リスタート・クエスト 閑話集


東屋で、ランチを取る事になった二人。

設置されているテーブルの上に、舞香はテーブルクロスを敷いたりしててきぱきと準備を整えていく。

そうして、テーブルに並べられたサンドイッチは複数あり、どれも食欲を沸き立たせるものだ。

「どうぞご賞味くださいませ」と告げられ、硝子は「いただきまーす」と食事の挨拶をする。

右側のサンドイッチを一切れ 摘まんで、一口食べた。



「…おいしい」



トーストしたパンに挟まっている具は、照り焼きチキンとレタス、トマト等の野菜。

照り焼きチキンの鶏肉は、柔らかくて噛み締めると程よい油と肉汁の旨味が出てくる。

タレは醬油ベースでしっかりしつつも、甘すぎない…硝子好みの味付けだ。

それらが口の中で溶け合って、さらなる美味しさを引き出していく。

シャキシャキしたレタスに、厚めにカットされたトマトの甘味。

野菜がしつこくなった口内をリセットして、一口、もう一口と食べ進められる。



「飲み物はアイスティーですが、ストレートとミルク…どちらがいいですか?」

「ストレートで」



三つ目のサンドイッチを食べながら、硝子はストレートのアイスティーをリクエストした。

夏の暑さが真っ盛りの時期。

日差しがあまりこない東屋で、具材豊富な食事を堪能し、ひんやりした飲み物で喉を潤す。

なんというか…ちょっとした贅沢な気分になる。



「お味は如何でしょうか?」


「どれも美味しいよ。

中でも…最初に食べた照り焼きチキンと、三番目のこのサーモンとクリームチーズが気に入ったかも」



素直に感想を言うと、舞香はふわりと柔らかい笑みを零す。

上々な感想を聞けた事が嬉しかったのだろう。



「良かった…そのように評価して頂けて光栄です」



硝子は思った。

この子の笑顔は、同性でも心をときめかせてしまう魅力がある…と。

呪術界の中立派の名家出身なら、縁談がわんさかとあるはずだろう。



(でも、呪術界の腐った野郎共の手垢で汚れてほしくないな…)



どういった経緯で、シスターを目指しているのかは不明だが…

呪術界の体質を考えると、逆にそれでいいのかもしれない。

そんな事を思案しながらアイスティーを飲みつつ、硝子はふと疑問に感じた事を口にした。



「サンドイッチ…かなり作ったようだけど、どうして?」



サンドイッチは、まだまだたくさんある。

これだけの量を作るなんて…何か理由があるのだろうか?



「依頼がありまして、ある方のために料理を作っているんです」

「…依頼?」


「はい。仕立て屋さんで美味しい物を食べる事が好きな方なんです。

よく私を指名してくださるので、リクエストのメニューを練習しているのですが…

夢中になってしまって、たくさん作りすぎてしまう事が度々あるんです」



仕立て屋が、シスター見習いに食事をリクエストする…とは?

ヴァルハラ教団は、ケータリングのサービスまで行っているのか。

頭上にいくつもの疑問符が浮かんでいるが、深く考えるのは一旦やめておく事にした。



「硝子さんは、お一人で来られたのですか?」


「一応、護衛が二人ついてきてくれたんだけど…

あっ、護衛は同期の二人。嫌でも目立つ男子共だよ」



そういえば、悟と傑はいつまでお目当ての司祭と話し合いをしているのだろうか?

話し合いに、物理的なぶつかり合いが加わっていない事を本気で願っている。

悟の口調から、その司祭とは因縁があるのは明白だ。

彼がキレて、術式を使って教会の建物を壊す危険がある。


今のところ、爆発音が聞こえていないのが幸いだが、不安感が拭えない。

それどころか、「あの白髪は何かやらかすに違いない」と断言できてしまう点で、頭が痛くなってくる。

内心、「夏油、頼むから盾になって阻止しろよ」と呪文のように唱えている。



「硝子さん、いらっしゃったみたいですよ」



舞香の言葉に、硝子は「お、呪文が効いたか」と小声で呟く。

振り返ると、遠方にこちらへやってくる白髪…もとい、悟の姿が見えた。



「硝子! そこにいたのかよっ……てっ!? 舞香ァアアアア―――!!



