【29】きっと、私は後悔しない
「ふむ…」
「………(ドキドキッ…!)」
ペラッ…
カルテを捲る音が診察室に小さく響いた。
ユリはドキドキしながら診断の結果を待った。
「---大丈夫です。お腹の赤ん坊は至って健康です。勿論、貴女もね。」
ウインクをする目の前の女医…『リーシェ・シフォン・クローチェ』の言葉を聞いて、ユリはホッ…と安堵の息を吐いた。
「良かった…」
優しくお腹を撫でるユリを見て、リーシェの口元も緩む。
「もし身体に違和感を覚えたら直ぐに連絡を下さいね~
貴女のような神様がヒトとの間に子供を身籠ったら、母親も子供も何らかの影響がありますから。」
「、それって…悪い影響…なんですか…?」
「ん~…半分半分…といった所ですね…」
ペンをクルリと回転し、カルテに書き込むリーシェ。
リーシェは横目でチラリとユリを見ると、先程とは違い…少々不安な面持ちでお腹を見つめ、撫でていた。
「---…その人は天照大神という、高位の力を持った神様だったんですよ。」
「、」
静かに話し出すリーシェに、多少驚いたユリ。
驚きながらユリはリーシェの話に耳を傾けた。
「その神様は大きな怪我を負って、動けなくなった所を助けてもらったヒトがいるんです。
後にその神様は助けてもらったヒトと想いを通わすようになり、恋人関係になりました。
お互いの心と身体をを通じ、重ねて…ですが、訳あって十年ほど離ればなれになったんです。」
「…………」
ユリはリーシェの話を真剣に耳を傾け、聞き入った。
「十年ほど離ればなれになってしまいましたが…無事にその人と再会出来たそうで…
十年前と同じように、いや…それ以上に心を通じ合わせ、身体を重ねて、愛を育み、結婚しました…ですが…」
「…何か、あったんですか…?」
「…自分の中にある十三の力が衰え、使えなくなっていったのですよ。原因は…」
「まさか…」
「…そのまさかですよ。」
リーシェは椅子を動かし、ユリと向き合った。
「---子供を、お腹に宿していたのですよ。
貴女と同じように、人間との間に出来た…神様と人間…二つの血を宿した、いわば《混血児》を…」
「………!」
「お腹の子は彼女の力を失わせただけでなく…
彼女の生命(いのち)を蝕んでいきました。
お腹の子が最愛の妻の生命(いのち)を蝕んでいると知ったそのヒトは、堕胎するよう言いました。
だけど彼女はそれを拒否しました。
---『産みたい、どうしてもこの子を産みたい。』。
---『愛する貴方の子を…産みたいの。』と、言ったそうですよ。」
「…………」
「嗚呼、そういえば…こうも言っていたそうですよ。
---『この子は”奇跡”。《神》である私と《人》である貴方…決して結ばれない筈なのに…その境を越えて出来た、”奇跡の子”なの。』と…」
「そっ、それでっ…! その神様はっ…一体どうなったんですかっ…!? 子供は…!」
ドキドキハラハラと…顔をほんのりと赤くし、握り拳を作って続きを促すユリにリーシェは苦笑し、話した。
「そう言われたら、流石のそのヒトも言葉が出なかったようで…子供を産む事を…---承諾しました。」
「…………」
「…子供は、無事に産まれました。
その時の彼女の身体はもうボロボロで…生きてるのが、不思議なくらいで…」
「…あの…」
「はい?」
「そのヒトは今…どうしてますか…?」
「---…亡くなりました…彼と、五歳になった娘に看取られて…」
「………!」
リーシェは目を閉じ、話した。
それを聞いたユリは思わず、口に手を当て、頭を下に下げると、涙がこぼれ落ちた。
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