【24】料理対決
「そういえば最近、巷(ちまた)では料理ができる女性が男性にモテるそうですね」
――始まりは、何気なくローエンが言った言葉からだった。
「あら、そうなの」
「人間の男とは料理ができれば顔はどうでもいいのか?」
買い出しに行っていたローエンが仕入れてきた情報に薄い反応を返す私と、少し違う所に突っ込むミラ。
「料理ができる女性ねぇ…。ま、俺は顔がブスじゃなけりゃいいと思うぜ?」
どうでも良さそうにそう言ったアルヴィンをジト目で見る。
女の子の苦労を何だと思ってるんだか。
「確かに、料理ってできないよりはできた方がいいよね。僕は大事なのは中身だと思うけど……」
「ほっほっほ、ジュードさんらしいですね」
うん、ジュードはやっぱりいい子。
ちゃんと良い男に育ってるみたいで安心した。
…と、そう思ってるとふとローエンが言った。
「なら、ジュードさんは結婚するなら料理ができる女性の方が良いということですね?」
「!?ぶふっ」
急な質問に飲んでたお茶を吹き出すジュード。
…もう、ローエンたら。
「大丈夫?」
「う、うん。ごめんね姉さん」
差し出したハンカチを赤くなった顔で受け取るジュードの頭を軽く撫でて、私はローエンを呆れた目で見た。
「ローエン、純粋なジュードに変なこと聞かないでよ」
…でも、ローエンはそんな私の言葉なんて聞いてないみたい。
意味が分からないことを聞いて来た。
「セレナさんは料理は得意ですか?」
「?それは、まぁ…。昔から父さんも母さんも忙しかったから自分で作るしかなかったもの」
「姉さんの作る料理ってすごくおいしいんだよ」
「ふふ、最初の頃はひどい味だったけれどね」
…料理を始めたのはジュードが生まれてからだった気がする。
弟のためにと始めた料理だったけれど、最初は本当に食べられたものじゃなかった。
「そんなことないよ!姉さんの作る料理は何でもおいしかったよ?」
「…ジュードは昔からいい子だなぁ」
卵の殻が入ったような目玉焼き、しょっぱすぎるおにぎり。
それでもジュードは残さずに食べてくれて、おいしかったって笑ってくれて。
だから私も余計に料理を頑張ってたのだと思う。
懐かしいような苦いような思い出を思い出して苦笑すると、ローエンがひげを撫でながら「ふむ、」と納得したように頷いた。
「ならばやはり、理想の大人の女性は料理ができなくてはなりませんね」
「何でそうなったの」
急に何を言いだすの。
ほら、エリーゼが反応しちゃったじゃない。
「私が今まで会った中で最も素晴らしい女性はセレナさんですからねぇ」
「じーさん、人の彼女口説くなよ」
飄々としたローエンの言葉に、今まで傍観を決め込んでたアルヴィンが話に参加する。
いやいや、別に口説かれてないからね。
「ダメだよローエン、確かに姉さんは理想の大人で料理が上手で美人だし性格もいいけど、口説くなんて」
「誰もそこまで言ってないよジュード」
褒められて悪い気はしないけれど、なんか面倒臭くなりそうだからやめてほしい。
…あぁほら、レイアがものすごい勢いで見てきたよ。
というか、目が危ない。
あれは捕食者の目だよ。
「…セレナ!」
ああああほら、なんかこっち来たし。
レイアに好かれることを自覚しなさい、弟よ。
「セレナ、料理対決しよう!」
「……え」
ほら、レイアがまた唐突なことを言い出しちゃったじゃない。
「私はちょっと……」
顔を引きつらせつつ断ろうとすると、片方の手をくいっと引かれる。
見下ろすと、
「……エリーゼ」
小さな悪魔がそこには居ました。
もうやめようよ、そんなキラキラした目で見ないで。
…罪悪感が沸いてくるじゃない。
「…セレナ…、私も対決したいです……!」
「セレナに勝ったらエリーゼも大人の女性に一歩近付けるよね~!」
ティポ、それは違うからね。
というか、エリーゼはそんなこと思ってたの?
