【時和旅館】にて…
「ケヒッ…ケヒケヒ、クハハハッ!」
宿儺は高笑いしながら立っていた。
通常の人間だと絶命するレベルのあの凶器の嵐を退けたのだ。
彼の周囲には地面に突き刺さっていたり、刃先が欠けて転がっているナイフが落ちていた。
さすがに全てを退ける事はできなかったのか、頬や肩、腕を負傷しているようだ。
着物の切れ目から見える傷跡は、見ているだけで痛々しい。
「随分と大掛かりな茶番劇を仕掛けてくれたな…」
「【茶番劇】…か。そう評されるのは私としては非常に残念だ」
だが、敢えて意見を言わせてもらおう。
そう告げるや、最寄りの木の上から姿を隠していた人物が軽やかに降り立った。
年齢は20代位で、金髪と紅眼が特徴の青年だ。
芸術的に整った体躯であり、ぴたりと肌に吸い付くような黒いタートルネックに身を包み、上に黄色いジャケットを羽織っている。
非常に整った顔立ちで、すれ違う全ての人間を惑わすような妖しい色気を漂わせている。
彼こそが…いつもふーちゃんの衣服のフードの中に身を潜めている金色のピヨであり、本来の姿へ戻った『DIO』その人だ。
「こちらが準備したその劇を、『主演男優』が空気を読まんアドリブで大幅にストーリーの流れを変えてしまうとは計算外だったのだ。
いくらシナリオが名作に等しくとも、役者が力量不足であれば、三流の駄作の烙印を押されてしまう。
ゆえに、主演である貴様が批判されるべきではないか?」
「痴れ事を抜かす。
此処は大衆が好む劇場でも、女子供が愛読する絵巻物や夢の舞台でもない…」
DIOの言葉を鼻で笑い、宿儺は見下すような眼つきでこう続けた。
「非情で、理不尽だけが平等に与えられ、力ある者こそが生き残れる【現】だ」
「否定はしない。シンプルかつ分かりやすい考えは嫌いじゃあない」
【呪いの王】と《悪の帝王》
視線を合わせた瞬間から、両者は感じ取った。
互いに圧倒的な邪悪であり、他者の追随を許さない強者である事。
そして…
「不快極まりない。俺の邪魔をしたのだ、相応の報いを受けろ」
「思いの外、短気な男だな。仕方あるまい…相手になってやろう」
形容し難い負の感情―――【同族嫌悪】の念が発生した事を…
【旅館外の観光スポットにて…(呪いの王の執着心と、助けに来たVIP客)】
「リュン殿、あの男は何者だ?」
宿儺とDIOが目にも止まらぬ激闘を繰り広げる中、レクセウスは警戒をしつつ、リュンに質問を投げかけた。
「…私の昔馴染みであり、因縁のある方です」
「そうか、難儀な関係なのだな」
宿儺との関係性について語るリュンは、複雑な表情を浮かべている。
彼女の様子を見たレクセウスは、これはかなり深い事情がありそうだと察した。
「申し訳ございません」
「何故?」
「あの方との問題は、私個人が解決すべき事です。お客様を巻き込んでしまいました…」
目を伏せて、反省するリュン。
抱きかかえているふーちゃんが、「りゅんちゃん、らいじょぶ(大丈夫)?」心配そうに彼女の頬をぴとぴと触れる。
そんな彼女に対し、レクセウスは首を緩慢に振った。
「気にしなくていい」
「レクセウスさん…」
「こういう不測の事態には慣れている。それに…」
リュンの頭を手で軽くぽんぽんと叩く。
「力ある者が、困っている人々を助ける事は当たり前の行動だ」
レクセウスがハッキリした口調で断言した。
リュンはあっ…と声を漏らすと、徐々に口元を緩めた。
「似ていますね」
「? それは…」
レクセウスが疑問を口にしようとしたその時、キンッと鋭い刃の鍔迫り合いのような音が耳元に響いてきた。
何事だとレクセウスが視線を巡らせると、彼の周囲に結界らしきものが張られていた。
「レクセウスさん、大丈夫です」
「この結界…貴女の術か」
「私がいる限り、絶対にお守りいたします」
リュンの発言を聞き、レクセウスは「頼もしい女性だ」と感じた。
そうなると、先程の攻撃は―――
視線を変えると、DIOと戦いつつも、こちらを射殺そうと言わんばかりに宿儺がぎらつく鮮血色の眼に殺気を滲ませていた。
(リュン殿を狙った? いや…)
冷たい汗が、雨後の雫のように背筋に流れていく。
あの男は、リュンの命を奪おうとしていると思っていたが…違う可能性が出てきた。
(もしや、あの男の目的は…)
「うりしゃん、おーえんしゅりゅ(応援するよ)!」
思考を働かせていたレクセウスを現実に引き戻したのは、ふーちゃんの声だった。
この後、ふーちゃんの行動が事態を一変させてしまう。
【つづく】
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