【時和旅館】にて…


※王国心+呪術廻戦の番外編。

※多重クロスオーバー要素があります。

※呪術廻戦 連載に登場した『時和旅館』が舞台となります。


※連載の番外編(前日譚)である【シークレット・メモリー】の先の展開を描いています。

※戦闘・流血・残酷描写があります。


※呪術廻戦の本誌のネタバレを含みます。

単行本派の方は、お読みになる際はご注意ください。


※CP要素(オリキャラ ←←←←← 宿儺)があります。


※原作キャラ(宿儺)が、大いに犯罪臭を匂わせる言動と行動をしています。

また、見る方によっては不快な印象を受ける事をしているのでご注意ください。




*** ***** ***





「今日は晴れ! 絶好のランチ日和♪」


プレガーレ(シスター見習い)の服を纏う伊織は、中庭の大きな樹の近くでランチをとっていた。

おにぎりとチキンカツ、卵焼き、炒めた茄子と茸にトマトを合わせたマリネサラダ…がその日のメニューだった。



「うん、味は悪くないな…」

「すーさん、挨拶する前に食べないでくださいよ。いただきます」



呪いの王…宿儺はこの当時、掌サイズの全身に紋様が刻まれた濃茶色の雛であった。

彼は、幼い頃の伊織が大事にしていたぬいぐるみに憑依していた。

理由は、贄である彼女がシスターになるのを防ぐため。

事ある毎にちょっかいをかけてくる宿儺に、ヴァルハラ教団のシスターであり、伊織の師でもあるコゼットは頭を悩ませていた。



「むっ、この握り飯の具…肉が入ってるな」


「昨日の夕飯の残り…ハンバーグを入れてみました。

それから、醤油の焼きおにぎりに、梅と大葉の三タイプです」



高校生になったばかりの伊織は、自分がシスターを目指す要因となった小さな雛が傍にいる事にすっかり慣れていた。隙あれば、昼食の弁当を食べてしまうので、多めに作るのが習慣づいていた。



「卵の味、もう少し濃くしろ」

「全体のバランスを考えて薄味にしたんだけどなぁー…だし巻き卵でいい?」



宿儺は味付けに注文を付ける事があるが、用意した弁当はどれも残さず食べる。

ひとつひとつ味わって感想を言ってくれるおかげで、伊織の料理の腕は上達していった。


「ごちそうさまでした」

「…ごちそうさま」


デザートのかぼちゃプリンを完食し、食後の挨拶を済ませる。

弁当箱を風呂敷に包んで、伊織はふぅーと息を漏らした。


「すーさん、どうしたの?」


お腹が満たされた余韻に浸っていると、膝の上に宿儺が乗っかり、ごろりと仰向けに寝転がる。



「腹がくちた、寝る」

「もぅ…私の膝をベッド代わりにしないでよ」


「お前は俺の贄だろう」

「私は、すーさんの贄にはなりませんよ」



はっきりと自分の意見を言う伊織。

この会話のやり取りは、彼是十年くらい続いている。



「尼にはさせんぞ。この不快な領域を生み出す女神に仕える女官になど絶対に…」



宿儺は眉間に皺を寄せて断言する。

彼の中で、ヴァルハラ教団は不快そのものだった。

己の贄を、横から奪い去ろうとしている万死に値する存在だ。


同時に、容易く始末できない天敵でもある。

己と互角かそれ以上の力を持つ女神の眷属である二人の姉妹。

そして、彼女等の主であり、上位の呪霊さえも消滅させてしまう強烈な領域を生み出す女神。

完全に復活できていない…この時の宿儺では直接戦うには難易度の高い相手だった。



「私はシスターになりますよ」



視線の先にいる少女は、機嫌の悪い宿儺の殺気を気にせずに「貴方の思惑通りにはなりません」と言い返した。

生意気な小娘だ…と思うも宿儺は視線の先にいる少女をじっと観察する。

幼女の頃から見てきたが、伊織は成長するにつれて魅力が増してきた。


長い睫毛に囲まれた、新緑のように輝く翡翠色の瞳。

子どもと大人の女の狭間にある綺麗な顔立ち。

外見のみならず、穏やかで不思議と心地よい空気を醸し出す内面的な美しさがある。

身体はまろみを帯びてきており、胸は程よく膨らみ、腰と手足は華奢な柔らかな肢体。

それを露出の少ないプレガーレの制服に身を包んでいる事で厭らしいとは思わせない。

むしろ、清楚で慎みやかな乙女を印象付けさせている。


さらに、伊織は【ウィッチ】というもうひとつの顔を持ち合わせている。

闇が蠢く裏社会を巧みに忍び込み、目的のためには敵を欺き、華麗に引導を渡す。

その姿は神秘的かつ魅惑的で、見るものを虜にしてしまう艶麗さがある。


―――【聖職者】【魔女】


相反する要素を併せ持つ少女は、この先も多くの者の心を引き寄せていくはずだ。



(いい…実にいい)



宿儺は内心ほくそ笑んでいた。

予想以上に、贄である少女が己の好みに育っている。


「すーさん、また何か企んでいます?」

「さてな…」


当の昔に、伊織の事を単なる食用の対象から外していた。

夢の領域内で激闘した『魔神の王』と名乗る図体がでかい爺との一件以降から、彼女に対してある感情が生まれた。いや、随分前からそれは芽生えていて…その件をきっかけに自覚したと言うべきか。


かつて、五穀豊穣を願う新嘗祭に出席した時、抱き着いてきた女がいた。

「宿儺の側にいるのは自分である」と主張したあの女もこんな気持ちだったのか…

いや、推察する事自体が無粋だろう。



(ほしい、あぁ…ほしい。その身も心もすべて…ッ!)



伊織へ抱く感情は、幼子が抱く純真な甘酸っぱい恋のような優しいものではない。

苛烈で、貪欲で…奈落のように底を知らない愛情と独占欲。

時折、その身を蹂躙したくなる激しい衝動に駆られてしまう程の凶暴な欲望が渦巻いている。

一つ間違えれば、対象者を壊してしまう程の【呪い】だ。


(堕とすには…あいつらが邪魔だ)


忌々しい事に、女神の眷属である姉妹と伊織は契約を交わしている。

その姉妹と…血縁者である兄の慶一が最大の障害として、宿儺の行く手を阻んでいる。



(本宮慶一…すぐには死なせん。

散々、俺に不快な思いをさせた分、嬲り尽くしてやる)



姉妹はいずれ倒す。

狩ってその血肉を食らい、糧にしてやる。

慶一はじわじわと甚振り、肉体的にも精神的にも追い詰めていこうか。

そして、この世の絶望を味わせた上で抹殺しよう。


そんな光景を目の当たりにした伊織は嘆き悲しむか、はたまた憤怒の感情を露わにして立ち向かってくるか…?

どちらにせよ、伊織に勝算はない。


力の差を見せつけ、現実を知らしめる。

そうする事で、伊織の心は完璧に折れてしまい、正気を失うだろう。


(その時は……思う存分、味わってやる)


全てに絶望してしまい、闇に堕ちた【魔女】となった伊織を…自分の手中に収める。

一度、壊した魔女を躾けていき、自分好みに再構築していく。

彼女が微笑み、心を寄せる対象は…

その瞳に映るのは…自分だけでいい。

それ以外は一切排除してやる。



しかし、その野望は…脆くも崩れ去る結果となってしまう。

呪いの王が手に入れようとしていた…伊織本人と彼女の協力者の手によって。




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