【時和旅館】にて…


エリザベスが、旅館に来てから五日経過した。

体調も回復し、顔色も良くなった。

本日から、病人食から通常の食事に切り替えとなった。


(この卵の料理、初めて食べたけれど…凄く美味しい)


メニューは【一口サイズのおにぎり三個】【焼き鮭】【だし巻き卵】【しじみ汁】【ほうれん草のおひたし】

デザートは【ブルーベリーのヨーグルトムース】だ。

どれも美味しいが、エリザベスはだし巻き卵が一番のお気に入りとなった。

一口ずつ味わっていき、気付いた時にはデザートも全て食べていた。


「ごちそうさまでした」


両手を合わせて、食事の終わりの挨拶をする。

すると、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。


「エリザベス様、お手紙が届いていますにゃ!」


ねこにんの従業員が持ってきた手紙を、エリザベスは手に取ると封を開けた。

…送り主はハルからだ。



「よかった…みんな、無事みたい」


エリザベスはほっ…と安堵の息を漏らす。

呪術を用いて、エリザベスの健康を害していた犯人は捕まった。

犯人は、リオネス王家の統治体制に不満を抱いていた元貴族だ。

元々、黒い噂があったようで、前王の時代に悪行が明るみになり、没落した経緯がある家の当主だった。

リオネス王家への恨みから、呪術に手を出して復讐しようとしたようだが…

ハルが突き止めて敢え無く御用となったそうだ。



手紙には書かれていない余談だが…

悪あがきと言わんばかりに魔物を使って逃走する犯人を、現王は凄まじい気迫で追いかけていったとの事。

その姿を見た側近のギルサンダーは「魔神化とは異なる…いや、進化した歴史的瞬間を目の当たりにした」と興奮していた。


なお、捕まった犯人は恐怖のあまり髪の毛が一瞬で白く染まってしまい、危うく昇天しかけたらしい。

その光景を目にした聖騎士長のハウザーが「自業自得だけど、気の毒に…」と憐みの視線を投げつけたとか。



(『お仕置きは完了したので、焦らずに休みを満喫してください』…ですか)



文末には、その文面が書かれていた。

「まだまだ休み足らないですよ」とある意味 忠告のような意味合いに感じた。



(…それなら、お言葉に甘えようかしら)



振り返ると、王位を継承してからこの五年間は忙しい日々を過ごしていた。

愛しい家族や親しい人達との時間は満ち足りていたが、エリザベスが一人でゆっくりと過ごす時間はあまりなかった。

だから、ハルの勧める通りにこの休暇を思う存分満喫しよう…という気持ちが増してきた。


「まずは…手紙を書かないと!」


とりあえず、夫やハル達に手紙を書こう。

エリザベスは、従業員にペンと便箋を用意してもらうために呼び出し用のベルを鳴らした。




*** ***** ***




「いかがですかにゃ?」

「…あぁ、右の方も頼む」


レクセウスは、いつになく気の抜けた表情でそう指示した。

何故なら…


「それでは…ねこにん按摩術【肉球・連弾】!


従業員が、ぷにぷにぷにとレクセウスの背中を手で叩きながら刺激を与えていく。

只今、ねこにんの特別マッサージを施術されている真っ最中だ。

この旅館は予約をすれば、女将を含めた従業員がマッサージをするサービスがある。

レクセウスは試しに予約を入れた…指名は『ねこにん』の従業員で。


(あぁ…身体も心も…疲れがとれていく)


改めて思った。

…ねこにんは可愛らしい、肉球のマッサージは素晴らしいと!

大の猫好きである彼にとって、この体験は極楽浄土にいるに等しい思い出となった。


「おわりましたにゃー!」


マッサージも終わり、ほわほわした幸福感に包まれながら、レクセウスはサービスで出された緑茶を啜る。


(この後、どうすべきか…)


時計は午前11時35分を指している。

一旦、部屋に戻ろうか…と考えていたその時、「すみません」と従業員の男性に声をかけられた。



「レクセウス様、お荷物が届いておりましたので、お部屋の方に置かせていただきました」

「?…ありがとうございます」



はて…とレクセウスは首を傾げる。

宿泊先へわざわざ荷物を届けるなんて、誰だろうか?

すると、所持していたモバイルポータルが鳴り響いた。


「はい、もしもし…」

『レクセウスさん、こんにちは』

「リエか、どうした?」


突然の仲間からの電話に、レクセウスは思わず聞き返した。



『お休み中、申し訳ございません。

先程、レクセウスさん宛に荷物を送りました』


「なるほど、ちょうどその連絡を聞いたところだ」


『レクセウスさんにお願いがありまして…

荷物の中に、リュンさんに届けてほしい品があります』



「お願いできますか?」と仲間からのお願いに、レクセウスは「分かった」と了承する。

彼女の改まった声から、急を要する案件なのだと察したからだ。




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