「ね、ミラもやろうよ!いいでしょ?」
渋る私を見たレイアはミラを味方に付けることにしたらしい。
まぁ、ミラなら断…
「ふふ、面白そうだな。私は構わないぞ」
らなかった。
はぁ、とため息を吐くと後ろから肩を叩かれて振り返る。
「あきらめろ、セレナ。審査は俺たちがやってやるから」
「姉さん、頑張ってね!」
「ほっほっほ、みなさん若いですね」
………。
なんでみんな乗り気なの。
「セレナ~」
「セレナ…お願い、です」
……キラキラした視線を向けてくる可愛らしい二人に負けた私は、あえなく降参して引きずられるようにして宿の厨房に向かった。
今日はゆっくりしようと思ってたんだけれど……、仕方ない子達ね。
付き合ってあげましょうか。
**********
「よーし、頑張るぞー!」
「はい!頑張ります…!」
エプロンを付けて気合いを入れるレイアとエリーゼ。
レイアは家が宿屋だし、きっと料理は上手ね。
エリーゼは…デザートならまともに作れてたっけ。
材料から見るに、レイアはマーボーカレー、エリーゼはプリンパンを作るつもりみたい。
「ミラは……何それ?」
見間違いかな、クラブの残骸がまな板の上に乗ってるのは。
まさかこれでシーフード系の物を作るなんて言わないよね…?
そして何でこんなものがここにあるの。
少し顔を引きつらせてまな板を凝視していると、ミラが満足気な顔で私の方を見てきた。
「うむ、これでシーフードシチューを作ろうと思ってな!」
「いやいやいやお腹壊しちゃうからやめよう?」
魔物は食べられないからね。
クラブは確かにカニだけれど…。
「そうなのか?だが、他に材料は無いからな。仕方ないだろう」
……後で薬調合しよう。
仕方ないと言って豪快にクラブの中身を取り出してるミラを見てそう決心した。
「…さて」
私も作る前に三人の手伝いとかした方がいいかな…。
「レイア、それ片栗粉じゃなくて小麦粉だよ」
「えっ?あ…本当だ!!」
「エリーゼもまだ混ぜ具合が足りないよ。粒が残ってるとダメだからね」
「あ…、まだ残ってました」
「ミラはもう少し細かく切ろうか。ぶつ切りしないの!」
「む、すまないな」
…そういえば、野営の時はご飯はほとんどジュードが作ってたっけ…。
だからこんなに破滅的なのかな…色々と。
「ジュードは良いお嫁さんになりそうね……」
ミラに包丁の使い方を教えながら、そう苦笑した。
**一方、男性陣――
「いいよな、ジュードは。昔からセレナのうまい飯食ってたなんてよ」
「アルヴィンだってしょっちゅうピーチパイ作ってもらってるでしょ」
向けられる羨望の視線を無視して、姉さん達が戻って来るまで本でも読もうと本を開く。
…なんてね、本当は少しだけ優越感。
野営の時も姉さんはあまり料理をしないから、みんなが食べたことがあるのってデザートぐらいじゃないかな。
…アルヴィンは頼み込んでピーチパイ作ってもらっちゃったりなんかしてるけど。
あ…、思い出したらなんかムカッとしてきたかも。
「セレナさんの手料理ですか…、ジュードさんの一番の好物だと言っていましたね」
「うん、そうなんだ」
無意識に拳を握ってた僕だけど、ローエンに話をふられてそれを解く。
…僕が好きな食べ物は色々あるけど、やっぱり姉さんが作った物が一番好きだなぁ。
食べるとほっこりした気持ちになるんだよね。
「レイアのお父さんの料理もおいしいんだけど、僕にとっては姉さんの料理が一番だよ」
そう言うとローエンが頬笑ましそうに笑った。
「それではジュードさんの料理対決の審査結果はもう決まっていますね」
「相変わらずシスコンだな」
アルヴィンの余計な一言にはとりあえず裏拳を入れておいて、それからまた本に目を向けた。
「二人も食べてみれば分かるよ。あの味はこのメンバーの中だと姉さんにしか出せないからね」
姉さん秘伝の隠し味。
