【片翼の天使】シリーズ
「―――『アプリヘンデ』?」
「はい、数日前にクロト=メグスラシルに次元の狭間が開いて、そこから忍び込んできたんです」
聞き慣れない単語に首を傾げるイザヤ。
彼のために、加奈が丁寧に解説し始める。
『アプリヘンデ』とは、星の大海の位置する世界において犯罪行為や世界規模の消滅に関わる出来事を起こしたあらゆる生物のこと。
要するに、異世界規模で指名手配された危険人物(あるいは生物)という意味らしい。
「この生物はインキュベーター…またの名前は『キュゥべえ』。ある世界で少女たちを唆して魔女をつくりだした危険な種族です」
「心外だなぁ、僕等は願い事をかなえてあげただけだよ」
加奈が厳しい表情で説明した事に、異論を唱えるキュゥべえ。
「騙されませんよ! 願い事一つ叶える代わりに魔女になるまで永遠と続く戦いを強いるだなんて…オレオレ詐欺ならぬ魔法少女詐欺じゃないですか!」
「最終的な判断は、少女達に委ねていたさ。そもそも僕は間違った説明はしていないよ」
イザヤはハッとある事を思い出した。
リエが以前語ってくれた、とある異世界の魔法少女の話。
黒幕の白いマスコットキャラ…時間をさかのぼり続けて親友を助けようとした少女…そして神となった一人の少女の物語。
「…なるほど、吐き気を催す邪悪だな。そいつは」
「やれやれ、君達も人間と同じ『感情』で動くんだね、僕等にとったら理解しがたい事だよ」
イザヤが発した侮蔑の言葉にも怯むどころか、訳分からないよと返された。
「インキュベーターは独特の倫理観と合理性で成り立っているらしくて…私達の嫌味も通じないみたいです」
「…話をするだけ無駄って訳か」
抱きかかえるキュゥべえをむっーと悔しそうに睨む加奈。
このままだとこのいけ好かない生物のペースにされると察したイザヤは早々に話を切り上げる事にした。
「ところで加奈…話を戻すが、次元の狭間が開いたと言ったよな? 何かがあったのか?」
イザヤは真剣な表情で問う。
次元の狭間が自動的に開く事はまずありえない現象だからだ。
ならば、その狭間が意図的にこじ開けられた…つまり第三者が介入した可能性が高い。
己の推理を口にすると、気まずそうに視線を逸らしていた加奈が観念した様に口を開いた。
「これは…まだエクレシアと一部の関係者しか知らない事です。他言しないでくださいね」
加奈が語りだしたその内容は、イザヤの顔を蒼白させるのに十分だった。
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
「一人の女に復讐するために唆されて鍵穴を開くだなんて…ふざけてんのか、その犯人は」
「私も最初は半信半疑だったんです。でも、リーシェさんが間違いないって」
イザヤは頭が痛くなった。
そう…一人の男を巡って、女がその男の恋人を陥れるために特殊能力を使った事が騒動の原因だった。
一言で表現するなら「なんじゃそりゃ」
個人的な私怨と男女のトラブルなら、よそでやってくれと言いたい。
その所為で、どれだけの異世界の住民が迷惑を被ると思ってるんだ。
「犯人は? エクレシアの誰が裁いたんだ、ウサギ仮面か?」
「それが…10人目のエクレシアと言われてるフィンさんって人です」
「!…あいつが…」
脳裏をよぎる一人の少女―――ソラの友達であり、謎を秘めた人物…フィン。
周りはエクレシアだというものの、彼女がそうだという確証を得ていなかったため、自称の領域を超えていなかった。
だが、リーシェは判断したのだ…フィンが本物だと。
(本当にあいつは何者なんだ…)
一度だけ接触した事がある。
不思議な雰囲気に包まれた女の子だ。
纏うオーラはリエに似ていて…何故か既視感を覚えた。
どこかで会った事があるようなないような…?
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