【片翼の天使】シリーズ


空に雲が立ち込める日だった。

ふぅ…と口から灰色の煙を出しながら、イザヤはソファーに腰をおろしていた。


「…暇だ」


灰皿に煙草を押しつけて、ポツリと呟く。

この1週間、これといって大した依頼もなくて家にいるか、【SEVENTH HEAVEN】に行って馴染みの仲間達と飲食をともにする程度。

昨日は、レノがルードを連れて突然押し掛けてきて、酒とつまみを持ってどんちゃん騒ぎした(騒いだのはレノ)。

そして、酔いつぶれて爆睡してしまったレノをルードが先程連れて帰ったばかりだ。

後片付けをし終えて、ようやく一人になって寛いでいる。


ちらりと、机に置いてあった小型のカレンダーをみる。

数日後…ある人物二人と会う約束をしている。

ザックスと…アンジールだ。



《クロト=メグスラシル》での病院で再会したあの時―――イザヤは混乱してしまい、逃げてしまった。


イザヤは、アンジール…かつて、慕っていた人物が命を落としてしまった場面に直面した。

そんな彼と運命の悪戯で、再会してしまうなんて思いもよらなかった。


こわかった…。

彼は、昔のトラウマを…実兄を…思い出させてしまうから。

自分が、如何に無力であったかを思い知らされてしまうから。


眩暈と吐き気が込上げてきて、途中で意識を失ってしまう。

そんな自分を介抱してくれたのは…リエだった。


『過去と向き合う事はとても勇気がいります。でも…一人で背負うにはとても辛い事でも、二人なら辛さが『半分』になります。

イザヤさん、貴方が内に秘めている“もの”を解放したいお気持ちがあるなら…私でよければ、話していただけますか?』


リエは、ずっと待っていた。

イザヤの闇を…内に抱える問題を話してくれるのを。

彼女の優しい言葉が引き金となった。

イザヤは我慢できずに、とうとう今までひた隠しにしていた『悩み』を打ち明けた。



リエは病院で非常勤の精神科の医師として、働いている。

イザヤ自身も働いているため、不定期となってしまうが、リエは彼のために日程を調整をしてカウンセリングをしてくれるようになった。

そのおかげか…以前よりも心に余裕が持てるようになった。


カウンセリングを受けてから三ヶ月後、イザヤはザックスとあった。

最初は、ぎこちない雰囲気だった。

しかし、ザックスの持ち前の明るさと、病院で知り合って親しくなったカナンがいたおかげで徐々に会話が増えていった。


それ以降、ザックスがたびたび声をかけてくれるようになり、【クロト=メグスラシル】であうようになった。

そして…ザックスがある提案をしてきた。


『今度、懇親会をやるんだ。なあ…イザヤも出席しないか?』


アンジールも出席するんだ…と、少し遠慮がちに教えてくれた。

断ろうと思えば、できた…。


(…けれど、俺は断らなかった)


立ち止まっていては…いけない。


「絶対に…大丈夫だ」


リエが教えてくれた魔法の呪文。

顔を手で覆って、それを唱える。


以前のようにはいかないかもしれない。

せめて…少しだけでも、アンジールと歩み寄りたい。

瞼を閉じて、そんな淡い期待を抱いていた。

数分後…思いもよらない連絡が飛び込んでくるまでは。



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