レイアはドジらなければ美味しく作れるだろうけど、それでもそれには適わない。
「ほう。それは楽しみですね」
「うん、期待してて!」
昔、まだ小さい頃から感じてた隠し味。
お世辞にも美味しいとは言えない料理も、その隠し味があったから何より美味しく思えたんだ。
今はもう作ってくれることもあまりないけど…ね。
**********
「お待たせ~!やっとできたよ!」
料理を持ってルンルンと部屋に入って行くレイア。
レイアの料理は待ってないけどな、なんて言ったアルヴィンは殴られてた。
…何してるんだか。
哀れみの目でそれを見てると、ローエンが小言で耳打ちしてきた。
「誰も失敗しませんでしたか?」
「それは大丈夫。ちゃんと私が見てたから」
そうですか、と安心した顔になるローエンに心の中で謝る。
ごめんね、失敗はしてないけれど変な食材使ってる人が一人居たよ。
見かけは普通だから分からないと思うけれど…。
もしお腹壊したら薬調合してあげるから…私が味見しなかったのは許してね。
「じゃあ、最初は私の料理からね!」
内心で謝り倒してたらレイアがそう言うのが聞こえて、私はそっちの方に目を向けた。
出されたのはやっぱりマーボーカレー。
美味しそうな匂いがふわりと香って目を細める。
「美味しそうだね」
「でしょ?我ながら自信作なんだから!」
満足気に笑ってレイアはジュードにマーボーカレーを差し出す。
ジュードもそれを受け取って口を付けた。
「…どう?」
「うん、美味しいよ」
そう言われてレイアはパアァっと顔を輝かせた。
乙女ね…、かわいいなぁ。
「姉さんの料理には負けるけど」
……うん、ジュードは一言余計かな。
今度女の子の前では他の女の話はしないように言っておかないとね…。
「もーっ!そりゃジュードにとってはセレナの料理が一番に決まってるけど、なにも今言わなくてもいいじゃん!」
「…?何怒ってるの?レイアのもちゃんと美味しかったよ。それに、姉さんの料理が美味しいのはレイアだって知ってるでしょ?」
「…ジュード、その辺で黙った方がいいよ」
「??」
…うーん、我が弟ながら鈍感すぎるかな。
ローエンはレイアに同情して目元拭ってるし、アルヴィンなんて苦笑してるもの。
……育て方間違えたかな。
そう遠い目をしてると、エリーゼがプリンパンを持ったまま私の服の袖を遠慮がちにそっと引いた。
かわいい。
「みんな、次はエリーゼが作ったのも食べてみてね」
可愛らしい甘え方をしてきたご褒美にきっかけをあげる。
そしたらローエンがお皿の上から一つプリンパンを持っていって口にした。
ドキドキとエリーゼはそれを期待の目で見つめていて、紳士なローエンならちゃんとエリーゼを褒めてくれるだろうから私も安心してそれを見ていた。
ごくり、と飲み込んでからローエンはにっこりと優しく笑う。
「美味しいですよ」
「セレナが手伝ってくれたから……です」
恥ずかしそうにもじもじする姿は可愛い。
つい低い所にあるその頭を撫でて笑ってしまう。
「私はほとんど何もしてないよ」
「そんなことはないだろう。私もセレナに手伝ってもらった」
満足気なミラに私は曖昧に微笑む。
いや、だってあれは手伝わないと危なかったもの……色々と。
シーフードじゃなくてクラブだもの。
クラブシチューか、新しいね。
そう少し遠い目になっていると、ジュードが興味津々って感じでミラがトレイに乗せてるお皿を見た。
「ミラは何を作ったの?」
「クラブシチュー」
「え?」
「あ…、ううん、何でもないの。ミラはシーフードシチューを作ったんだよ」
「へぇ~!」
…危ない危ない。
口が滑った。
クラブシチューなんて言ったらきっと誰も食べないからね。
ミラも一生懸命作ったんだから、それだけは避けないと。
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