デミックス・リサーチ
《(何年かぶりとなるけれど…)レポート8日目》
観察対象人物:リーシェ・シフォン・クローチェ
「ようこそ、いらっしゃいませ」
一週間後、午前11時…指定の場所を訪れるや、リーシェが玄関先で腕を組んで仁王立ちしていた。
「お、おはようございます…」
「おはようございます!」
「同行者はシオンちゃんですか。いい選択しましたね」
リーシェの何気ない言葉に、デミックスは「ひぇ…」と小さく悲鳴をあげる。
このウサギ仮面……有名な名門学校の受験監督並みにチェックしていやがる。
デミックスが単独ではなく、誰かを連れてくる事を予想していたのだ。
同行者にシオンを選んだ事は、彼女の発言から合格判定なのだろう。
内心安堵の息を漏らすデミックスをよそに、リーシェは言葉を続ける。
「ま、長話は中に入ってからにしましょうか」
「はい、お邪魔します」
「し、しつれいいたします…」
【クロト=メグスラシル】の西地区。
温暖な気候と海岸に近いこの地区は、漁業と農産業が盛んである。
海を見渡すように円状に住宅が並び、街の中心にある時計台が観光名所のひとつとされている。
そんな住宅街からやや離れた場所に、リーシェの住む家がある。
「飲み物はココア、コーヒー、紅茶…どれにします?」
リビングルームに通され、専用のソファーに座らされた二人。
リーシェから投げかけられた質問に、「あ、え…」と戸惑いの色を表情に浮かべ逡巡するデミックスをよそに、
シオンは真っ直ぐに手を上げて口を開いた。
「はい、ココアがいいです」
「分かりました。…で、貴方は?」
「あ、えと…こ…コーヒー…プリーズです」
ぎこちなく答えると、リーシェは「分かりました」と頷いてキッチンへ行った。
「デミックス、寒い? さっきから身体をブルブルさせているけど…」
「うん、ちょっと…」
本日の気温は21度。
昼に近い事もあって程よい涼しさである。
けれども、精神的な面では氷河期に迷い込んだくらいな寒さを感じている。
今回の相手が、デミックスにとってそれだけ恐ろしい対象であるという証拠だ。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「あ、あざざ、ござます…」
緊張しているせいで、某スパイアニメの女の子みたいな御礼の言い方になってしまった。
渡されたコーヒーに添えられたスティックシュガーの端をちぎり、砂糖を入れようとしたら、
半分をソーサーにこぼしてしまった…地味にショックを受けてしまう。
「それで、質問はありますか?」
デミックスがチビチビとコーヒーを飲んで、話しかけてこないのに痺れを切らしたのか、
リーシェが逆に問いかけてきた。
ぶふっと咽てしまい、デミックスはゴホゴホと咳を出してしまう。
「大丈夫?」とシオンから渡されたハンカチで口元を拭くと、徐に口を開いた。
「…えと、素朴な疑問なんだけど」
「はい」
「なんで…こっちからのインタビューに答えてくれる気になったんですか?」
一応、事前にまともな質問を考え抜いてきた。
でも、いざ本番となると念入りに考えていた質問がすぅーと頭の中から消えてしまった。
鞄に入れてあるリストを見ようにも、あまりにも待たせてしまうと…
リーシェの機嫌が急降下する可能性がある。
それゆえに、一番気になっている疑問を口にした。
リーシェは「ああ、その事?」と意外そうに呟く。
「良い事が続いたからです」
「ほわっ…?」
「新しい薬草の栽培に成功した事、仲の良い漫画家の作品がアニメ化する事が決定した事…
あと、個人的に嬉しいと感じる出来事があった事。立て続けに3つも良い事があったんです」
「凄くない?」と聞き返すリーシェに、シオンは「よかったですね」と嬉しそうに言い、
デミックスもこくこくと小さく頷いて同意する。
「今までにないくらい、気分が天井を突き抜ける程に上々なんでね…
今なら、面倒くさい事情聴取にも応じられると思ったんです」
「事情聴取…って」
「どうせ、あの銀髪指導者の私情入りまくりでこの企画を続けているんでしょう?
重要事項や余程癇に障る内容でないなら、そこそこ話せますから」
だから、適当に質問していいですよー…と軽い口調で、リーシェは理由を語ってくれた。
デミックスは顔を引き攣らせながら、「そうっすか…」と返すしかなかった。
(ゼムナス、さりげなくディズられてる…本当の事だし、仕方ないけどさ)
元々、このインタビューはゼムナスが個人的な理由で発案したのがきっかけだ。
面倒事だと嫌味な意味合いで捉えられるのは、無理もない事だ。
「それじゃあ…リスト取っていいです?」
「どうぞ」
だが、これはチャンスでもあった。
いつになく機嫌が良いリーシェ。
今の彼女になら、少々の明け透けな質問も許してくれるかもしれない。
そんな期待を込めて、デミックスは鞄の中からリストを取り出した。
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