いきなり駆けて出した悟に、硝子は「うぁっ…!」とビクッと全身を震わせる。

自分と舞香の名前を叫びながら、猛ダッシュでやってくる同期。

…というか、舞香とも面識があるのか?


表には出さずとも内側で混乱している硝子をよそに、悟はいつの間にか舞香の隣を陣取っていた。



「舞香、久しぶり」

「悟さん、ご無沙汰しております」



舞香に、積極的に話しかける悟。

誰だ、こいつ…?

硝子は、目を瞬きさせがら凝視してしまう。



「さっき、ロシナンテ司祭と話してたんだよ。

あいつ…いや、あの人、神経質過ぎるだろ!

二ヵ月も他の県に出張するなんて、事前に予定知らせてくれっつーの!!」


「すみません。こちらの業務に関わる事なので、教える事はできないんですよ」



外見最上、中身はお子ちゃまな屑のあの白髪男が…

自分や相棒げとう以外の人物と親し気に話をしている。

しかも、幸せな気持ちを露わにしたとろけるような笑顔をプラスして。


「こいつ、本当に五条なのか…ガワを被った特級呪霊じゃないよな?」

…と疑ってしまうレベルで硝子はある種の衝撃を受けた。



「舞香、ちょっと痩せたか? きちんと飯食べてる?」

「はい。もちろんですよ」


(舞香…まいか…マイカ…あっ、そうか! この子が…)



眼前にいる悟と舞香の会話を聞いていた最中、硝子は思い出した。

一ヶ月半前に、悟が話していた内容…求めている【宝物】と称する少女の事を。



(となると、この子が将来、五条の嫁になるかもしれない女子か)



なるほど、と逆に納得してしまった。

人の好き嫌いがはっきりしており、自己中な性格で周りを振り回している悟が放つ

一方的とも言える弾丸トークを、舞香は楽しそうに微笑みながら受け答えしている。

幼馴染ゆえに慣れているのもあるだろうが、悟の態度や舞香自身の言葉の節々から、

双方の間にはしっかりとした信頼関係が築かれている。


その事を、第三者である硝子も感じ取れた。



「舞香、聖職者の修行が辛いならいつでもやめていいからな。

将来の道なんてひとつだけじゃねえんだし、悩み事とか一人で抱えたりするなよ」



悟が投げかける言葉は、舞香の体調や精神面を心配しているように見える。

おそらく、半分は本心からだろう。

もう半分は、舞香の将来の選択肢から「聖職者」から外して、彼女を別の道(五条家の正妻)へ

誘おうと企んでいる悟の本音が見え隠れしている。



「お気遣いの言葉、ありがとうございます。

今のところは大丈夫ですので、地道に精進していきます」



舞香は御礼と一緒に、これからも頑張っていくと返した。

悟の意図に気付いていないのか、知ってて敢えてスルーしているのかは不明だが…

時々漏れ出している悟の感情をやんわりと受け止めつつ、軽くいなしているようだ。


今までの会話から推測すると…

舞香に対して、悟は異性愛、寵愛、狂愛等がミックスした激重感情を抱いている。

一方、舞香の悟に対する感情は、異性愛までには至っていない。

つまり、幼馴染ゆえの親しい友達関係から抜け出せていない…という事だ。



(五条の奴、かなりやばい一面持ってそうだな…)



悟とは親しい仲間関係を築きつつあるが、硝子は彼の恋愛を応援する気にはなれない。

悟に狂気じみた感情のベクトルを感じ取ったのが一番の要因だ。



(こいつと結ばれたら、舞香ちゃんはきっと苦労する)




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