【時和旅館】にて…


「奇遇だな。まさか、お前と此処で会うとは…」


レクセウスはなんとも言えない表情となる。

この旅館で、一番人気のあるキルマフルーツ入りの温泉に入る事にした。

髪と身体を洗い、湯船に浸かった直後…浮いているキルマフルーツの上に乗る小さな毛玉を見つけた。



「DIO…何故、此処に?」

「フッ、ステラの付き添いだ」

「なるほど…ふーの友達がいるんだな」



金色の丸っこいピヨの名前は【DIO】

その正体は、120年以上の時を生きる美丈夫の吸血鬼だ。

彼は自らの野望を実現するために、世界を終わらせようとしたために、故郷の世界で絶賛指名手配中の身である。そんな彼は、最年少のエクレシアの小さな女の子であるソラ・アウリオンの傍にいる。


かつて、己の野望をビスケットのように粉々に砕いた張本人の一人である幼子の護衛役を主張しているのは野心があるからだ。

彼が次なる野望のために、ソラ…もとい、ふーちゃんを利用しているつもりだが、逆に彼女に振り回されている。その事実を知るレクセウスは、ピヨとなっている彼にどうこうする気はない。

ふーちゃんや他の人達に危害をもたらさない限りは、傍観する姿勢だ。



「無闇に争う事は無益だろう。俺にとっても、お前にとってもな…」

「ふむ、賢い選択だ。嫌いじゃあない」



DIOもくくっと笑いながら、乗っていたキルマフルーツから湯へダイブする。

ポチャッと水滴が落ちる音と共に、小さな水飛沫が出る。

湯をすぃーと泳ぐDIOを一瞥すると、レクセウスはふぅ…と息を漏らして瞼を閉じる。

濡れたタオルで顔を拭きながら、入浴後の新しい予定を立てる。



(ふーがいるなら、会っておくか)





温泉を堪能した後、DIOを肩に乗せたレクセウスはふーちゃんがいるところへ向かう。


「ふーは、この旅館の女将と交流があるんだな?」

「ああ、女将が人間の頃からの知り合いだそうだ」


DIO曰く、女将であるリュンは半分精霊との事。

元々は違う世界で、夫と娘の三人家族で幸せに暮らしていたようだ。

夫が他界し、娘が独立した矢先に…ある出来事がきっかけで違う種族へ進化する事になったそうだ。

精霊に進化しつつあるリュンは、この世界に移住した後、能力でこの観光地を作り出し、旅館を営んでいる。



「詳しいな」

「本人から聞いた話だ。私もステラと同様にVIPの上客なのでな」

「そうか…納得した」



DIOもまた、リュンと友好的な関係を築いているようだ。

レクセウスは相槌を打ちつつ、DIOの語りに耳を傾ける。

聞き上手な彼に、DIOも気分が良くなる。

この場にいるのが馴染みのあるアクセルだったら、「まーた、デバガメしたのか」と呆れ顔でツッコむのが目に見える。副官のサイクスに至っては「黙れ、邪ヒヨコ」と言って、ピヨ撃退用スプレーを容赦なく吹きかけてくるに違いない。


(クククッ、こいつは使えるやもしれん)


利になりそうな人材なら、この男を味方に引き入れてやろう。


「どうした?」

「いや、なんでもないさ」


DIOがそんなダークな企みを考えているとは露知らず、レクセウスはそのまま彼と会話を続ける。


「うりしゃーん」


すると、舌足らずな馴染みのある幼子の声が聞こえてきた。


「ふー、久しいな」

「れくたん!」


ふーちゃんが両手をあげて、とことこと歩いてきた。

今日は愛着している白いねこにんのベビー服ではなく、幼子用の花柄の甚平を着ている。

普段は隠れている鳶色の髪も露わになっており、ツインテールにしている。

異なる姿をしていても、いつも通り可愛らしい…とレクセウスは思った。


「ふーも風呂に入ったのか?」

「うん!」

「そうか、旅館の人が髪を結ってくれたのか」

「私が結いました」


ふーちゃんを抱き上げたレクセウスの問いかけに、答える第三者の声。

視線の先にいたのは…リュンだった。



「温泉はいかがでしたか?」

「とてもよかった」


「それは嬉しい限りでございます。

レクセウス様は、ふーちゃんとDIO様ともお知り合いなのですか?」



聞き返された事に、レクセウスは「そうだ」と肯定すると、リュンは「なるほど」と頷く。


「ねーねー、りゅんちゃん。マンマ、にゃーに(ご飯はなあに)?」


会話の最中、ふーちゃんが本日の食事の質問を投げかけてきた。


「今日は、ふーちゃんの大好きな特別メニューですよ」


リュンは口元に綺麗な弧を描いて、特別メニューの内容を告げる。


「トマトソースのハンバーグに、マッシュポテト、かぼちゃのサラダ、デザートはプリンです」

「わーい!」


好きなメニューが目白押しで、ふーちゃんは大喜びだ。


「DIO様は、本日のフルコースを用意していますよ」

「ふむ、楽しみだ」


DIOも頭から音符が具現化するように、口調から嬉しい気持ちが出ている。

上機嫌な彼等をよそに、レクセウスは本日の夕食が気になる。



(どんなメニューになるのだろうか…)


「レクセウスよ、一緒にどうだ?」



刺身の盛り合わせを密かに期待していると、DIOが突然同席する事を提案してきた。


「唐突だな」

「なーに、男一人で豪勢な料理を食べても味気ないものだろう?」

「いや、別にそう思わないが…」


いきなり誘われて、レクセウスは不思議そうに首を傾げる。

別に断る理由もないが、DIOの意図が分かりかねる。


「れくたん、いっしょ!」

「ほら、ステラも同席を望んでいるぞ」


ふーちゃんも、レクセウスと一緒に食事をしたいようだ。

…幼子の要望を無下にするのはいけない。

レクセウスはふぅと軽く息を吐くと、リュンに声をかける。



「…リュン殿、よろしいだろうか?」


「かしこまりました。

レクセウス様のお食事も、VIPルームにお持ちいたします」


「かたじけない」



女将の心遣いに、感謝の言葉を言うレクセウスであった。




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