リスタート・クエスト 閑話集


女子寮の簡単な手続きと挨拶回りを終えると、硝子は外へ出た。

二人と合流しようと、東屋に行こうとした時、携帯の音が響き渡る。

メールが二通届いていたので、順々に開いていくと…



『因縁のあるデカ司祭を発見した!

任務から戻ってきたに違いねえ、突撃してくる!!

この教会、食堂のメニューはどれも美味いから、そこで昼飯済ませておいてくれ!!!』


『悟が教会の関係者を追っかけて、話しに行く事になったから、制御役ストッパーとして同行する事にしたよ。

悪いけれど、適当に時間潰ししてくれないかな?』



「やれやれ、自由人なクズ共め…」



硝子は軽く溜息を漏らすと、そこら辺を散策する事にした。

教会内の中庭は、全体的に建物と自然が調和した造りになっている。

植物が人工的に植えられたとは思えない、作り感のない美しい庭園のデザインだ。



(面倒な任務についちゃったけど、こういう景色がタダで見れるのは得した気分かな)



此処が観光スポットであれば、それ相応の金額が要求されるはずだ。

表向きは聖職者を目指しつつ、敵側の極秘調査と言うなんとも大変な任務についてしまったが…

こうして、普通ならば見られない景色を見られるのは役得だ。


うーんと背伸びしながら、歩を進めていると…

少し先に設置されているベンチ、そこに腰を下ろす女の子が視界に映った。



新緑を連想させる翡翠色の瞳、柔らかに編み込まれた、ワインレッドのリボンで飾られた長い髪。

硝子は思わず息を潜めてしまうくらいに、可憐で美しい顔立ちの女子だ。

纏っている衣服から、彼女はプレガーレ(シスター見習い)なのだろう。


随分前に、従姉に勧められて読んだ小説に挿絵で描かれていた主人公を連想させた。

その主人公の少女は髪色を除くと、視線の先にいる彼女にそっくりだった。

まるで、物語の世界から飛び出したかのような存在に見えてしまう。



「そう、それは大変でしたね」

「にゃ~」



彼女の隣に座っているのは、灰色の猫だ。

ぽっちゃりしているその猫に、女子は声をかけている。



「そうですね…いつ何が起こるか分かりませんから。

一日一日を大切に過ごしていきたいですね」


「にゃにゃにゃーん!」



その様子はあたかも世間話をしているかのようで、第三者から見ると和んでしまう光景だ。



(いいね…ほのぼのする)



高専に入学してから数ヵ月。

呪霊だけでなく、呪術師の派閥対立のギスギスした空気にも慣れてきた。

特殊な組織であるがゆえに、表社会では巧みに隠されている、喋りたくもない裏側も少しずつ目にしている。

反転術式の能力者として、硝子はこれから本格的にその闇を直視していかなければならない。


…とはいえ、そういうものを見続けるのは精神的に疲れてしまう。

視界の先にある少女と猫のやり取りは微笑ましくて、ほんわかしてくる。


心が癒されていると、灰色の猫がぴょーんとベンチから飛び降りた。

「また会いましょう」と女子は右手を振る。

猫も「にゃー!」と挨拶するように鳴くと、颯爽とその場から立ち去った。


ふぅ…と息をついた女子が視線を上げるや、こちらと目が合った。

あっ…と思わず声を漏らしてしまう。

すると、女子が会釈してきた。



「こんにちは」

「…こんにちは」

「もしかして、新しく来られたシスター見習いの方ですか?」



女子の言葉に、硝子は「なんで分かったんだろう?」と疑問符が浮かび上がる。



「今着ていらっしゃるそちらの服…東京呪術高専の制服ですよね?

高専から転校してくる方が本日、挨拶に来られると事前に聞いておりました」


「あぁ、それで…」



本格的に活動するのは9月からだが、その前の下準備として教団を訪れる事となった。

訪問する直前まで、報告書の作成や今後の打ち合わせをしていたため、着替えないまま直行したのだ。



「家入硝子です。これからお世話になります」

「本宮舞香と申します。よろしくお願いいたします」



(五条考案の)表向きな理由にじそうさくせっていがあるにせよ、呪術界の関係者に対して嫌な顔ひとつせずに、

友好的に挨拶してくれている時点で、この女子は良識的なタイプであると思えた。



「隣…いいですか?」

「どうぞ」



それから、硝子はベンチに腰かけて、舞香と話に花を咲かせた。

舞香はヴァルハラ学園の中学3年生で、シスターを目指してヴァルハラ教団に入ったそうだ。

また、実家は中立派の№2である本宮家の分家であり、親戚の何名かが高専の出身者との事。


だから、呪術高専に対する偏見がないのか…

硝子は納得しながらも、ある事が気になった。

「舞香」という名前、妙に聞き覚えがあるような?



「硝子さん、昼食は召し上がりましたか?」

「いや、まだだけど…」


「もしよろしければ、あちらの東屋で一緒に食事をしませんか。

今日、昼食用のサンドイッチを作ったんですが、たくさん作りすぎてしまって…」



困った笑みを浮かべながらお願いする舞香に、硝子はふむ…と顎に手を押し当てる。

丁度、お腹が空いてきたので、五条が勧めていた食堂へ行こうと考えていたところだ。

…とはいえ、肝心の食堂の場所が分からない。

見つけたとしても、そこを利用している教団関係者達が高専と関わりがある硝子に好意的とは限らない。



「じゃあ、お言葉に甘えるよ」

「ありがとうございます」



情報収集も兼ねているが、この子と純粋に話を楽しみたい。

硝子はそんな気持ちから、舞香の申し出を快く承諾する事にした。





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