチを装着すると、舞香は目を閉じて呪文を唱える。
「主よ、我が身を仮初の姿で隠す事をお許しください」
次の瞬間、眩い光が走った。
同時に、舞香の髪の毛色が明るい茶色から淡金色へと流れる川のようにすぅーと染まっていく。
翡翠色の瞳を瞬きさせると紫色へ、顔立ちもみるみる内に変化していった。
「うん、いい感じ!」
扉付近にある大きな鏡の前に立ち、くるりと一回転する。
舞香はエージェントとして働くにあたり、エージェントの時は別の姿へ変身する事にした。
身に着けているブローチは、叔父の光助が発明した変身用呪具【千姿万態】
数年前に、悟に貸し出していた試作品の能力をさらに向上させた完成品だ。
これを用いる事で、対象者は自らが思い描く姿へ変身する事ができる。
但し、効き目は24時間。
強力な術や攻撃に当たった場合は、効果が半減したり、切れてしまうデメリットがある。
しかし、効き目が切れる前に呪力を注げば、永続的に変身状態を継続できる優れものである。
「さて、行きましょう」
口から紡がれる声音も、違う少女の声になっている。
普段の声音だと、敵に気付かれるリスクがあるため、魔法で変える事にした。
颯爽とした足取りで、舞香はギルドへ向かう。
「こんにちは」
「こんにちは、リトル・ウィッチ」
ギルドの入り口の扉を開くと、すっかり馴染みとなった40代の恰幅の良い女性スタッフと和やかに挨拶する。
「本日は依頼探し?」
「はい。たくさん依頼が舞い込んでいるとお聞きしました」
「まぁまぁ、情報が早い事。掲示板に張り出してあるから、よく吟味してくださいね」
朗らかに笑いながら言う女性スタッフの言葉に甘えて、舞香は掲示板の前に立つ。
大きな掲示板には、7つの依頼の用紙が張り出されていた。
(「猫探し」「荷物整理」に、「家事手伝い」…どれがいいかなぁ~)
それぞれの依頼内容に目を通しながら、舞香はどの任務にしようかと考える。
楽しそうに目を輝かせながら、ちょっと足を上げて背伸びする小さな魔女。
大人が多いエージェントの中で、最年少でエージェントとなった舞香は一際目立つ。
素直で礼儀正しく、不思議と人を和やかにさせる雰囲気が漂っている。
ギルドの職員や他のエージェント達の間で、彼女はすっかり癒しのマスコット的な
(舞香、変身しててもかわいい…)
なおかつ、強烈なファン(という名のストーカー)もいる。
窓からこっそり熱い視線を向ける悟。
ギルドの建物内にいる職員やエージェントは気付いているが、敢えてスルーしている。
「これにしようかな」
舞香が選んだ依頼は…「指定された野草の採取」
受付に申請して、詳細を教えてもらうと依頼人のいる場所へ向かう事にした。
午後4時50分…舞香は、依頼人から頼まれた野草が生息している河原までやってきた。
(頼まれたのはつくし、よもぎ、タンポポ…)
依頼人は、ヴァルハラ教団の教会がある区域の近隣住民である笹部さん。
60代の女性で、この時期に野草を採取して料理するのを楽しみにしていた。
しかし、三日前に腰を痛めてしまい、自力で採取するのを断念せざる負えなくなった。
そうした経緯から、ヴァルハラ教団に依頼をする事にしたそうだ。
(いっぱい生えてる…取り甲斐があるわ)
舞香は軍手を装着すると、まずは日当たりのいい場所に群生してるよもぎに手を伸ばした。
よもぎは、できるだけ柔らかい若い葉や芽を摘み取っていく。
揉むと清々しい良い香りがして、鼻を擽る。
よもぎは、入浴剤や漢方の材料として使われ、冷えの解消や老廃物の排出等の効果がある。
春先の柔らかい新芽を使って、草餅にすると美味しいし、天ぷらや味噌汁の具にもなる。
薬としても、食材としても万能な野草だ。
(つくしも取るのは、久しぶりだな~)
そう思いながら、つくしの頭を振って胞子を飛ばしながら、根元から指でプチっと切って収穫していく。
胞子を飛ばしておけば、来年もこの場所で沢山生えてくる。
乱獲は避けよう…自然のサイクルは正常でなければならない。
つくしは、ハカマを取り除き、よく水洗いをして、お湯で茹でる等して下処理を済ませる。
天ぷらや卵とじ、佃煮など色んな料理にできるが、個人的には炒め物が好きだ。
ゴマ油と醤油でシンプルに炒めたものが、舞香の中でナンバーワンなつくし料理である。
(タンポポの花、たくさん咲いてる…)
タンポポは、身近に自生している場所が多く、一般的にメジャーな野草だ。
花から根まで食べる事ができる上に(但し、人によってはアレルギーの対象となるので要注意)、
旬の野菜と合わせてサラダにしたり、味噌と合わせた保存食にもできる。
飲み物なら、タンポポコーヒー(タンポポ茶)がお勧めだ。
ノンカフェインなので、子どもや妊婦などの幅広い年齢層が安心して飲める。
採取の時間に、40分程費やした。
持参した3つのビニール袋にそれぞれ指定された野草をいっぱいに入れる事ができた。
(あとは、笹部さんのところに行って、野草を渡して任務クリア…ね)
舞香はふぅ…と一息つく。
野草がたっぷり詰まった三つのビニール袋を持って依頼人の元へ向かう事にした。
午後6時…笹部さんに野草を無事に届ける事ができた。
たくさん野草を取ってきた事に、笹部さんはとても喜んでくれた。
「ありがとう、お嬢さん」
「また、何か困り事がございましたら、ギルドに依頼をしてください。
お待ちしています」
「ええ、そうさせてもらうわ」
ギルドに振り込む報酬とは別に、笹部さんから御礼にお菓子を頂いた。
ふふっと嬉しそうに頬を緩ませ、舞香はスキップしながら帰路に着く。
ギルドの入り口の扉が見えてきたその時…
「嬢ちゃん」
「あ、甚爾さん」
後方から、馴染みのある声が聞こえてきたので振り返ると、甚爾がいた。
エージェント用の服装を着ているので、彼も任務帰りなのだろう。
「今は止めといた方がいいぞ」
「…ほわい?」
「嬢ちゃんが…それと、俺もあんまり会いたくねえ人物が中にいる」
「あそこから見な」と促されて、舞香はそぉーと窓からギルド内を覗く。
ギルドの受付に、見覚えのある男性の姿があった。
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