【時和旅館】にて…
真っ先に異変に気付いたのはリュンだった。
右手でふーちゃんを抱き抱えたままに、神器である杖を瞬時に顕在させて左手で構えると、
地面に巨大な陣を出現させた。
「レクセウスさん、サラサさん、こちらに来てください!」
「!…了解した」
「え、バレてた!?」
事態を察したレクセウスは首を縦に振り、サラサは戸惑いながらも、リュンの近くへ移動する。
(あれっ…なんか寒くなってきた?)
心なしか、周囲の気温が下がってきている気がする
…サラサはくしゅっとくしゃみをして腕を擦りつつ小首を傾げる。
彼女が感じた違和感の答えは、すぐに明らかになった。
「絢爛たる光よ、惨禍を和らぐ壁となれ―――【フォースフィールド】!」
リュンがその呪文を唱えるや、ドーム型の透明な障壁が彼女達の周りに展開される。
その透明な障壁を覆いつくすように、ピキリピキリと氷が纏わりついていく。
「雪…いや、氷がなんで!?」
「やはりか、敵が潜んでいたようだ」
サラサの疑問に、レクセウスが冷静な態度で言葉を返す。
こちら側を守る障壁だけでなく、花畑一帯が凍り付いている。
起き上がろうとしていたキングダニャンをはじめ、敵へ立ち向かおうとしていた他のドリームイーター達も
氷漬けになっている。
それは、戦闘中だったDIOと宿儺のいる場所も例外ではなかった。
対峙していたDIOの姿がない…いや、氷の中に封じられていた!
「ほぅ…随分と早い。結界を通れたようだな」
DIOと対戦していた宿儺は感心したようにその感想を口にした。
彼の言葉で呼び寄せられるかの如く、その人物は音もなく現れ、宿儺の前で片膝をつく形で跪く。
「よう此処まで辿り着いた、裏梅」
「過分なお言葉を頂き、身に余る光栄です」
赤が混ざった白髪のショートヘアーが特徴で、声音からは性別の判定は難しいが、
綺麗な顔立ちの小柄な人物である。
宿儺との会話のやり取りから、彼に仕えている部下であるのは間違いなさそうだ。
「裏梅さんもいらっしゃるなんて」
「あの人物も知り合いなのか?」
「名前だけ聞いた事があります。すーさん…あの方の専属料理人です」
(専属料理人がつくくらい偉い立場なんだ…あのヒト)
レクセウスからの問いかけに、リュンは感慨深そうに答える。
やっぱり、裏社会の重鎮のようだ…とサラサは頭の中で宿儺へのイメージ像がどんどんと膨らんでいく。
「あちらの杖を持つ女性が伊織様ですか」
「ああ。どうだ? 直にあいつを見て」
裏梅は視線を離れた場所にいるリュンから、主である宿儺へ移して口を開く。
「正直に言わせて頂きますと…驚きました。私の術を完全に防御できる者がいるとは」
「だろう?」
「この目で確認でき、納得いたしました。宿儺様の仰っていた通りですね」
緩やかに口元に弧を描いて裏梅が発した回答に、宿儺は満足気な表情だ。
「申し訳ござません。宿儺様がそのようなお姿になられる前に到着できず…」
DIOから容赦ない攻撃を受け続けたために纏っていた着物はボロボロの布切れと化し、
実質上裸状態の主に対し、裏梅は懺悔する。
幸いなのは、呪力で防御していた事により、肉体へのダメージは思いの外抑えられていた事。
他愛もない会話ができるくらいに余裕のある宿儺に、外野にいるサラサは語彙力が著しく低下して
「凄い」という感想しか思い浮かばない。
「気にしておらん。むしろ、久々に派手に体を動かせる事ができて良い訓練となった…上々だ」
「有難き御言葉、恐縮でございます。よろしければ、こちらの衣をどうぞ」
念のために、着替え用の衣装を持ち運んできたようだ。
準備がいい…側近の鏡である。
「相変わらず、痒い所に手が届く」
部下の行動を褒めつつ、宿儺は差し出された新品の浴衣を羽織ると、改めてリュン達がいる方へ目を向けた。
(こ、こわっ!? 極悪人の笑みだァアア―――!!)
邪悪な笑みを浮かべる宿儺に、サラサは「ひぃっ…!」とドン引きしてしまう。
「宿儺様、私に対応させてください」
「任せよう、リュンとあの猫童以外はどうしようと構わん」
(ぎゃー!? 思いっきり討伐対象に入ってるしぃー!!)
(…まずいな)
内心喚いているサラサの横で、レクセウスもまた現状に危機感を募らせている。
一筋の汗が額から頬へと伝っていく。
明らかに、こちらの分が悪い。
規格外の強さの宿儺に加え、あのDIOさえも戦闘不能にしてしまう氷使いがいるのだ。
どうにかして、自分以外の女性陣を避難させなければならない。
「サラサさん、すみません。この子をお願いできますか?」
「あっ…はい!」
レクセウスが頭の中で解決方法を模索している最中、リュンがサラサにふーちゃんを預かってほしいと頼んできた。サラサは反射的に頷くと、ふーちゃんを慎重な手つきで抱っこする。
「いかん、リュン殿!」
「大丈夫です」
レクセウスが引き留めようとするが、リュンは緩慢に首を横に振り、彼等を守るように前方へ立つ。
「お客様に手を出すのは止めてくださいませ」
「仕掛けてきたのは元々そちらの方。むしろ、こちらは慰謝料を毟り取りたい気分だ」
「ぶー! しゃき、おいたしたん、しょっちや!(なにぉー! 先に意地悪していたのはそっちだよ!)」
「あわわ、ふーちゃんだっけ…落ち着いてよぉ~!」
宿儺の言葉に、ふーちゃんがぷりぷり怒って反論する。
サラサが顔を蒼白させて、ふーちゃんを宥めようとする。
「それよりも、私に会いに来た用件を教えてください」
「おぉ、そうだった…野次馬共が邪魔した所為で言いそびれていた」
宿儺は愉快な表情となり、言葉を続けていく。
「伊織、俺の…」
バキーンッ!!
宿儺が言いかけたその時、大きい破壊音が響き渡った。
リュンと宿儺の目が同時に、その音が鳴った方へと向けられる。
そこに見えた光景は―――
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