【時和旅館】にて…
「まぁ、それではサラサさんは小説家なんですか?」
「いや、漫画家です。漫画って言うのはですねぇー…」
エリザベスは、足湯のコーナーにいた。
そこで、同じくその場にいた宿泊客の女性に挨拶したら、そのまま談笑する流れとなった。
女性の名前は「サラサ」
【漫画】という絵を主体とした視覚で楽しめる物語を作る職業についているそうだ。
「これが…漫画」
「そう、私のイチ押し!
この作品の作者さん…私が漫画家を目指すきっかけになったんですよ」
サラサは足湯中に読んでいたお気に入りの作品を、エリザベスに勧めてくれた。
初めて見る【漫画】は、エリザベスにとって心躍らせるものだった。
短編の物語集のようだが、絵は綺麗な描写であり、絵画とは異なった魅力に溢れている。
内容は恋愛や冒険もの、ホラー要素があったりと…様々な要素を取り入れていて、一度に色んなテイストの話を楽しめてしまう。
「すごい…素敵ですね」
「やった! お勧めした甲斐があった!」
それから、サラサは漫画に関するあれこれを話していく。
エリザベスはワクワクしながら、彼女の語る事に耳を傾ける。
(はぁ…人間の娘共は話好きが多くて敵わん)
やや離れた所で、漏瑚が同じく足湯を利用していた。
定期的にこの旅館を訪れる彼は、古参の常連客である。
10分前に、橙色がかった短い髪の女性…サラサが此処に来た。
彼女は書物を読みながら足湯しており、特に問題ないかと当初は放置していた。
だが、時間が経たない内に銀色の長い髪の女性…エリザベスがやってきて、二人は意気投合したのか話に花を咲かせている。
呪霊であるため、彼女らには漏瑚の姿は見えない。
もし、此処が【時和旅館】でなければ、二人を即座に消し炭にしていただろう。
「命拾いしたな、小娘共」と内心悪態をつく漏瑚。
すると、エリザベスがはっとしたようにこちらに視線を向けた。
「あの、声が大きかったでしょうか?」
「はっ…?」
漏瑚は一瞬耳を疑った。
「ご迷惑でしたら、申し訳ございませんでした」
「えっ、あそこに誰かいるんですか?」
「あ、はい…」
「うわっ、もしかして守護霊様とか精霊様とか? すみませんでしたー!」
(な、なにぃいいいい!!??)
漏瑚は改めて認識した上で、心の中で絶叫した。
エリザベス…あの娘は己の姿を視認できていた!
その上で、騒いだ事を謝罪してきた。
サラサの方は見えていないようだが、エリザベスの言う事を信じて、彼女に合わせる形で謝ってくれた。
「…気にはしとらん」
「ありがとうございます。でも、そろそろ場所を移動しますね」
ふわりと笑うと、エリザベスは白魚のような素足を湯から出す。
「どこに行きましょうか?」
「折角だから、私の部屋に来ません? とっておきの作品がまだありまして…」
サラサと共に退室するのを見ながら、漏瑚は呆気に取られた顔でぽつりと呟く。
「…変わった娘達だ」
*** ***** ***
「リュン殿、此処にいたか」
レクセウスは、届いた荷物の中に入っていた茶色の包装紙に包まれた箱を持ち、リュンを探していた。
その時、別の客室の扉が開き、リュンがちょうど出てきたところを見つけた。
「あら、レクセウス様。如何なさいましたか?」
「すまない。先程、届いた荷物の中に貴女宛のものがあり…それを渡しに来た」
そう伝えて箱を差し出すと、リュンは「まぁ」と口元に手を添える。
「ありがとうございます。
先日、リエさんにお願いしていたものなんです」
「そういえば、『予定よりも早くできた』と言ってたな」
「おかげで助かりました。これで早めに解決できます」
リュンはそう言いながら箱を受け取り、会釈すると踵を返して逆方向へ去っていった。
(あの箱…非常に重要な物のようだ)
連絡を取っている最中、リエは中身については明かさなかった。
ただ、リュンにとって必要なアイテムであると言っていた。
(渡す事ができてよかった)
中身は謎だが、詮索するのはさすがに失礼だろう。
目的は達成できたし、女将も喜んでくれた。
レクセウスは満足げに頷いていると、「おい」と後方から呼びかけられた。
聞き覚えのある声に振り向き、そして視線を下ろすと…
「れくたーん!」
「探したぞ」
普段のねこにんのベビー服姿のふーちゃんとDIOがいた。
「どうした?」
「お前に協力してもらいたい事がある」
ふーちゃんのフードの上に乗っかり、腕(小さな翼)を組むDIOからの要請。
「…具体的には?」
疑問よりも、レクセウスはその内容が気になった。
「昼食は終わったか?」
「いや、これからだが…」
「ちょうどいい。私達は今から部屋で食べる予定だ。
本日のメニューは鰻重らしいが、私だけでは食べきれるか分からん。
なので…共に食を楽しもうじゃあないか」
(…三日前と同じ状況になっている)
今更だが、デジャブを感じてしまった。
…とはいえ、DIOがわざわざ昼食を誘うだけとは思えない気がした。
「分かった。同伴しよう」
レクセウスはその誘いに乗る事にした。
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