リスタート・クエスト 閑話集


「五条、調べもの?」

「あぁ…そんな感じ」



呪術高専の図書室にて、医学系の書籍を借りに来た家入硝子は先客を目にして目を丸くする。

同期であり、既に一級呪術師の称号を得ている五条悟だ。

悟は窓際の片隅の席で、分厚い書籍の頁を捲っている。


彼は任務がない時は、同じ階級である夏油傑とつるんで外出したりする事が多い。

図書室に訪れるなんて、任務関連で調べものでもしているのだろうか。

ちらりと、読んでいない机に置かれた数冊の書物のタイトルを見ると…



『ヴァルハラ教の成り立ちと歴史』

『日本の信仰宗教―ヴァルハラ教編―』

『ヴァルハラ教の聖職者と仕組み』



そして、悟が読んでいる最中の書籍を含めて、全部がヴァルハラ教に関する書籍だった。

たくさんの疑問符を背景に、硝子は「はぁ?」と思わず間の抜けた声を発してしまう。


ヴァルハラ教の事は、硝子も知っている。

物心ついた時から、近所にヴァルハラ教の小さな教会があった。

そこに所属する聖職者達は、近隣住民の悩みや困り事の相談に乗ったり、

親子連れが楽しめる地域のイベントを主催したりして、住民達と交流を深めていた。

記憶にある限り、双方の間にトラブルはほとんどなく、関係は良好であった。


ヤバい新興宗教に見られるような胡散臭い商売で詐欺行為をしたり、強引な勧誘をしたり、

拉致監禁と言った犯罪行為をするといったような、メディア媒体の特集で取り沙汰される

人を傷つけたりする危険な要素が欠片もなかった。

そういった点で、ヴァルハラ教は多くの人々に広く受けれられたのだろう。



「…五条って、ヴァルハラ教の信仰者?」

「ちげーよ」



硝子からの問いかけに、悟は不機嫌そうに顔を顰めて「否」と即答した。

「まあ、そうだよねー」と硝子は納得した。


ヴァルハラ教は、世界の三大宗教の次に有名な宗教だ。

それを信仰する人々が所属しているヴァルハラ教団は近年、日本においてその影響力を増している。

だが、それを快く思っていない勢力もおり、呪術界はその筆頭だ。

悟は、呪術界の名家の中で最上位とされるあの御三家のひとつであり、五条家の次期当主だ。

だから、ヴァルハラ教団に対してアレルギー反応を起こすのは、ある意味仕方ないとも言える。



「じゃあ、なんで調べてるの?」

「…敵を知るにはまず情報が必須だろ」



悟の言い分は尤もだ。

敵対する勢力といざ戦う事になった場合、その内情を把握しておく事は基本中の基本と言える。

目が疲れたのか、悟は読んでいた本を開いたまま、机の上に置き、うーんと背伸びをする。

開かれたその頁に記載されていたのは…ヴァルハラ教の神々の事だ。



*** ******* ***



ヴァルハラ教の主神は、神界『ヴァルハラ』を統治する女神であるレナス・ヴァルキュリア。

女神レナスを支えるのは、【エクレシア】と称される神族。

ヴァルハラに所属するエクレシアは10柱。


【守護】を司る女神…「ハツネ・アマノ」

【繁栄】をもたらす女神…「ルナリア・シーロアード」

【生殺】を左右する女神…「シルフィア・クロスロード」

【審判】を下す男神…「ヒジリ・コウザン」

【叡智】を授ける男神…「トウゲン・シンジン」

【試練】を設ける男神…「アンシャル・レイスウォール」

【変革】を促す女神…「ユーシス・ディアルマンテ」

【研鑽】を深める男神…「ソニード・ルルスス・エタンセル」

【運命】を決める女神…「アリエス・セクレート」


そして、迷える人々に解決の道筋を示す【祝福】の女神…「マリエル・レイディアン」


10柱は人の世界に降り立ち、個々の使命のために、「人」に紛れて活動している。

そして、人々が強く願う時、救いの手を差し伸べると言われている。



*** ******* ***



RPGみたいな文章だな…と思いながら、硝子は何気ない質問を投げかけていく。



「敵って言うからには…昔、揉めたとか?」

「現在進行形で、バチバチしてるよ」



返ってきた言葉に、硝子は「うける、反社の抗争かよ」と微苦笑する。



「なんで、争ってるのさ?」

「欲しいものがあるんだ」



欲しいもの…?

硝子は小首を傾げる。

圧倒的な資産を有する五条家でも手に入らないものを、ヴァルハラ教団は所有しているのか。



子どもガキの頃からずっと…欲しくて欲しくてたまらない、【宝物】が…あそこにあるんだ」



硝子は目を疑った。

彼女のよく知る「五条悟」とは外面が良いが、中身はお子ちゃまかつ自己中で屑な男である。

そんな彼が愛おしそうに目を細めながら語る姿に、戦慄を覚えた。



(こいつ…マジで、五条だよな? 影武者用意したとか?)



内心、失礼な事を考えると同時に、硝子は思った。

五条の言う【宝物】とは一体、どんなものなのか?



「もう二ケ月も会えてないし…くっそ、あのデカ司祭!

『舞香』を合法的に連れまわしやがって…!」



【宝物】の正体が早々に判明した。

どうやら、悟の口ぶりだと「女の子」のようだ。



「舞香って…?」

「幼馴染で、俺の正妻(予定)になる子だよ!」



ハッキリと即答された内容に、硝子は「マジか」と半信半疑に呟く。

…というか、(予定)という単語から、本当に五条家に嫁ぐかは不明だが。

悟の個人的願望が、強く反映されている事だけは伝わった。



(どんな女子なのやら…)



これだけ、五条が強く求めている人物だ。

相当、惚れ込む要素があるのだろう。

実家も呪術界では名家らしいので、箱入り娘か?

はたまた、五条寄りのとんでも女子なのか…


「コラソン」という司祭への文句をぶつくさと言い続ける悟の声をBGMに、

硝子はふんわりとベールに包まれた女子像を予想していった。



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