デミックス・リサーチ
《レポート1日目》
観察対象人物:コゼット
「最初は、比較的安全にレポートできそうな人からいこう!」
「…で、コゼットかよ。てっきり、リエからいくかと思っていたが…」
アクセルが意外そうな表情で言うと、デミックスはチッチッチッと人差し指を左右に振る。
「リエリンは、結構こういうのに敏感なんだよ。
最初にレポートしたら、気付いちまって他の仲間にも伝わる危険性がある。
だから、敢えてリエリンは最後にして、進めていこうって寸法なのさ」
「ふーん、お前にしてみれば…利口な判断だな」
アクセルは少し感心した。
サボりたがりで、任務報告書も適当につけている音楽青年だが、この重要任務は
さすがに気が抜けないと感じたようで、準備をしているようだ。
それと同じく、いつもこれだけ任務に熱心ならいいのに…と突っ込みたい気分だが、
敢えて口にはしなかった。
「それじゃあ、ムーンライトへレッツゴー!」
「へいへい…」
意気揚々とするデミックスについていくように、アクセルは闇の回廊へと歩を進めていった。
《ムーンライト》は、本日も盛況の様だ。
談笑する女性達や、食事を楽しむ親子連れ…常連客がカウンターで午後の一時を過ごしている。
厨房では、コゼットとアーサーが調理している。
狐色になるまで炒めた玉葱の甘い香り…。
ジューシーなトマトを使用したチキンライス。
その上に、ふわふわの卵オムレツをのせて、切り込みを入れる
…綺麗に分かれた卵シートの上にじっくりと煮込んだデミグラスソースをかける。
「うーん、旨そうな匂い~♪」
「涎垂らすなよ…ほれっ、俺達の昼食はこっちだろ」
アクセルは狭間の闇の隙間から、オムライスを眺めてダラダラと涎を垂らす後輩の頭を小突く。
手渡したのはおにぎり数個…。
アクセルは、近くのコンビニで購入した総菜パンの封をあけると口に含む。
「わびしい…」
「…贅沢言うな」
美味しそうな御馳走を視界と嗅覚で味わいながら、舌で味わうのは食べ慣れている食品。
デミックスは、胸に空虚感が込上げてくる…。機関にリエが入る前の自分を思い出した。
アクセルは、モグモグとカレーパンを噛み締めながら隙間からコゼットの様子を伺う。
「おっ、あれは季節限定のメニューか? うまそうだな」
「ううっ…切ない味がする」
おにぎり(鮭)の味がしょっぱい…。
あながち、塩がききすぎているのが理由ばかりでなさそうだ。
それから5時間くらい、観察しているがこれといって目立った事はない。
レストランの経営…休憩時間にアルバイトたちとの談笑、新作のメニューの考案…。
「うーん、こんな感じかな」
「大体まとまったようだし…帰るか?」
アクセルからの問いかけに、デミックスは首を縦に振る。
「ふぅ、らくちん、らくちん♪」
「…俺がついてきた意味、あまりねえ気がする」
休日返上してまで、後輩のレポートに付き合わされたアクセル。
貴重な時間がまるまる一日潰してしまった事に、虚しさが漂う。
ご機嫌な後輩の後ろ姿を苦々しく眺めつつ、怒っても時間の無駄だと悟っているため、深いため息をつく。
踵を返して、帰還しようとしたその時…誰かの声が聴こえてきた。
「まま~、ありぇ、なーに?」
狭間の隙間から見えたのは、薄い紫色のネコのきぐるみベビー服を着ている子どもだった。
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