【片翼の天使】シリーズ
「ん、ああ…あれね…」
サラはクッキーをゴクッと飲み込み、紅茶を一口飲んで喉を潤す。
「この事件…案外歴史を辿らないといけないかもしれない」
「歴史…?」
「そう、エクレシア制度が復活する前…それがキーポイントだ」
つまり、原因はリエ達がエクレシアになる前…随分過去の時代に遡る必要があるという事。
イザヤは少々脳内の情報を整理する必要があると思いながらも、これだけははっきりと感じた。
一連の事件の黒幕は、表面的な角度からでは特定できない者…だと。
「そういや…話変わるけどさ。この間、『リーシェ』から依頼があってな」
サラの口からその名前が出た瞬間、イザヤは思わず吹き出しそうになった。
「…あのウサギ仮面も依頼するんだな」
「時々あるぞ、『忙しいから』とか『無駄な時間を費やしたくないから』って理由で」
イザヤの脳裏にリアルにその理由を語るリーシェの姿が想像できた。
依頼内容はどんなものなのか…知りたいようで知りたくない気分だ。
「血脈鑑定とか結構手間取るのに…」
「血脈鑑定?」
サラの口からでた妙な単語に、イザヤは目を細める。
「ん? ああ…ある人物の血脈を調べてくれって言われてね」
「…ある人物って」
誰なんだ、と言おうとしたら、サラが「おっと」と手を真っ直ぐに押し出す。
「守秘義務があるからこれ以上は言えない」
「失礼した…」
「まあ、俺もうっかり喋ったし、口チャックしなきゃな」
チャック、チャックと呟くサラ。
イザヤはそうだな、と納得したように頷きつつも…
(血脈…誰かの家系を調べている?)
その事が気にかかり、胸のざわつきを覚えた。
【Foreshadowing hidden】
数時間後、イザヤと入れ替わる形でほさ部の事務所の扉をくぐる人物がいた。
「どうも、サラさん。お疲れ様です」
「どうも~、ひさしぶり。リーシェ先生」
はーいと軽くハイタッチをする二人。
挨拶もそこそこにサラは、リーシェに‟例の情報”が記載された紙媒体の資料を渡す。
「詳しい内容はそっちに書かれているけど、驚いたね…リーシェ先生、おたくもユニークな家系みたいでさ」
そう、リーシェが依頼したのは、自身…そして姉の血脈の調査だった。
「『医者の不養生』と言ったらそれまでですけど…こればかりは専門機関に調べてもらわないと埒があきませんからね」
ペラペラと頁を捲るリーシェ。
事の発端は、最近自分と姉のパワーバランスに乱れが生じてきた事から。
ドクッと心臓が飛び出る感覚。
じわじわと込み上げてくる…今までなかった力の胎動を感じた。
姉も少し違う形で、新しい能力の兆候が出てきているのを自覚しており、これは何かあるな…とリーシェの思考は働いた。
真っ先に、父か母の能力が遺伝した可能性が頭をよぎり、知人であるサラに協力を仰いだ。
その結果―――
「これ…マジですか?」
「97.30%信頼できる筋からのものだよ。俺も最初はマジか!?って疑ったけど…間違いないって」
サラも未だに現実味がないという渋い顔でそう言った。
「何世代か前の…しかも母方の血筋に『魔を司る者』がいたとはね」
資料を読み終えたリーシェは天井を見つめる。
彼女はどんな表情をしているのかは不明だが…複雑な胸中なのは確かだ。
下手な慰めはしない方がいい。
サラは暫くの間、空気に浸透するように沈黙した…リーシェが言葉を紡ぐまで。
【おわり】
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